表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 3
34/81

ep.32 捕虜

 ヒナゲシちゃんのファンイラストを頂きました!!


 みのたのさんありがとうございます!!


 テンションが最高潮であります!!

 プロフィール追加と同時に掲載しますね!

 一つ、息を吐いた。


 敵軍敗走の知らせを聞いたアリサは、自分の心配事が懸念であったことに一度胸をなで下ろして、物見櫓から降りる。とにもかくにも鼓舞の必要がありそうだ。

 八千以上もの敵軍だと知らされて、緊張していた者も多いだろう。出陣前にも発破をかけたが、慰労もそれと同じかそれ以上に大切なことだと分かっていた。


 まだまだ、アリサの胸中では不安材料は存在し続けているのだから。


 この攻城戦は、自らの城に何の被害もなく終えられたように思うかも知れない。だが違う。何もないと見せかけての落とし穴はもう使えないのだ。


 草原の存在は、このアッシアを守る上で一度だけ使える天険だと、竜基の口から聴いていた。平気で一万もの軍を動員してくるエリザ第一王女にも戦慄したが、一度しか使えないこの天然要塞をここで使ってしまったことは、不安を駆り立てるには十分だった。


 とはいえ、このことはアリサと竜基以外知る由もない。

 他のメンバーはただひたすらに竜基を信じており、竜基自身もそれに答えようと今必死で頭を回転させているところだろう。

 だからこそ、アリサも気丈に振舞うことを最優先にした。

 自分に出来ることをまず行う。それはクサカから、そして竜基から教えられたこと。


 まずは、弱みの一切を見せずに前を向き、そして背を伸ばして兵士に安心を与えることが第一だった。


 死者の数は少ない。しかしながら50名ほどは補充の必要がありそうだ。

 七百数十名の部下を訓練場に集め、そして捕虜となった人間を別の個所に固める。竜基の取り計らいで、捕虜の人間にはささやかながらも食糧が分け与えられていた。


 竜基の姿は訓練場にはない。この場はアリサに任せて、彼は戦後の確認をクサカと共に行っていた。

 というのは、今回は敗残兵が多いので、いつまた再結集するかも分からないことと。そして、あのNINJAが帰って来ないことを危惧して、竜基が飛ばした十数名もの斥候の連絡を待っていること。


 情報が無い、という情報が一番何かを予見させるに足りている。


 そう言った竜基の辛そうな表情は、何かを堪え苦悶しているようにも見えた。だが、それは今はおいておこう。

 これから何かがあるかも知れない。アリサとしても思うところは多くあるが、自分に出来ることはまた別のことだ。


 集めた兵士達の前……バルコニーに立つと、兵士達の姿が良く見える。

 彼らがこちらを向いていることを確認して、声を張り上げて鼓舞する。


「諸君!! 今日は大義であった!!」


 もう夜も更け、普段の彼らならば眠い時間であろう。睡眠は竜基の指示で戦の前に取らせたが、それと夜中にも活動できるかというのは、違う。

 この街の人間は基本早寝早起きなのだ。


 それでもアリサの声に歓声を送り、彼らは槍を振り上げて勝利を祝う。

 これから祝勝の酒宴と行きたいところではあるが、竜基の斥候の連絡を待ちたいと思う自分が居た。

 何せ、胸騒ぎはまだ終わっていないのだから。

 このざわめきは何と言うか、背後から忍び寄る何かから浴びせられるプレッシャーのようなものに似ている。

 自分は何か忘れているのではないか。何とは分からないが、背後に見られているような気がする。

 そんな、自分の胸にある空虚が何かを訴えるような、さざめき。


 だからこそ、慰労を口にしながらも、まだ兵士達を休ませる訳にはいかない。せめて、せめて。竜基の口から「大丈夫だよ」と言われるまでは。


(リューキ……)


 彼には言えなかった。不安で仕方のない中、唯一全てを打ち明けられる彼には。忙しさで奔走し、結局火計を使うか最後まで悩んでいた彼には。自分の、存在も疑わしいような不安を打ち明けられるような状況ではなかった。


 でも、言ってしまった方が竜基も楽だったのかも知れない、と思うと難しい。これについては今度、ちゃんと竜基と話すべきだと考えた。


「――だがまだ、安心は出来ない! 我々の勝利だと叫びたい気持ちは分かる。しかし待って欲しい。今はまだ、戦いは終わっていない。北アッシアを守ろうとする勇気ある諸君には、胸の中にある勝利を、かみ砕き、飲みこんでもらって……改めてまた鬨を挙げよう。それまで、ゆっくりと休んでいて欲しい」


 それだけ言うと、アリサは踵を返してバルコニーを離れる。訓練場の兵士達はアリサの姿が消えたのち、困惑する者こそ少なかったが、一仕事を終えて勝利を噛みしめられないという微妙な感覚にざわめいていた。

 だが、しばらくすると落ち着いたようで。訓練場内での警戒は敷かれたまま、各々がゆっくりと休みを取り始めた。


 アリサの仕事は、まだ終わっては居ないのだ。

 グリアッドを連れだって、廊下を歩く。目指すは地下牢。今回クサカが捕えた、ある男に会うためだ。


「久々のご対面よ」

「あ~ちゃん、気を付けてね」

「武装は全て解除して、ほぼ丸裸の状態にしてあるわ。……そこまでするつもりは無かったのだけれど、リューキが、万が一アリサに何かあっても、って」


 心配性よね。と、小さくアリサは微笑んだ。グリアッドも、竜基のそういった考えに苦笑する。

 自分の主を本当に大切に思っているようで、何より。そして、年頃の少女のように笑う主に、複雑ながらも心が温まった。


 廊下を歩む二人の間で交わされる会話は、グリアッドの配慮か軽いものになっていた。


 階段を下りる。地下に続くと言うだけあって、どうにもカビ臭く湿気が強い。アリサは自分の髪に触れ、少し嫌な顔をした。

 靴底から、階段の湿気が浸み込んでこないかと、要らぬ不安までしてしまうほどには、地下というのは好きではない。


 どこかの姉と違って、ほいほい人間を地下牢に放りこみはしないのだから当然と言えば当然であったが。


「エリザは地下大好きだから」

「大好きな訳ではないと思うよ!?」


 ポツリと呟いたアリサの台詞にグリアッドは突っ込む。どんなに憎んでいるとはいえ実の姉に、随分な評価だったことは間違いない。


 さて。


 地下牢の入り口に到達すると、グリアッドは鍵を持ち出してその青銅の扉に差し込んだ。錆びついた蝶番が、パラパラと褐変した部分を剥がしながら開く。


 年季が入っている。もうそろそろ整備をしなければならないと考えながらも、足を踏み入れた。


「久しぶり、かしら。リッカルド」

「呼び捨てか。随分と偉くなったものだな」


 両手を後ろで縛られ、パンツだけのほぼ全裸の状態で一人の青年がそこに居た。


「っぷぷ」

「……おい配下のしつけはどうした。笑ってるぞそこの短髪」

「笑いものだから仕方ないと思うわ、わたし」

「おい!!!」


 羞恥心で顔を赤くしたリッカルドを、鼻であしらうアリサ。

 グリアッドも元々は聞いていたが、随分とこの兄妹間の仲も悪かったらしい。どちらかといえば、リッカルドが一方的に見下していたそうだが。


「一国の王子に対してこの仕打ち……許しはせんぞ……」

「王子にしては貧相な……お召し物で……っぷぷ……」

「お前の部下最悪じゃないか!! 黙らせろ!!」


 背後のグリアッドの呟きが、リッカルドには耳障りで仕方ない。

 だが元々この程度の無礼は許しているアリサだったから、特に注意するようすも無かった。


「じゃあちょっと真面目な話をするから待ってて、グリアッド」

「了解あ~ちゃん」

「あ~ちゃん!?」

「……この呼び方については私も納得いってないけど」


 仮にも第二王女に対する呼び方ではない。だがそれにも慣れてしまっているようで、リッカルドは色々とカルチャーショックを受けていた。


「パンイチ王子に何を聴くの?」

「パンイチにしたのは貴様らだろうが!!」

「パンイチ王子には、自分の知ってることを色々聞くのよ」

「アリサまでパンイチと呼ぶか!! この僕を!!」


 苛立ちを最高潮にするリッカルドを、いまいち意識しているのかさえ分からないアリサ主従。

 ここまで無礼な態度を取られたことすら殆ど無かったリッカルドとしては、我慢のならない仕打ちであった。


「パンイ……リッカルド」

「パンイチって呼ぼうとしたな!? 今パンイチって呼ぼうとしたな!?」

「どうにも軍師のリューキと部下のヒナゲシのせいで、人を弄る癖が……」

「お前の配下揃って酷い!?」


 アリサ軍どうなってるんだ……と頭を抱えるリッカルドは、ふと顔を上げてグリアッドの存在が消えていることに気付く。


「おいさっきの無礼な部下どこに消えた」

「今ちょっと、取りに行かせているものがあるから。……さて、おふざけはこの辺にしましょうか」

「全部お前らだけどね!?」


 パンイチ王子の叫びなどどこ吹く風。アリサは一転して真面目な表情になり、彼を視線で射抜く。


「……貴方が来たにしても、随分とお粗末な行軍だったわね。何がしたかったの?」

「……なるほど、僕を生かした理由はそれか」

「情報すら聞き出せなかったら、アンタをこのままにして市街練り歩くわ」

「殺して!! いっそ殺して!!」

「本当に?」

「嘘に決まってるだろう!!」


 ため息を吐いたリッカルドは、小さく言葉を発する。


「僕は、王太子だぞ」

「知ってるわ。アッシア王家唯一の男児。継承権も持ってるわよね」

「……でも今は、国全体が狂ってるんだ。僕は、お前もろとも、全てを葬りたかった」

「……それで攻めてきたにしてはお粗末よね、って話なのだけれど」

「こうなったら仕方がないから、お前を潰すつもりだった」

「仕方がない……ねぇ」


 リッカルドの顔を見れば、嘘を吐いている様子は無かった。

 元々、彼は王位を継ごうとする際に障害になるであろうエリザとアリサを潰したい、とは考えていたのだろう。大義名分があれば、当然エリザ、アリサを潰しにかかるつもりだったはずだ。


「王都の内情を話す気にはならないの?」

「……」

「まあ、リッカルドの気持ちは読めるわね。今までの態度がバカみたいにわかりやすいから」


 肩を竦めた。アリサにとっても、彼の今までから状況をある程度予測するのは難しくない。

 つまるところ、この男はどこまでもバカなのだ。

 おそらくエリザの掌の上で踊らされている。そして、踊らされていることも気に食わないから話すこともプライドが許さない。

 そして何より妹のアリサに、メンツを丸々潰されるような敗北を喫したことも面白くない。


 死が差し迫っていることにも、気づかないようだ。


「兄妹の情ってあると思う?」

「は? アリサお前急に何を……」

「お待たせだよあ~ちゃん」


 声がした。入口を見れば、そこにはいつの間にか居なくなっていたグリアッド。手には、何かを持っている。


「温室育ちのリッカルドには分からないかも知れないけど、私はこの国を奪い取るのに本気なの。貴方の甘いプライドなんかに付き合ってる暇はないわ」

「それは、なんだ」

「ラジオペンチ、っていう、うちの軍師が作ったもの」


 アリサの紹介に与ったその工具のようなものは、グリアッドの手の中でカチカチと音を鳴らしている。さながら鋏のようなものだった。


「アリサ……それはどういう……」

「今から貴方にするのは、質問ではなく拷問ってことよ」

「ちょっと待て!! 一国の王子にそんなことをしていいと思っているのか!!」

「……あら、私だって王女だわ。対等じゃない」


 朗らかに笑うアリサの瞳は、笑っていない。そのくらいの機微には、リッカルドとて嫌でも気づく。


「お、お前……その軍師とやらが開発したそれはどうやって使うんだ……」


 拷問と言えば、棘のついた棒や鞭が主流のこの国において、その訳の分からない工具を持ち出したアリサに困惑せざるを得なかった。


「ん~、正規の用途は別にあるみたいで、私が拷問に使おうって言ったらリューキ泣いちゃったんだけど」

「泣いちゃったの!?」

「『そんなことに使うんじゃないんだ!もっとクリエイティブな道具なんだ!』とか言ってたわね。クリエイティブが何かは分からないけれど」

「……どうやって使うんだそれは」


 ごくり、と生唾を飲みこむリッカルドに、グリアッドがパチパチとその道具を動かしながら指を立てた。


「ん~、とりあえず爪を剥がしたり」

「爪を剥がす!?」

「歯を引っこ抜いたり」

「歯を引っこ抜く!?」

「でも一番効果的なのは……」


 恐ろしい発想をしやがる!! と戦慄した。リッカルドの考え得る拷問とは全く違う、されど莫大な痛みが伴うことは今から想像するのも簡単なくらいの恐怖。

 それも、一番効果的なものはまだ言っていないと来た。

 だらだらと冷や汗を流す彼にも全く配慮をすることなく、グリアッドはアリサへとちらりと目を向けた。

 誘導されるように、ギギギとリッカルドもアリサを見る。


 すると彼女はとても楽しそうに、王女の風格を魅せるような微笑みを湛えながら、無表情の瞳で口を開いた。



「――きん○ま潰す」

「謹んで全て喋らせていただきます!!!!!!!」






 パンイチ王子が土下座した。

今回書いてて楽しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ