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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 1
11/81

ep.9 共通ルート ライカ#2 挿絵つき!!

 共通ルート ライカ#2 


・ライカ#1を取得した状態で、アリサの「仕官の誘い」を受けると翌日に発生。イベント中選択肢“約束する”を選択すると、次回デートフラグが立つ。逆に後者を選択した場合、ライカフラグが立たなくなる。


※共通ルートのフラグは全て回収します。ルート分岐後はヒロイン全てのエンディングを用意。


 少年は言った。私は、私を求めてくれた王女の力となろう。少女は哀しかった。共に過ごすという約束は。共に世界を巡ろうという約束は。それは、その場限りの嘘だったのだろうかと。悲嘆に暮れる少女。されど少年の前では気丈な姿勢を崩さない、健気に咲いたこの花は、決して折れることなどないのだから、と。


         古典 アッシアに咲く健気な花 第二章 動乱の雲 より抜粋












「……しょーがねーからだぞ? リューキも一緒だからだぞ?」

「はいはい。うふふ」


 ブツブツ文句を垂れながら、現在自宅ではライカがアリサに臣下の礼を取っていた。

 片膝を着いて、手の甲を取る。そして、……ちっっっっっちゃぁぁぁぁく触れたか触れないかのところで唇を当てかと思うとバッと俺の方へ突貫してきた。


「リューキぃいいい! ムカつくぅぅうう! なんであんな風に笑われなきゃいけねーんだ!!」

「いや、多分ライカのせいだぞ。あんな微笑ましい臣下の礼があってたまるか」

「う、うるせーやい」


 俺に抱き着いたままの姿勢で、ぷいっとそっぽを向くライカ。だからそれが微笑ましいんだよ。

 なんて思っていたら。


「いいやったあああああ! これで何とかしてみせる!」


 ぴょんぴょん跳ねてる王女様が居りました。


「辛かったけど……これで私の計画は一歩前進よ! この国を変えてみせる!」


 いや、いいけどさ。そんな大そうな計画の喜びをかみしめるのが、この小さなログハウスってどうよその辺。


 とまあ俺のジト目など気にもならないようで、アリサは依然としてハートマークを振りまきながら可愛らしい笑顔で跳びはねていた。

 おうおう、ご自慢の御胸が揺れる揺れるって痛っ!?


「どこ見てんだリューキ……!」

「アリサのおっぱいたゆんたゆん」

「んなぁ!? こ、このアホ軍師いいいいいいい!」

「お、同志が出来た~。仲良くしような~」


 三者三様の反応。

 アリサは自分の胸を掻き抱いてこっちを涙目で睨んでくるし、ライカはさっきから俺の足踏みつけてるし……いや、痛いって。本当に痛いって、バキっとかいったらどうすんのさ。

そして、先ほどアリサが叩き起こしてきた金髪が肩を組んできた。

挿絵(By みてみん)


「おう、よろしくな寝こけ野郎」

「寝こけ野郎!?」


 心外だとばかりに瞠目する青年。いや、身長高いし俺より年上っぽいけれど、俺キミの名前知らないし。

 と、思いだしたのかアリサが俺達に背を向けたまま指を立てて言った。


「そういえば自己紹介して無かったわね」

「分かったから前向いてよあ~ちゃん!」

「い や よ ! 公然とエッチな発言するバカに誰が向くか! 私はこの大きいの気にしてるんだから言わないでよ!」

「……」

「……黙って大斧持ち出すなよライカ」


 不穏なオーラを纏ってアリサの方へ直進しようとするおバカの襟首を掴んで止める。


「削ぎ落としてやっから待ってろシルバーメロン」

「シルバーメロン!? 削ぎ落とすって何を!? やめて!?」

「削ぎ落とした二つ合わせりゃちゃんと球体になるだろーよ」

「怖!? え、ちょ、怖!? なんでこんなに世の中理不尽なのよー!」

「あたしが知りてーよ!」


 女性陣がバタバタと鬼ごっこを始めたリビング。時折大斧を躱しながら、金髪と握手を交わす。


「僕はグリアッド・フラム。基本的に索敵とかの担当だから、軍略とかは苦手~。眠いけどよろしく~」

「南雲竜基だ。多分、文官扱いになるのかな? 役立たずの体術しか出来ないから接近戦はゴミだけど、まあよろしく頼むよ」


 お互いに長所と短所を述べ合うのは自己紹介の基本的なことだとは思うが、こんな軍属的な意味合いでの長短を初対面で話すのも中々ないよな。

 っと危ない。しゃがまないと。

 空になった器が吹き飛んだ。


「まあリューキでいっか。ふわぁふ……リューキさぁ、あ~ちゃんのことどう思った?」

「どう、か。面白い主君だと思うよ」

「……じゃあ、キミにとってもっと面白い主君が出来たら見捨てる?」


 声色が一段低くなった。愛されてるな~アリサ。これだけで十分面白いよ。


「さぁ、分からんけど。居るの? あれだけ聡明で、なおかつグリアッドみたいなのに愛されてる主君は」

「……居る筈ないよ」

「なら、問題ないだろ?」

「あはは、そりゃそ~だね。僕今回良いとこなしだったから、今日は何も言わないでおくよ~」


 苦笑したようなグリアッドの声が聞こえた。その時の彼がどんな目をしていたのか、俺は知らない。俺の口上をごまかしだと思ったか、それとも……。


「あれ? 僕のごはんは?」

「寝てたから無いんじゃん?」

「酷くない!?」


 だが、グリアッドの瞳には確かにアリサへの固い忠誠が垣間見えた。

 竜基は、今回寝ていただけの男だからと言って、それだけで彼を判別できるような眼を持ってはいなかった。

















 翌日の朝。

 竜基とライカは、いつものように体術の訓練と洒落込んでいた。

 朝靄も晴れぬ、早朝である。若干肌寒く感じながらも、体を動かせば自然とそんな感覚も消えていく。


「……っし」

「……もう、なんか切ないわ俺」

「ん?」


 掌底、回し蹴り、マカコからのフォーリア。下段蹴り、中段に肘、上段には空中からの回し蹴り。最後にサマーソルトを放ち、着地。


「……俺よりキレもパワーも格段に上じゃないか。不公平だ! あんまりだ!」

「……リューキ、思ったよりガキだなおめー」


 嫉妬に涙する竜基を、ライカは呆れた視線で見つめると。

 足元に置いてあった大斧を拾い、一人素振りを始めた。


「……なぁ、リューキ」

「ん?」

「本当に、アイツのところに行くのか?」


 特に感情のこもっていない声。否、意図的に感情を乗せなかった声が、竜基に届く。

 布タオルで汗を拭きながら、竜基は素振りに勤しむ彼女を横目で眺める。


 その瞳も、何も映していなかった。どうやら、竜基の答えを聞くまでは自分の気持ちを吐露しないつもりのようである。


 ――本当に、俺を思ってくれている。


 竜基は、そう痛感せざるを得なかった。だからこそ、ここでライカのしたいことを聞くのはナンセンスだ。


「アリサに、着いていこうと思う。アイツはこの腐った国をひっくり返す気で居るんだ。それに、この俺を必要と言ってくれた。なら、作ってやろうじゃないか。優しくて、豊かな国ってヤツを」

「……そっか」


 袈裟、逆袈裟、大車輪。


 次々に繰り出されるライカの武技に、乱れは無い。

 ポツリと彼女が呟いたのは、どこか寂しげな声だった。


「なぁ、リューキ」

「ん?」

「一年前のあの日、覚えてっか?」


 ライカの瞳は、朝靄の晴れてきた朝の青空を映していた。

 口角は上がり、微妙に痙攣しているようにも、見える。……無理して、笑っているようだった。

 うっすらと、瞳に涙が浮かぶ。


「……あたしさぁ。一緒に世界回ってみないか……って言われて嬉しかった……村が……さ……自衛出来るよーになれば……リューキと、い、しょに……ひく……」

「……あぁ。そうだったな」

「でも」


 カラン、と大斧が地に落ちた。


 思い出すのは、一年前。初めての盗賊退治。

 その全てが終わった後で、彼女は竜基を引き留めた。親愛か、情愛か。それを彼らが知る由もなかったが、二人はとにかく絆で結ばれたのだ。


 竜基が言ったのは、ライカを村の外に連れ出す、ということだった。

 世界に出る。そんなことを考えもしなかったライカ。目の前に居た聡明な少年に差し伸べられた手は、どんなに希望に満ちていたか。


 背を向けたライカの腕が、ごしごしと顔の辺りを擦っている。

 そして、勢いよく振り向いたライカの表情は……竜基が胸に痛みを感じるほどに、晴れやかな笑顔だった。


「でも、一緒に仕官しよーっつったのも覚えてる。だからあたしも、リューキについてく。……で、さ」

「ん?」


 自身の抱いている罪悪感をおくびにも出さず、竜基はライカに続きを促した。

 こんな、こんな時にしっかりと感情を抑え込めてしまう自分を嫌悪しながら。


「お、終わったらさ! あ、あたしと……どっかいこーな! 世界を回ってみたいんだ! ……それで隣にリューキが居てくれたら、ゆーこと無しなんだ」


 押し黙る竜基。もちろん、彼とて大手を振って賛同したい気持ちはあった。

 だが、アッシア王国をひっくり返したあとの内政や、その他様々な仕事を考えると。


 一度約束を破っている分、二度目を保証することは容易ではなかったのだ。


「ダメ……か?」


 不安げに、ライカが竜基を見据える。その瞳には涙こそ無いものの、不安と期待がひしめくように混沌と宿っていた。

 それでも、竜基は悩み続ける。この少女の笑顔を見たいと思うから。

 だがそれが仮初のモノであったとしたら、彼女はきっと、今度こそ悲嘆にくれる。


 だったら、約束なんて絶望への片道切符でしかない。


 と、竜基が思案に暮れているうちに、ライカの表情は萎んでいった。

 彼女は優しい。迷惑を他人にかけることを嫌う。

 そんな彼女が勇気を出して言った言葉を、竜基は不意にしようとしていたのだった。


「そ……か……わりぃ。やっぱり、迷惑だよな……あはは……」


 竜基に、背を向けたライカ。


 小さな背中で、弱弱しく大斧を拾い上げようとしていた。






 竜基は、悩む。ここで彼女に約束をするべきか。それとも、過分な期待を持たせず諦めるべきか。



 とった道は、前者だった。









 肩を震わせる彼女に、竜基はやっと、思考に沈んでいた頭を上げた。

 ポン、とその頭に手を乗せて。


「……分かった。約束しよう」

「……ふぇ?」


 突然真横に現れた竜基の顔。そして、頭部に置かれた温かいてのひら。

 ライカは、うっすら溜めていた涙を竜基に見られまいとそっぽを向いて顔を乱暴に擦って。


「……いい、の、か?」

「一か月。アリサとの仕事を終えたら、一か月だけ。二人で色んなところに行こう」


 な? と笑いかける竜基。その黒い瞳には、既に迷いなどなく。

 考えすぎる反面、決めたことは必ずやる。そう彼のことを理解していたライカの表情は、自然と明るくなっていく。


「……うん! うん!」

「よっしゃ、約束だ。もう、破らない」


 どんなにしっかりしていても。どんなに健気な少女でも。


 未だ十二歳の少女でしかないライカにとって、竜基という存在は大きかった。

 竜基が聞いていたら真赤な顔で否定するどころか川に奇声を上げながら飛び込みそうな台詞ではあるが、


 彼女にとって、竜基は皆を救ったヒーローだったから。


 だからこそ、彼女のたった一つの支え。

 そんな彼が、自分のために時間を作ってくれた。


 こんなに嬉しいことはない。


 ライカは年相応の自然な笑顔で、竜基の突きだした小指に自分のそれをゆっくりと絡めた。


「約束、だぞ?」

「あぁ。俺が保証する」


 自信満々に頷く竜基に、ライカは小さく微笑む。

 少女の笑顔は、無邪気で素朴な花のようだった。









「もしかして、私悪いことしたのかしら? なんか凄く優しい空間が出来ているのだけれど」

「……さあね~。でも、仲間同士の絆は深まったみたいだよ~? ……というよりさ、眠いんだけど僕。何で一緒に覗かせてんのさ。寝かせてよ。できれば一日中」

「嫌よ。私だけバレたら怖いじゃない」

「僕巻き添え!?」




 グリアッドの悲鳴に振り向いた健気な花は、獰猛に笑う。その小さくも恐ろしい笑みは、ドロセラの花に良く似ていた。


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