ep.1 異界への片道切符
今日中に第一章投下します。少しでも面白そうだと思っていただけましたら、そっとお気に入りの端に加えていただけると、作者のモチベが上がります(笑)
親父がゲームを買ってきた。あの親父がだ。
俺の家は自慢じゃないが、とても古風である。
親父は自衛隊でかなりのキャリアを持っており、確か現在海将。
そんな親父に嫁入りした母は親父を支えることを第一と考えた淑やかな女性。
そこに、息子の俺。
俺は小さなころから親父に教育を受けてきた。
親父は俺を、自衛隊に入れることを目標にしていたらしい。
武術に適正が無く、鬼のようにしごかれていたこともあった。何故俺の息子なのにここまで何も出来ない、と、叱られたことも多かった。
だが。
それは俺の適正が別のことに特化していたからだったようだ。
親父が食事中に話す軍略の話に、それはもう食いついた。楽しくて仕方がなかった。
その時親父は、「まあなんだかんだ言って俺の息子か」と、珍しく口元を緩ませていたように記憶している。
翌日にはどこから持ってきたのか、六韜、三略、孫子兵法と言った兵法書から、九州春秋、殷周易姓革命、高句麗戦記などの戦記を俺に手渡して、好きなだけ読め、とそれだけ言った。
のめり込んだ。
歴史をなぞるように語れる自信があるほどに、俺はその書物を読みふけった。
「なんでアジア圏ばかり?」
夕食の席でそう問うた、翌日には俺の机にナポレオン伝やルーマニア戦記などの欧州戦記ものが積まれていて苦笑したのもいい思い出。
さて、そんな軍略被れの軍師もどきになってしまった俺。
外で友人たちと遊ぶ時も、散々に策を巡らせることが多く。小学生にして付いたあだ名が参謀であった。
……小学生に付けるあだ名でも、小学生が付けるあだ名でもないと思う。
そんな軍師だか参謀だか幕僚だか分からないような俺は、歴史シミュレーションゲームにも嵌った。
家でテレビを使うなど世界情勢を見る時ぐらいのものだったので、専らゲームはポータブルである。
やれここでこの武将を……だの、やれそこに伏兵を、だの……とても楽しんでいた。
本題に戻ろう。
俺が十五歳になり、高校へ入学を決めた直後のことである。
親父がゲームを買ってきた。
厳格で、この世で最もゲームが似合いそうにない男が、だ。
ご丁寧に据え置き用のハードとコントローラなどもまとめて買ってきたのだ。
「同僚も相当嵌っているようでな」
とにかくやれ、と強要されたのだと言う。
苦虫を噛み潰したような顔で、そう愚痴っていた。
この家に、機械に精通した人間など居ない。
母や俺も四苦八苦して、古いテレビの説明書を引っ張り出し、あれやこれやで数時間。
ゲームが起動したのは、その日が終わるころだった。
「魔剣戦記、っていうのか」
「お前が持っている戦略ゲーム? というのと同じらしい」
居間で、久しぶりに家族が勢ぞろいしてテレビを眺めるという光景が出来上がっていた。
これの一つ前はおそらく、幼少の俺に教育番組を見せた時だと思われる。
親父がコントローラを握ることを拒絶したので、俺が操作を担当する。
男二人がテレビの前で胡坐をかいているのを、母は上品に笑って後ろから眺めていた。
さて、プレイ開始だ。
このゲームは、異世界軍事シミュレーションゲームだそうだ。
主人公は軍師となり、強い武官を雇ったり、兵士を募ったり、領地を潤したり、戦争をしたりと……まあ良く見る戦略ゲームであった。
だが、自由度が異常、そしてリアリティが極限まで追求されていた。
兵器一つ作るにも、主人公が素材から全てカスタマイズ。投石機の設計図を作るだけで時間がかかり、開発費用はやはりというか、政略の中で一番国庫を食い潰す。
さらに疫病やフライ(これはおそらく、歴史系のイナゴと同じ)の襲来、洪水や火災の被害もかなりリアル。死者の他にも行方不明者や重傷者軽傷者など区分けされており、軍師の采配一つで国の人口が変動する。
やめて欲しいのはCGさえも現実染みていることで。戦争や疫病のムービーを見るだけで、一般人である俺と母は吐いた。
親父の言いつけで、母はすぐに寝た。
「……親父、これ面白い」
「……かなり、現実的だな」
この完成度には、現役将校も舌を巻くらしい。同僚が進めてきたのも頷けると呟いていた。
……このゲームには、もう一つ面白い要素が含まれていた。
魔剣使い
これが、魔剣戦記を魔剣戦記たるものとしているユニーク要素。
……はっきり言えば、歴史シミュレーションゲームに無双キャラが参入してきたような、酷い化け物どもだ。
魔剣使いが居るのと居ないのでは、戦力差が違い過ぎる。
初めて敵に魔剣使いが登場した時の俺と親父の表情は、多分端から見れば笑いものだっただろう。圧倒的過ぎた。
魔剣、と呼ばれる、様々な武器。それを使役することで人間ならざる動きが出来る、とのことであったが、一般人には使えない。
恐るべき力を持つ魔剣を、魔剣使い(ら)が使役することで真価を発揮するシステムだ。
ちなみに、魔剣は大地を割ったりできる。チートである。戦術級武器である。
如何にして魔剣使いを登用し、自分の国の力とするか。そこも腐心する要素だった。
が、それだけに固執しても居られない。
最初に指定した所属国にも依るが、内政にも力を入れなければならないのだ。
酷いところだと千刃扱きから作る必要がある。……あ、もっと酷いので穀物が育たないほどの土壌とかもあった。
兵士は騎兵一連単位から千騎長……ケントゥリオを任命する必要が出てくるし、正直もう凄まじいまでにやりこみ要素が果てしない。一つの国を操っている、その感覚を如実に味わえるゲームだった。
「あら、龍平さん、竜基さん? おはようございます」
「「……おはよう、ございます」」
どうも、朝まで親父と熱中していたようだ。起きだしてきた母を見て、俺と親父はその事実にようやく気付く。
だと言うのに、まだプレイしているのは初年度冬……第四フェイズでしかなかった。
「魔剣戦記?」
「ああ。あれは面白いぞ」
魔剣戦記をプレイし始めて早くも一週間が経った。
中学校で過ごすのも残りわずか。俺は友人と、休み時間の歓談に興じていた。
「なんか凄い鬼畜ゲーって叩かれてるけどな……そんなに面白い?」
「……まあ鬼畜であることは間違いない。親父とか、本職の軍人がどハマりしてる」
「なるほど。そりゃ我らが参謀も気に入るわけだ」
ケラケラと笑う目の前の友人に、俺も苦笑で返した。確かに、軍略とかを全く知らない人がプレイしたところであのゲームのクリアには漕ぎつけられないだろう。
さて、どうしようか。帰ったらあの城に防衛兵器を……いや、それよりも地下からの潜入を察知する道具を設置するのが先か? しかしあの地形なら……
「――おい参謀! 竜基! 南雲竜基!」
「あ?」
「あじゃねぇよ。ボーっとして。お前寝てないのか?」
「嵌りすぎててなぁ」
「……いやそれは良いけどよ。最近、神隠しってのがあるらしいから気を付けろよ?」
「神隠し?」
友人の話によると、最近行方不明者が続出しているらしい。共通点は未だ見つからず、割と巷で騒ぎになっているようだ。
「へー、知らなかった」
「お前、ホントそういうこと知らないよな。ニュース見ろよ」
「ニュースは世界情勢しか興味ないな。あ、あと日本の軍事経済」
「筋金入り過ぎて笑えねぇ……」
呆れたように目を逸らす友人だが、正直俺に取ってはあまり興味の無いことには変わりがない。
どちらにしろ学校が終われば、もう部活も無いわけだから自宅へ直行だし、その道中で襲われることもないだろう。
それに、この街でそれが起きたのも一件だけだと言う話だ。そんな確率に引っ掛かるはずもない。
最悪、一般人よりは体術的な面で優れていることもあるし、何とか出来る。
「ま、お前も気をつけろよ」
「お互いな」
そんな風にして、休み時間は終わった。
「親父最近帰ってくるの早くないか?」
「そんなことよりどうなっている?」
「……ゲームするために帰ってきただろ? 図星だろ?」
「報告しろ」
午後六時。俺が居間でゲームを始めて一時間と少し。親父は帰宅して御袋と会話を少し交わすが早いかこちらへ直行してきた。
完全に嵌ってるよな。いやまあ俺もだが。
「龍平さんも竜基さんも、ほどほどにしてくださいね?」
「「了解」」
俺たちの背中を見て、楽しそうに御袋は去っていった。
「現在エル・アリアノーズ軍相手に苦戦中。アイツら国土狭いクセに北端だから戦力の割り振りが異常にやりやすいみたいだ。軍の結束も固いし、おまけに魔剣使いが二枚」
「兵糧攻めだろう」
「俺もそう思って取り囲んでるんだが……焼き討ちは失敗した。ついでに桟道が狭すぎて上手く侵攻出来ない。どこの蜀だ」
「……持久戦なら勝てるだろうが、今年は不作か。だったら竜基、こちらの魔剣使いで三方攻めで行けるんじゃないか?」
「無理だな。どうも向こうさん崖の上に陣取ってやがる。この状態で攻め込めば被害は甚大。地の利も向こうにあるから、下手すりゃ水攻めに遭う」
「……ここ攻めるのは早計だったんじゃないか?」
「逆に遅すぎたきらいもあるな……ちっぽけな領土しかなかったし、蓄えには苦戦しただろうから、あ。……そうか」
「よし、一旦退け」
「分かってる……浪打の陣だ」
ニヤリと、二人で笑う。この頃、親父相手に対等な軍略の話が出来るようになってきたのが嬉しくて仕方がない。
ちなみに今の会話、結局は彼らの疲労を待つために何度も小さな戦を仕掛ける嫌がらせ作戦だ。こちらは大国、国庫が同様に減っていこうと被害は向こうの比ではない。
いずれ疲弊したところを食い潰すだけの簡単なお仕事をしよう、という魂胆だ。
現在三年目。
何故かはわからないが、この魔剣戦記は人口の回復が早い。おかげで短期間での軍の再生が可能なのが有難い。既に俺たちは三国を落とした大国へと成長し、後は現在交戦中のエル・アリアノーズと、もう一つの大国であるグルッテルバニアを落とせば統一出来る。
「貿易のほうも順調だし、この冬は容易に越せる。傭兵団を組織してあるから戦闘面でも問題ないな」
「竜基、油断はするな」
「分かってるさ。勝てる、と思った時が一番足元をすくわれる。前例はいくらでも見てきた」
「フフ」
親父が、小さく笑った。
俺も、成長してきたという自負はあるしな……しっかし、やっぱ相変わらずこのリアルな戦争ムービーだけは苦手だなぁ。吐くまでには至らなくなってきたけど、日本人として人殺しへの抵抗は拭えない。
「戦争の映像には慣れないか?」
「ああ。ムリ」
「……その感覚を大事にしろ」
「なんでさ。邪魔なだけだろ戦う上で」
「……人として大切なものが、お前の中にちゃんとある証拠だ。お前がこの先自衛隊に入ろうと、戦争になろうと。人を殺すということの意味をしっかり考えておけ」
「……道徳の授業みたいだな。俺の嫌いな」
「フン。いやでも理解するときがくる」
「分かった分かった」
慣れなきゃいけないんじゃないのか?
その辺の感覚が、俺には分からない。……ああああ!?
「クソが! グルッテルバニアと通じてやがった! 浪打の陣を喰らったのはこっちだってのかチクショウ!」
「落ち着け。司令官がそれでどうする」
「……ふぅ。サンキュー親父。とりあえずエル・アリアノーズは後回しにするしかないな。それを狙われたような気もするけど、今回は敗北を認めないと。ここで小国を落とそうと躍起になるのはバカの所業だ」
クソ、巧いことやられたな。敵のAIも正確じゃないか。
グルッテルバニアの侵攻を抑える。今はこれしかないだろう。
「むしろグルッテルバニアは力押しが多いからな、やりやすい」
「頭の回転は速いようで安心した。もしエル・アリアノーズに固執するようなら殴ってたぞ」
「……良かった」
トイレでケータイを弄る。ネットに接続、というのはしたことが無かったが、友人の教えで何とか扱えるようになった。
閲覧するのは勿論、魔剣戦記の攻略サイト。
攻略本ではなく、ネットサイトでプレイヤーが相互教え合うというのは中々面白く。
俺も良くインするようになっていた。
【鬼畜】魔剣戦記攻略スレPart4【クリアできる気がしない】
223:無名の軍師 01/22/18:30
エル・アリアノーズ強すぎワロタ。小国のクセにありえない
224:あいら 01/22/18:43
エルアリ軍は大将が可愛いので放置
225:ゲコ太 01/22/18:58
誰だっけ?
226:Iロリ 01/22/19:03
アリサたん
227:あいら 01/22/19:10
可愛いよね!? 銀髪ボブカットとかもう……(フラッ
228:無名の軍師 01/22/19:22
お前ら聞いてよ
229:Iロリ 01/22/19:38
アリサたんprpr
230:あいら 01/22/19:40
アリサたんprpr
231:無名の軍師 01/22/19:45
あかん、今日頼れる人居らん
232:志村 01/22/19:52
どうしたの?
233:無名の軍師 01/22/20:00
志村さん! エルアリ倒せない助けて
234:志村 01/22/20:12
エルアリは化け物。勝てない。あ、でも
235:無名の軍師 01/22/20:12
でも!?
236:志村 01/22/20:14
レス早!? でも参謀サンさんだったら倒せると思われ
237:あいら 01/22/20:20
出た、参謀サンさん
238:無名の軍師 01/22/20:32
誰それ?
239:Iロリ 01/22/20:38
ここに一度だけ来て爆弾落としまくった人
240:匿名 01/22/20:45
アレ制作会社の人間だろjk
241:あいら 01/22/20:49
あの人の情報のおかげでグルッテルバニアから初めて領土奪った
情報参照http/makenwars.com/talkside/232lk/
【リアル戦争】魔剣戦記攻略スレPart2【グロ注意】
242:無名の軍師 01/22/20:55
……え? マジ? グルッテルバニアの陣の敷き方とかから考察しなきゃ勝てないのこのゲーム!?
242:志村 01/22/21:10
参謀サンさんは三国時代からタイムスリップしてきた人間説
243:あいら 01/22/21:12
否定できねぇww
244:無名の軍師 01/22/21:22
参謀サンさんの書いてる兵器半分以上知らねw
245:Iロリ 01/22/21:31
地下からの潜入用攻城兵器とか、どっからそんな知識引っ張ってくんだろな
246:参謀サン 01/22/21:35
九州春秋とか、楠木正成とか調べれば出てくると思います。
エル・アリアノーズ軍は難しいです。今グルッテルバニアと連携されて苦戦してます。
多分エル・アリアノーズは最初に倒せなかった以上最後に回すしかないと思います。
247:あいら 01/22/21:42
参謀サンさんktkr
っつーかそんなもん読んでんのかよ!?
248:志村 01/22/21:50
狂ッテルとエルアリ同時に相手にして戦えてる参謀サンさんが異常
249:無名の軍師 01/22/21:58
志村さん略し方酷ぇww
エルアリはそんな人でも苦戦か~、頑張ろう。ありがとうございました!
250:志村 01/22/22:03
前回聞きそびれたが参謀サンさんの所属国は?
251:参謀サン 01/22/22:31
メルトルムです。最初は農業壊滅的で大変でした。
252:あいら 01/22/22:42
難易度☆4のとこじゃねぇかwwwwww
253:志村 01/22/22:56
なんでそれで狂ッテルとエルアリ相手に立ち回れる……
254:参謀サン 01/22/23:01
でも親父に言われてエル・アリアノーズ所属にしなくて良かったです。難易度星4ならまだ何とかなりましたけど、星5は辛いと思います。
255:Iロリ 01/22/23:11
しばらく見なくて戻ってきたら参謀サンさんが無双してやがるww
っつーか感覚が違い過ぎる。星2で辛いわこっちはww
256:あいら 01/22/23:24
そういえばエルアリ☆5なんだよね。他所属にしたらエルアリ強いのになんでだろ
257:参謀サン 01/22/23:34
わかりませんが、エル・アリアノーズは北国で産業関係が大変なのかも知れませんね。
新着レスを表示する
掲示板って、大変なんだな。とりあえずコメントを入力して、目が疲れてきたのでスマホを閉じて、トイレから出た。
皆が使ってるWってなんなんだろう。
さて、と。魔剣戦記の続きだ。……エル・アリアノーズはエルアリって略すのか。知らなかった。
ゲームを起動する。天下統一まで、あと少し。エルアリ(覚えたものは使いたい)も満身創痍まで追い詰めたし、グルッテルバニアも壊滅状態。
これなら、いける!
「どうだ竜基」
「あ、親父」
振り返ると、親父が帰ってきていた。今日は色々あったらしく、なんだか疲れているように見える。
「龍平さん、今草鹿さんのご自宅から連絡がありました」
「どうだった?」
「草鹿さん、お帰りになっていないそうです」
ひょっこり居間にもう一人。御袋がどこか辛そうな顔で戻ってきていた。
事態が把握できていないのは俺だけか?
混乱する俺に、親父がポツリと呟いた。
「草鹿陸将は知っているな?」
「ああ、あの気の良いおやっさんか」
「……防衛大に入ったらその口は許さんが、まあそうだ。彼が、行方不明になった」
「うぇ!? あの人が!?」
「神隠し……って知ってるか?」
「今日、友達に聞いた。そういうのがあるって」
「……たわごとだと思っていたが、草鹿陸将まで居なくなるとはな。調べる必要がありそうだ。……まあいい。天下統一間近だったな」
「あ、ああ。でも、変な縁だな。コレ、草鹿さんが薦めてくれたんだろ?」
「そうだな……」
気落ちしたテンションでやるものでもないとは思うが、やらないことには始まらない。
後はグルッテルバニアを一掃してエルアリと決戦を迎えるだけだ。
「とりあえず、天下統一はちょっと待ってろ。俺は用を足してくる」
「ビールの飲み過ぎだ」
「うるさいわ」
ふてくされる親父が障子の向こうへ行ってしまった。
御袋はそれを追うように台所へ。なんだ戦勝祝いを作るって。ゲームだぞ。
どこかずれてる御袋にため息を吐いて、画面に目を向けたところで目を疑った。
今の今まで大陸の勢力図が映って居た筈のディスプレイには、今は真っ暗な上にウィンドウが開き、タンパクなYES/NOを選択する文字。
なんだ、コレ。
と思った瞬間だった。
『天下統一に一番近い貴方に問います。このゲームは、面白いですか』
「な、なんだ!?」
急に頭に声が響く。なんだってんだいったい!?
ふっと、自分の意思とは裏腹に視線が画面へと釘付けになっていることに気が付いた。
まさか……そういうことなのか?
頭の中に直接出てきた問いに、俺はこのコントローラで答えを言えと?
震える指で、YESを選択する。
『天下統一に一番近い貴方に問います。この難易度は、難しかったですか?』
何だよ。何だよコレ。だがどうやら害はないらしいな。最近のゲームはここまで技術が進んだってことか? 世間知らずって怖いな。
……難しかったといえば難しかったが、それでも1週間でクリアできるレベルだった。
というよりも俺にとっての魔剣戦記はこれが基準だ。これ以上ぬるいものをやる気にはなれない。
NOを選択。
『天下統一に一番近い貴方に問います。プレイするなら、魔剣使いと軍師どちらがいいですか?』
見れば画面の二択は魔剣使いと軍師に変わっている。……いやいや、待て。魔剣使いでどうやってこのゲームをクリアしろと。一人の魔剣使いでクリアっていうのは無理にもほどがある。……それに俺は、軍師だからこのゲームをプレイしたんだ。
軍師。
『天下統一に一番近い貴方に問います。次回のプレイがあるとしたら、何年から始めますか?』
タイプ入力式に画面が切り替わった。
次回プレイねぇ。だったら、もう少し前から始めたいな。準備とかもしっかりして強国を作りたい。堅実に、基盤をしっかりと。
大陸暦195年を選択。これはこのゲームを始められる限界の5年前だ。
不思議と、最初に感じた恐怖や疑念がいつの間にか無くなっていた。
『天下統一に一番近い貴方に問います。この世界は、楽しそうですか?』
YES/NOの選択に戻る。
この世界、か。本当にこの世界があるとしたら、それは面白そうだな。
まあ、俺が軍師になれるという前提ではあるけれど。
YESを選択。
『天下統一に一番近い貴方に問います。この世界の軍師に、本当になってみたいと思いますか?』
さっきの俺の考え丸写しみたいな問題だな。
だからそういう意味でならYESだって。
『天下統一に一番近い貴方に問います。後悔、しませんね?』
……は?
画面の選択肢は、
YES/はい
待て。
『ようこそ、ワンダースフィアへ』
マテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!
「竜基!? 竜基はどこに行った!?」
「竜基さん!? 竜基さん! 返事をしてください!」
魔界戦記の電源が切れた、居間のテレビ。ゲーム画面に替わり、ニュース番組が報道されている。
『行方不明者の共通点が見つかりました。全員が、魔剣戦記という据え置き型ゲームをプレイしていた、ということです。制作側は何も知らないとの態勢を崩しておらず、事件との関係性は――』
「みなつ」
「はい、龍平さん」
「1週間俺の休みを取れ。竜基のヤツがこのゲームを1週間でクリアしたんだ。俺にクリアできない道理はない……っ!」
「テレビの報道を見ながら、お休みを1週間頂いておきましたよ?」
「みなつ」
「はい、龍平さん」
「お前は良い女だな……」
「いえ……竜基さんのためです」
「そんなお前を見込んで竜基を探す旅に付き合え。俺も神隠しに遭って草鹿とバカ息子を連れ戻す」
「お供しますわ」
南雲竜基が神隠しに遭った五日後、南雲龍平・みなつ夫妻もこの世界から姿を消した。
魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~ now loading…
魔剣戦記……最新据え置きハードウェアでプレイできる、本格戦略シミュレーションゲーム。“神隠し”に遭ってしまった人々の共通点として注目されているが、制作会社側はその件に関しての関与及び情報秘匿を否定。事件の大半は謎に包まれたままである。