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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 3
30/81

ep.28 軍議、そして切られた火蓋

活動報告にて、僕となろうとネット事情 という週刊ブログまがいのことを始めております。

【先週の魔剣戦記】

【僕のおすすめなろう小説】

【魔剣戦記をより楽しんでもらうために】

【感想倍返し】


 などなど、魔剣戦記の読者さんを最優先に色々書いておりますので、よろしければご一読いただけると嬉しいです。

 エル・アリアノーズ戦記、と呼ばれる一連の流れの中で、国盗りが始まるのは196年の秋のこと。しかしながらその幕開けは、天才軍師と謳われたリューキを伴う仁君アリサの進撃ではなく、アッシア王都からの襲撃であった。


           エル・アリアノーズ戦記より抜粋





 心地の良い秋晴れだった。

 この世界に存在する季節は、そこまで起伏のあるものではないが。それでも大陸北端に位置するアッシアの、それも地方分類で“北”と名のつくこの地域では、存外秋晴れというのは清々しいものだ。実りの稲穂が大地にさざめき、空は雲一つなく、鳥たちが楽しそうに空を舞っている。

 風の調べを耳に届かせて、大きく息を吸った。

 北アッシアの外門の、その見張り台ともいうべき門上通路。そこから見る景色は、刈り時の稲穂に揺れた美しいものであった。


「……こんな美しい景色が見られたことが……儂の生涯の誇りだろうて」


 小さく、うなづいた。

 アリサを連れ立って飛び出した王都。そこには自然の恵みなど、ほとんど残っていなかった。あるのは搾取されるためだけに存在する灰色の労働と、そしてわずかに手元に残った、雑穀と呼べるかどうかも分からないような糧。それを天の恵みと崇める人々。


 違う、と思ったのはいつだっただろう。きっと、自我を自覚したその瞬間その時だ。

 記憶がない、自らが居る。

 そのことを自覚したと同時にこの国が間違っているとも同時に悟った。だからこそあの腐海にあって唯一美しい心を持った彼女とともに、この世界に誓ったのだ。


 優しい国を作ろう、と。


 稲穂のさざめきが、波を打つように大地を舞う。金色が日光に照らされて風に煽られ、耳に心地いい旋律を奏でていた。

 ふぅ、と息をつく。

 自分たちだけではない。今この城に、この北アッシアに息づく者たちすべての結晶がこの風景なのだ。

 城壁の上に立っていると、よくわかる。外に稲穂の美しい景色があると同時に、内には暖かな人の営みが存在しているということが。

 同時に、決意すべきことがある。


 決して、この美しき諸々を破壊させてはならない、と。


「……そのために儂が居る」


 城下町の、そのまた中心。内門のその向こうにある、主の住まう本拠に目を向ける。

 思い浮かべるのは、若き精鋭たち。

 鉢巻姿の眩しい、北アッシア……否アッシア最強の魔剣使い。

 気だるげながらも仕事は流麗にこなす若頭。

 年端もいかないながら、気丈な意思を持つもう一人の魔剣使い。

 主が頭脳と認めた、若き賢者。業を背負い、そして前を向く強き少年。

 自分の娘のような、か弱くも気高い不屈の少女。


 そして。


 胸を張って最高といえる、心美しき我が主君。


 守らなければならない。

 この若い世代を、自分が一番に守らなければならない。誰もが次の世代に必要で、不可欠で。これからのアッシアを、世界を背負っていく者たちだ。

 だからこそ、守らなければならないのだ。


 自分は? と聞かれたらこう答えよう。もう、自分がなすべきお膳立てはここまでだ、と。今は幼い彼らだが、きっとアッシアを手に入れた暁には、自分が必要ないくらいに成長しているだろう。

 それに。


「……隠居でもして、お前らの雄姿を見届けたいとも思うのだ」

「ずいぶんと老けたなクサカさんよ」

「……! グリアッド。お前いつから」


 見張りの兵士だけが等間隔で立つだけの、外門上見張り台。そんな場所で聞こえた見知った声に、あわててクサカは振り向いた。

 すると、ずいぶんと器用に。物見櫓のその屋根の上で、昼寝しているアホのシルエットが映っていた。


「よっと」


 高さもそこそこにある櫓から、門上通路に飛び降りるグリアッド。クサカのいるこの通路とて、北アッシア城下町が一望できるような高さなのだ。どれだけ高いところに上っていたのかと、クサカはため息を一つついた。


「辛気くさいこと言ってるねぇ。……僕も人のこと言えないけどさ。リューキもあ~ちゃんもまだ若い。あんたの力が必要だよ」


 通路の柵に両手をつき、城下町を眺めながらグリアッドはそう言った。

 その瞳は、いつものように眠そうで。それでいて、少しさびしげだった。


「……元は、アンタが居たから出来上がってる組織だ。あ~ちゃんの悲願は国獲りじゃない。優しい国を作ることだ。……そこまで付き合ってこその老将ってもんだろうと、僕は思うけどね~」

「……若造が」


 鼻を鳴らして、クサカは空を見上げた。

 明るく、青く。雲一つない青空は、希望を持つことは多くできよう。だが、そこにしるべはない。


「そりゃ僕、クサカさんほど老けてないし」

「老将を語りよって。……確かに、儂はまだまだ国を支えた老将とは言えんな……」

「何笑ってんだか」


 はっはっは、と笑いだしたクサカに、グリアッドも口元を少し緩めて。小さく肩をすくめた。


「まぁ……なんにせよ」


 一通り、通る声で豪快に笑ったクサカは、一つ間をおいてから口を開く。

 その瞳は、先ほどの優しいものとは違う、貫録のある鋭い瞳。


「王都を……国を獲ってからの話だがな」

「そりゃ僕も同感かな」


「「アリサ王女の願いのために」」


















 会議室と銘打たれた一室。

 日も暮れかけたこの時間帯に、最後の一人がやってきた。


「避難勧告にどうしてこんなに時間かかるかな。そんなにわめくんだったら一人戦火に巻かれて死んでなよ」


 ぶつくさと文句を言いつつ会議室に入ってきたのは雛罌粟その人。発令された避難命令の、市民誘導を行っていた関係で最後になったのである。


「遅くなりました。雛罌粟戻りました」

「ありがと。じゃあそろそろはじめましょうか」


 上座に座る北アッシア軍の主が、にっこり笑ってそう言った。


 アリサを中央上座に、左右を竜基とクサカで固める。グリアッド、ガイアス、ライカ。そして雛罌粟。北アッシアの主要メンバーが、会議室に出揃った。


「ヒナゲシは初めてかしら。戦争の会議は」

「大丈夫。僕も一応、ギースさんの下で動いてた人間だよ」

「なら、よかった。……リューキ、始めて」

「了解した」


 雛罌粟の着席を見届けたアリサが、すぐ下座にいる竜基に声をかけた。一つ頷くと、目の前にある長いテーブルに地図を広げる。その地図は北アッシア城周辺五十里、と言ったあたりを網羅した地図だった。


「クサカたち軍部がしっかり調べてくれたおかげで、かなり最新の地形図にもなってる地図だ。安心してほしい。……で、本題だが。……ついに王都が、アリサを討伐する動きを見せた。こちらから動くまでは進軍はない、と踏んでいたんだが……裏を突かれたらしい」


 竜基の言葉に、周囲に居たメンバーの表情も強張る。


「王都以外の各地域からの動きはまだない。……逆賊の汚名を着せておいて、王都よりのみの進軍というのが正直不気味だが、今は目の前の敵に対処するしかないな」


 ふぅ、と一息吐いて、竜基は思う。

 続くこの言葉に、皆がどのような反応をするのか。それが分からない現状、不安が募る。


「……王軍がこちらへ進軍中だ。その数、一万弱」

「……へぇ?」


 その数字に、もっとどよめくかと思いきや。反応したのはガイアスのみ。それも、口元を釣り上げる好戦的な笑みだった。

 そんな、最初から高い士気にアリサは微笑む。竜基に続けるよう目で合図すると、一人悠然と会議室全体を見守る体勢に入った。

 竜基も、思った以上に士気の高いメンバーに小さく微笑んだ。

 この様子なら、やれる、と。


「……さて、続けようか。我が軍は計八百しか用意できない状況だ。これで如何にして状況を覆すか、という話だが、忘れてはいけないことがある。……だろう? ガイアス」

「はっはっは!」

「いって!?」


 唐突に隣にいた少女――ライカと肩を組むガイアス。獰猛な笑みを浮かべながら、親指を突き立てた。ライカも一瞬わけがわからないような顔をしていたが、すぐに神妙な顔つきで竜基を見た。

 そんな彼らに、うなづく。

「……そう、魔剣使いの存在だ。……一騎当千、ともいえるお前らが居ることをうまく利用できなければ、俺は軍師失格だな。……ってことで、俺の考えた作戦を説明する」


 すっと指を地図に下した挙動に、その場にいた全員がテーブルを覗き込む。


「向こうの一万弱の軍隊は、そのまま草原を直進するように進軍してくる。南東から、この北西にある北アッシア城に向けてな。これは商人たちもよく使うルートだ。よって、歩きやすく、また疲弊も軽い」


 つつつ、と進軍ルートを指でなぞる。そして、簡単に北アッシア城までたどり着いてしまった。


「まあ本来、寡兵で守る以上は打って出ることなんざできやしないんだが……俺はこの戦、負ける気はしていない。というか今回の目的は敵将の捕縛だといってもいい」

「……ずいぶんな自信だなリューキ……だいじょーぶなのか?」

「お前らが居るしな」

「……へへ、そっか!」


 鼻の下をこするライカに一つ笑みを向けてから、竜基はもう一度地図を見た。


「一万弱の軍隊、とは言ったが、向こうさんのネックはどう考えても兵糧だということはわかるな? 俺としては、後続隊でも仕掛けてあるのかと思ったが、その様子もないそうだ。……そこで密偵を送ったところ、向こうの大将はリッカルド・フラル・アッシア……アリサに聞けば、そこまで優秀な将ではないとのこと。というわけで、あらいざらい王都のことでも吐いてもらおうか」


 具体的な作戦の説明に移るぞ?


 その一言に、待ってましたとばかりにガイアスが笑う。


「後続隊の様子がないのであれば、こちらも魔剣使いを温存する必要もない。全力でつぶしにかかる。……行軍の時間と到着までの時間を図ったところ、おそらく野営をするのは草原の中。残念ながら、効果的な焼き討ちはできない……ように一見思える」

「……草原とは言っても、そこまで草の丈も高くないところよ?」

「だろうな。……ちなみに雛罌粟、今あいつらが最も欲しているものはなんだと思う?」

「大将はアリサの首がほしいんだろうけど、兵士は食糧とか金品の類だろうね。情報を見る限り、あまりにも悪政が過ぎる」

「そういうことだ」


 竹簡を手にそう答える雛罌粟に、竜基はうなづいた。


「相手は食糧がほしい。そこを利用してずたずたにしてやる。……まず雛罌粟は、工作隊百を率いて下準備をしてほしい。その内容はあとで伝えよう」

「分かったよ」

「ライカは、後で情報を仕入れるけれど、“とある位置”から突入してもらいたい。ガイアスに関しても同じだ。“とある角度”からの突貫をしてもらおう」

「任せろリューキ! ぜったい、成功させてやる!」

「暴れられるなら俺はどこでも構わない!!」

「魔剣使いが居なければ成功しない作戦だ、期待してるよ……さて、クサカ。クサカには四百を率いて側面から当たってもらいたい。うまく兵を殺さず、同士討ちを誘発するんだ」


 にやりとあくどい笑みを浮かべて言った竜基に対して、クサカはひとつ首を傾げ……ひらめいたように問いかけた。


「……同士討ち? ……リューキ、この作戦はもしや、夜戦か!?」

「……あ、すまん言い忘れてた。夜戦だよ。ってか、その様子だともう作戦の全容が分かったみたいだな」

「……儂を誰だと思っちょる。……なるほどな、軍師も悪い奴だ」


 二人がにやにやと笑い始めたことに対し、ほかのメンバーは疑問符を浮かべていた。


「で、残るグリアッドはアリサの護衛。アリサは残る兵……工作を終わらせた雛罌粟の兵士も合流させて、四百でもって待機。この部隊の動きは臨機応変に対応する」

「……分かったわ」

「了解した。命に代えてもあ~ちゃんは守るよ」


 全員に、竜基はうなづく。


「よし、これで万全だ。……アリサ」

「……みんな、健闘を祈るわ。生きて、帰ってきて」



 アリサの一言に、全員が力強くうなづいた。




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