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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
43/81

ep.41 懐かしき記憶とともに

閑話集をここで突っ込んでいくスタイル

 どうしてか、コントローラを握る手に力が籠もる時がある。そういう時はだいたい苦戦していたり、頭に血が上っていたり、……まあ基本的にやられている時だ。


 カチャカチャと、ボタンを押す力も無駄に強くなり、時折舌打ちが漏れることすらある。


「ああもう、なんでだよ!!」


 エル・アリアノーズ強すぎて笑えない。何でこんな北方の小国が、自分の指揮している国よりも食糧を確保して籠城戦をかちこめるのか甚だ疑問しか残らない。


「難易度最高だったから、敵なら最弱だと思ったんだが……詐欺か!!」


 天然の要塞ともされる、エル・アリアノーズ南東に位置する防衛の牙門を、滅ぼしにかかっているところであった。他にもいくつか進入経路はあるものの、例えば明らかに罠の仕掛けやすそうな隘路だったり、橋を新たに作らなければ渡れないような崖があったり……兵士の浪費だけはこちらとてしたくないのだ。ごめん被る。


「っていうのが相手にも分かってるから、ここに兵力割いてるんだろうなぁ。クソ、ゲーム会社め」


 半ばむちゃくちゃな八つ当たりなのは分かっているし、ここまですごいゲームを作れたのだから、会社には感謝しかないのだが……エル・アリアノーズのスペックはバグっているだろう。


「なんだよこのパラメータ。こっちの一番強い魔剣使いでも対軍性能Bだっての。なんだお前。なんだお前A+って。ぺったん幼女め」


 砦を攻めていた我が軍が、横っ腹から突っ込んだ炎の魔剣使いに火炎車にされていた。

 とにかく、あのぺったん幼女を止めないことには意味がない。魔剣戦記でも五指に入る猛将が居て、何でエル・アリアノーズの難易度マックスなんだよ意味不明だ。


「あーもう。あのぺったん幼女、一対一ならそこまで強くはないんだよな。こっちに強力な魔剣使いが居れば良かったんだが、だいたいグルッテルバニアとオルセイス連盟に持ってかれてるからなぁ」


 大陸歴202年。あと一年もあれば攻略できそうなんだが、結局エル・アリアノーズはまた後回しにする必要がありそうだなぁ……。


「201年くらいにひょこっと出てきた……なんだっけ。そう、オルセイス連盟のドルイドとか言う魔剣使いが強すぎるんだよ。今度はあいつをつぶさないといけないか」


 勢力図的には現在、エル・アリアノーズを北端として、その南東に接する形で俺の指揮するメルトルムがある。メルトルムは、東端に位置していた国をぶっつぶしたお陰もあってしっかりと海岸線を確保したから、そこそこ強くなっているはずだ。

 あとは、大陸の西端から南端までを大きく陣取っているグルッテルバニア。それから他三国すべてと接している、大陸の中心である内陸国のオルセイス連盟さえ潰せれば……。


「……必然的に残るエル・アリアノーズ。憎い。エル・アリアノーズが憎い。おのれ」


 あの北端ってポジションがズルい。


 でも、まあ確かに難易度マックスの理由も分からないではないというのが正直なところ。生き残ることはできても、このゲームのクリア条件は天下統一なのだ。

 大国であるグルッテルバニアや、あのライカ級の魔剣使いが三枚も居るオルセイス連盟。そしてまあ、メルトルムを含む大陸東方面の国々をすべてつぶすには力不足すぎるだろう。


「……本気でエル・アリアノーズに勝たせる気あんのか制作側?」


 難易度マックスは、どの程度のものなのだろうか。興味は沸くが、今はとにかくメルトルムで天下統一を目指す。その後で、そうだな。次は絶対にエル・アリアノーズでプレイしよう。


「これ、結局相手の魔剣使いを如何に減らすかにかかってるような気もするんだよな」


 前準備は妙にリアルだが、戦争時における魔剣使いの重要性は他のすべての要素を凌いでいると言ってもいい。兵糧が足りない分、魔剣使いにがんばらせればいい、なんて発想がまかり通るあたり、常軌を逸している。


「……新規武将作成機能とか、あればいいのに。ぼくのかんがえたさいきょーのまけんつかい作ってやる」


 怨念をまき散らしながら、とにかくエル・アリアノーズ相手に敗戦濃厚なこの戦いをどう収めようか頭を抱えていた。


「竜基、食事のようだ」


 渋みのある重い声が和室に響いた。振り返れば、今日もばっちり髪をオールバックに決めた、いかっつい親父様。

 鷹のように鋭いその目つきと、逞しいどころでは済まない容姿で何度となく保護者会や授業参観において女子供を泣かせた猛者。通称ナマハゲ(嘘)。

 ちなみに、本人は睨んだり、ましてや声をかけたことすらないと言うから筋がね入りである。


「んぁ? ああ、親父帰ってたのか」

「今さっきな」


 そんな失礼な思考をしているとは露知らず、親父は俺の隣にどかりと腰掛けて画面を睨んだ。


「負けてるじゃねぇか」

「らいかちゃんつええ」

「なるほど。……しかし、何というか妙な気持ちだな」


 事情は察したようで、親父は両手を後ろについて背筋を伸ばす。そのまま天井を見上げてぽつりとつぶやいた。


「こんな小さな子が戦ってるってのは、どうも、やっぱり好かんな」

「いやまあ、ゲームだし華は必要ってことじゃないの?」


 あ、やべ、そうこう言ってる間にライカちゃんこっちの本陣焼き尽くそうとしてる。空気読めてない。


 コントローラを握ってこの状況をどうにかしようとボタンを押しまくるのだが、現場指令官の号令だけで立ち直れるほど戦場って甘くない。


「俺に娘は居ないから別に言う必要もないと思っていたんだが……もし居たら、みなつのような女に育てたいと思っていたからな」

「うちのお袋は、なんかもうちょっと違う気がする」


 時代が。


「……少なくとも、俺は戦場に女が出ることは納得しないし、もしどうしてもそういうことになったら……死ぬ気でそいつを守るだろうな」

「……男として、って奴?」

「そう、かもな。儚くとも、気丈であるからこそ花は美しいのだと、俺は思う」

「俺が女大将の陣営陥落させようとしてる横でそういうこと言わないでくれないかなー」


 エル・アリアノーズ落としてる最中なんだけどなー。

 あ、ライカちゃん今度はうちの筋肉ムキムキの武官倒しちゃったぞ。おーい。儚い花はどうしたー。


「女大将?」

「あれ? 知らなかったっけ。エル・アリアノーズの大将はアリサ・エル・アリアノーズ。うら若き悲劇の女王って肩書きがあったはず……なにしてんの?」


 説明の途中で親父をみれば、テレビの乗っているローテーブルに上半身突っ込んでいた。

 シュール。

 ……ああ説明書でも探してるのか。


「竜基、お前ちゃんと説明書読んだか?」

「いや、このゲーム説明書無しじゃ何もできないよ?」


 文庫本くらいの厚さあったけど。


 俺の返答に何を思ったのか、ため息を吐きながら親父は説明書片手に隣まで戻ってきた。

 そして、キャラクター紹介のページを開く。


「正直に言え」

「何をさ」

「流し読みしただろう」

「いや、そんなことは……キャラクター紹介は別にいいかとは思ったが」

「軍師失格」

「何を!?」

「……キャラクターは全員敵だと思え。そんな連中の情報を分析せずして、何が軍師だバカタレが」

「その発想はなかった」


 いやまあ確かに……確かに間違ってはいないけど……。


 と思いつつ、突き出された説明書を渋々受け取った。


「……そういやこの子、何で悲劇の女王なんて書いてあるんだ?」

「ちゃんと読め。しっかり下に理由が載っているだろうが」

「下?」


『アリサ・エル・アリアノーズ~うら若き悲劇の女王~』

『若くして救国の為に立ち上がり、自らの育った国を破壊し新たな国を作り上げた少女』


「すごいなこの子。じゃあエル・アリアノーズって新興国なのかよ」


 ほへー、と感心する俺を、胡乱げに見つめてくる親父。何が言いたいのかとアイコンタクトを送れば、指を下に向けてあきれたように呟いた。


「もっと下だ」

「……あ、まだあんのね」


 中央にでかでかとある魔剣戦記のロゴがじゃまをして、説明が中央付近で分断されていることに今気づいた。


『ーーしかしながら革命は半ば失敗に終わり、名ばかりの王冠と引き替えに配下・名声・権力を全て失い、王宮の傀儡として、願いも空しく再度国を危険に晒す』


「いっつそーへびぃ……」

「むしろエル・アリアノーズには降伏勧告の方がいい、ということがわかるだろう?」

「うわ、その発想もえげつねぇ」


 アリサ女王が首を差し出すことを前提に考えてるだろそれ。


「……ずいぶんと酷な話だ。年端もいかぬ少女をこんな目にあわせるとはな」

「ゲームですし、とは言えないところが魔剣戦記クオリティ……笑えね」


 ……あ。


「ライカちゃん一人に壊滅状態いいいいいい!?」

「竜基お前、よそ見のし過ぎだ」

「俺のせいなの!? あれだけ説明書読め言っておいて俺のせいなの!?」


 画面内での戦闘状況がどえらいことになっていて、あわててつかんだコントローラは持ち方が落ち着かない。

 落ち着いて持ち直して、画面の操作に戻ろうとして。


「龍平さん、竜基さん、お夕飯ができたと言ったのですが、どうかなさったのです……か……?」


 ひょっこりふすまから覗いたお袋の表情はずいぶんと困り顔で、ふと気づく。


 そういえば、親父は俺を呼びに来たのだったかと。

 お袋の声に一瞬フリーズした和室。隣あって座る俺と親父の視線が、お袋に向いていた。


 そのお袋は、ゲームプレイ中の俺たち二人の姿を確認すると……なんだかとても寂しそうに俯いて廊下を戻っていこうとする。


「温かいご飯作って……待ってたのにな……」


 去り際にぽつりと呟かれたその言葉は俺たちを慌てさせるには十分で。


 唐突に俺の脳天に走る衝撃。


「みなつを待たせているから早く来いと言っただろう!!」

「ええええええええええええ!? 俺ええええええ!?」


 拳骨を食らった俺を後目にどたどたと駆けていく親父の姿に、いつもの威厳など全くみられない。


「お前!! 待ってくれ、あれは竜基がだな!!」


 うおおおおおおおおおい!!!!


「本当に俺のせいにしてるの!? 情けないぞ親父い!!」


 我慢できずに親父の後ろを追いかける。

 

「黙れ!! みなつに嫌われたら俺はあああ!!」

「ざっけんな息子を盾にするとはそれでも親か!!」

「たまには親孝行をしろ親孝行を!!」

「盛大な母親不孝だよこの現状が!!!!」

「「みなつ(お袋)!! 待ってくれええ!!」





 食堂に至るまでの間、俺たちは年甲斐もなく廊下をひた走っていた。
















 鳥のさえずりというのは、どこの世界の朝でも変わらないらしい。

 ましてや木製の板で窓を塞ぐような作りの城では、いやがおうにもその鳴き声が部屋の中に響きわたるというもので。

 比較的寝起きのいい竜基は、それだけで覚醒するには十分すぎる目覚ましだった。

 上体を起こして、ベッドからでも手の届く窓の雨戸を外す。この地方、この城での生活にはもう慣れたせいか、寒さには耐性がついていた。


「朝、か。……ってことは、夢か」


 昔の、夢。二年も前の、日本で過ごしていた頃の。


 親父は本当にこっちに来ているのだろうか。だとすれば、お袋はどこで何をしているのだろうか。


 そんな疑問は尽きないが、とりあえず目下頭から離れないのは。


「アリサ……」


 あの説明書の内容を、思いがけなくも記憶として取り戻した今だから言える。


 アリサ・エル・アリアノーズは、ほぼ間違いなくアリサ・ル・ドール・アッシアだと。


 救国と称して滅ぼしたのはアッシア王国で……そして。


「全てを失った、傀儡の女王……」


 キャラクター紹介が脳裏によぎる。


 アリサの、心が踏みにじられる、一つの未来。


『私の理想が血の河の果てにあるというのなら、私はいくらでも死体の橋を渡りましょう』


 竜基を配下にしたい、と言った時に切った、啖呵。


『きっと……私にもできるよね?』


 星空の元で決めた、救国の意志。


『これからも、よろしくな』

『うっさい……ば~~か』


 彼女が見せた、様々な表情が蘇る。





 絶対に、史実通りになんかしてやらない。


 俺が居るんだ。


 ……絶対に、最高の結末を迎えて見せる。




 拳を一度握って、竜基はベッドから勢いよく飛び降りた。



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