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七、

 「金兎!」

 目の前で転送魔法により優音達を連れ去れた市花は、慌ててまだ繋がっていた金兎の名を呼ぶ。

 「うん。いやー参ったね。まさか僕の防御魔法をほとんど自力で抜けるなんて……あの娘、かなりの才能があるよ」

 「才能があるよ! じゃないでしょうが! 何呑気な事を……」

 金兎の呑気な発言に思わず怒鳴った市花だったが、怒鳴っている途中で気付いた。

 「金兎……私に黙って、彼女達に囮になる様に頼んだわね!」

 本気の怒気が混じった声に、金兎は慌てて、

 「違う違う。そんな事を頼みはしないさ」

 「そう。それはよかった」

 「ただ」

 「ただ!?」

 「彼女達に多少はリスクがある提案は昨日したよ」

 「どんな!?」

 「明日、市花は今日手に入れた情報を基に一気に決着を付けようとするはず。その間、偽刀流から君達を守る為に僕の防御魔法を使うと思うんだが、僕はこれに少しだけ穴を開けようと思ってる。もちろん、そんじょそこらの魔法具じゃどうこう出来ない部類の。っで、そうなれば、きっと君達の前に直接、さっき魔法の製作者が現れ、話し合いとか口では言いながら防御魔法を壊しに来るはず。当然、その時間を稼ぐ為に、市花の下には偽刀流が行くだろうから、物理的な危険はほとんどない。後は、その製作者が防御魔法を抜いて君達を攫うのが先か、市花が偽刀流を退けて君達の下に辿り着くのが先かになって、どっちに転んでも、事態は一気に進むんだけど……どう? って」

 「長い! って言うか、それを囮にするって言うんでしょうが!」

 「囮じゃなくて、罠だよ」

 「同じ!」

 「そうかな? ……まあ、とにかく、彼女達の携帯に付けた転送追跡用魔導アプリケーションの起動を確認したから、そこに転送するよ」

 「……どうぞ」

 「うん?」

 市花の怒っている理由がいまいち分かっていない金兎に、市花は思わず憮然とした顔になり、そのまま優音達の下に転送された。

 転送されると同時に、仕込み杖を素早く鳴らし、周囲の状況を把握する。

 近くの長椅子に座っている優音達とおさげの子。

 優音達には簡単な魔法により拘束されているのを感じたので、もう一度仕込み杖を鳴らして解除しつつ、正面には初めて会う男と偽刀流。

 状況から考えて、男が今回の事件の首謀者だと判断した市花だが、それより気になったのは、周囲の環境だった。

 何やら無数のモニターが付いた機械が所狭しと並べられた地下室。

 (何の為の場所なのでしょうね……)

 市花が今いる場所の見当が付かない事に首を傾げていると、鋼が、

 「ほらな」

 そう言って、男の前に出る。

 「まあ、こうするって聞いた時から、こうなるって予想してたからな……だから、ここにこっちも勝手に罠を仕掛けさせて貰ったぜ」

 「罠?」

 鋼の発言に、初耳だった男が眉を顰めると共に、鋼は指を鳴らした。

 その瞬間、地下室に煌々とした光が付き、

 「さあ、楽しもうぜ?」

 そう鋼が言ったが、その声を市花が聞き取る事は出来なかった。

 何故なら、光が灯ると同時に、地下室に所狭しと並べられていたゲーム機達が一斉に最大ボリュームで音を出したからだ。



 うわ!? 何!? 物凄くうるさーい。

 急に明るくなったと思ったら、目の前に現れたいっぱいのゲーム機が一斉に動き出して、物凄い音を出し始めた。

 あまりのうるささに優音は思わず手で耳を塞……あれ? 身体が動く? なんで? ……あ! さっき市花さんが来た直後に仕込み杖を鳴らしてたっけ、それでかな?

 よく分からないけど……動くなら……

 優音は隣で同じ様に耳を塞いでいる茜ちゃんと楓ちゃんを見た。

 二人も優音を見て……頷いて、一斉に立ち上がって、市花さん側のゲーム機の後ろに隠れた。

 楓ちゃんが抱えて連れて来たおさげの先輩をちょっと心配しながら……この大音量でも意識が目覚めないなんて……大丈夫なのかな? ……とにかく、ゲーム機の後ろからそぉーと市花さんの様子を見る。

 対峙している市花さんと偽刀流さん……あれ? そう言えば、あの先生がいない……優音達と同じく避難したのかな?

 そんな事を思っていると、偽刀流さんが動いた。

 あっと言う間に市花さんの前に現れて、上から大きく刀を振るった。

 その斬撃は何かに弾かれたんだけど、同時に市花さんが横に吹き飛んだ!?

 え? え? 何? どう言う事!?

 昨日は偽刀流さんの攻撃をあっさり防いでいた市花さんがどうして……って、もしかして、この音のせい!?

 確かに昨日、市花さんは周囲の音とか反響とかを利用して周りを認識しているって言ってたけど……ど、どうしよう。こんな音の中じゃ……

 吹き飛ばされた市花さんは、壁に着地。

 そこに偽刀流さんが飛び込みながら刀を突き刺そうとする。

 その刀は市花さんに届く直前で弾かれるけど、今度は上に吹き飛んで天井に背中からぶつかってしまう。

 天井から落下し始める市花さんの真下に、偽刀流さんが瞬時に移動して刀で市花さんを突き刺そうとする。

 その刀も市花さんに突き刺さる直前で何かに弾かれるけど、今度はこっちに市花さんが吹き飛んできて、優音達の後ろの壁にぶつかって床に倒れそうになったけど、倒れる直前で片足を出して何とか倒れなかった。けど!

 「市花さん!」

 声を掛けるけど、周囲のゲーム音で聞こえているとは思えなかった。

 でも、思わず駆け付けようとした優音に向かって、市花さんは手で来るなってジェスチャーをした。

 こんな状況でも、市花さんは優音達の位置と行動が分かるって事!?

 凄いけど……市花さん……

 何度も顔に攻撃を受けたのか、市花さんの顔の至る所に切り傷が出来てて……口の中も切れてたのか、市花さんは血を床に吐いて、口から垂れる血を手で抜くった。

 こ……こんな事になるなんて、聞いてませんよ金兎さん!



 (金兎の奴、今頃慌ててるんだろうな……)

 そんな事を思いながら、市花は口の中に溜まった血を吐いた。

 ここがゲームセンターであるのなら、少なくともここは潰れたゲームセンターである可能性が高い。

 通常のゲームセンターならネットワークに繋がっているが、潰れているのならネットワークは断絶されている。

 当然そうなるとネットワークを介して手助けしている金兎ではゲーム機の音は止める事は出来ない。

 また、ゲーム機を動かすのに使われているであろう魔法具の気配は、昨日使われた粗悪な隔離結界とは違い、かなり高位な魔法具の気配がした。

 そうなると、市花などの携帯から間接的に何とかするには多少の時間が掛かる。

 どのぐらい時間が掛かるか市花には分からないが、

 (それを待っていられるほどの時間はなさそうね……)

 市花は耳をつんざくほどの爆音の中でも辛うじて周囲の環境を知る事が出来ていた。

 だが、それは酷くぐちゃぐちゃで、途切れ途切れにしか感じ取れていない。

 その為、鋼の囮である刀の攻撃ははっきりと分かり、反射的に防御してしまうが、本命である体術の攻撃は全く分からず、全てもっとも敏感であるはずの顔面に受ける結果になってしまった。

 (これは、恥ずかしがっている場合じゃなさそうね)

 そう思って市花はため息を吐き、着物の衿に両手を掛けた。



 え!?

 市花さんの唐突な行動に、優音のみならず、次の攻撃をしようとしていた偽刀流さんも動きを止めた。

 だって、市花さんが自分の着物をぐっとずらして、肩を、可愛い白いブラジャーがちょっと見えるぐらいまで下ろした上に、綺麗な腕を出して、裾をたくし上げて腰の位置で何かで結んで綺麗な足を出しちゃった。

 突然の奇行に、偽刀流さんがぽか~んとしてたけど、市花さんが口を少し大きく開けた時、何かに気付いたのか驚いた顔になって、市花さんに斬り掛かる。

 さっきと同じように、刀が弾かれて、市花さんが……吹き飛ばなかった。

 止まった二人をよく見ると、偽刀流さんの刀を持ってない方の手が手刀になって、市花さんの仕込み杖の鞘で止められて、蹴りも放ってたのか片足の方にも仕込み刀で防がれていた。

 えっと……何? 何が起こったの?



 市花は周囲の環境を知る時、基本的に聴覚に頼っているが、補佐として他の視覚以外の感覚も使っている。

 つまり、肌を普段より多く露出し、口を意図的に開く事により、触覚・嗅覚・味覚の情報量を増やし、ゲーム機の爆音による聴覚の情報不足を補った結果、偽刀流の真の攻撃を防ぐことが出来た。

 要は普段から露出度の高い服を着ていれば、より正確に周囲の環境を知る事が出来るのだが、普段からあまり情報量が多いと疲れるのと、市花本人があまり露出度が高い服を得意としていない為、和服を好んで着ている。

 もっとも、今着ている着物は、鋼の攻撃を防いだ事がある様に特別製である為、退魔士としての仕事の時には必ず着る服でもあるのだが……

 手と鞘、足と刀。

 傍から見ると拮抗している様に見えるが、徐々に徐々にではあるが鋼に市花は押され始めていた。

 鋼の真の一撃を防ぐ為とは言え、露出を増やした事による防御力の減退は明らか。

 加えて、鋼には弾かれた刀がある。

 鋼の優位性は間違いないはずなのだが、鋼はここから勝てるイメージが湧かなかった。

 その理由が分からず、若干、戦慄に近い感情を感じてはいたが、止めの一撃を放つ。

 弾かれていた刀を市花へと再び振り下ろす。

 だが、本命は残ったもう一本の足。

 振り下ろした刀が壁に入った瞬間、残った足で露出し、防御の為に開いている市花の肩に叩き込もうとした。

 だが、その瞬間、市花の姿が歪んだ。

 文字通り、ぐにゃりとまるで蛇の様に動き、鋼の手・両足の攻撃をするりと交わし、横に移動。

 同時に市花が瞬息の納刀を見せ、抜刀。

 今までの抜刀は認識出来なかったのに、この抜刀だけ刀の動きを見る事が鋼には出来た。

 もっともそれにいぶかしむ間が無いほどの剣速であった為、鋼は刀に力を込めて刀身が食い込んでいた壁を斬り、市花の刀を防ごうとした。

 だが、その刀身までもがまるで蛇にでもなったかの様に歪み、防御と同時に放っていた鋼の手刀も再び歪んだ市花に避けられ、胴体を一閃。

 幻術と身体を極限以上まで軟らかくする軟気功を併用した十二の基礎居合技の一つ『巳』。

 余計な動きが入る為、十二の技の中で最も遅い剣速だが、変化に飛んだ攻防が出来るので、今の様な状況には使えるのだが、一撃必殺には向かない技でもある。

 当然、硬気功で身体を硬くしている鋼には効き辛い上に、一閃される瞬間に後ろにも飛んでいたので、着ていた服が多少破ける程度のダメージで終わった。

 鋼の一瞬の滞空。

 その鋼に向かって、市花が間を詰める。

 その市花に対して刀を囮にした蹴りを放つ鋼。

 市花は正面に真横で構えた仕込み杖の連続抜刀で刀も、蹴りも防ぎ、更に肩に一撃。

 鋼は舌打ちをしながら着地と同時に後ろに走って逃げる。

 逃げる鋼に一定の距離をピッタリと保ちながら、続け様に連続抜刀する市花。

 一撃一撃が弱い為、鋼の皮膚を切り裂く程度に終わっているが、いつまでも硬気功で今の硬度を維持出来るわけではない。

 危機感を覚えた鋼は、腕を切り裂かれるのを構わず、刀を囮にした手刀を連続で放ち、前に出る。

 すると市花は鋼が前に出た分、後ろに下がり、一切の距離感の変化を許さずに更に連続抜刀。

 引けば追い、追えば引く、一定の距離を保ったまま追い回して居合を放ち続ける十二の基礎居合技の一つ『戌』。

 その戌のあまりのしつこさと、鋼のあまりの硬さに、互いが、

 「ウザい!」

 「硬い!」

 と叫んだが、周囲の音のせいで当然聞き取れない。

 が、互いに何を言ったか分かったのか、互いに不愉快そうな顔をし、同時に戦い方を変える。

 鋼は刀に力を込め、振り回す。

 すると周囲の空気が刀身に集まり風の刃と化して刀身から放たれる。

 が、当然これは囮であり、本命は開いている手に凝縮させた気を指弾で打ち出す気指弾。

 風の刃を壊すなり、防ぐなりすれば、続け様に硬度速度共に高い上にパチンコ玉ぐらいの大きさしかない気弾がまるで機関銃の様に撃ち込まれる。

 だが、市花はその風の刃を飛び跳ねて避けた。

 しかも、尋常じゃない速度と高さで飛び跳ねた上に、天井に着地。

 鋼は特に動揺することなく天井の市花に再び風の刃を放つが、その頃には床に向かって市花は飛び跳ねており、床に着地すると同時に更に飛び跳ね、天井、床とまるでスーパーボールの様に鋼の周りを飛び跳ね、鋼を翻弄する。

 飛び跳ねる度に市花のその速度が上がる事に危機感を覚えた鋼は、自らを高速回転させ、風の刃と気指弾を連射。

 無数に放たれた風の刃と気指弾が飛び跳ね回る市花に迫るが、市花は気にせず攻撃に転じる。

 風の刃が露出した市花の肌を裂き、気指弾が市花の身体を抉るが、同時に放たれた連続居合により、鋼の身体も切り裂かれ、市花の飛び跳ねる回数が多くなればなるほどその傷の深さは深くなる。

 飛び跳ねながら放つ十二の基礎居合技の一つ『卯』。

 今いる様な閉鎖空間だと天井や壁なども利用できる為、通常より威力が上がり、それは連続で飛び跳ねれば飛び跳ねるほど高まる。

 だが、当然相乗効果で鋼の攻撃も威力が上がり、どちらの攻撃でどちらが先に倒れるまるでチキンレースの様な状態になり……



 市花さんが飛び跳ね始めて、鋼さんが物凄い勢いで回り始めた段階で、優音はもう市花さん達の戦いを見る事が出来なくなってた。

 とは言っても、市花さん達の戦いのほとんどは始めっから見えてなかったんだけど……それ以上に鋼さんの攻撃の流れ弾で周りのゲーム機とか壁とかが壊れ始めて、危なくてゲーム機の陰に隠れるしかなった。

 ゲーム機の陰に隠れてても、バキバキバチンバンと周囲が壊れる音がして…………物凄く怖かった。

 どれくらい続いたのか、頭を抱えて目を瞑り続けていると…………いつの間にか壊れる音もゲーム音も聞こえなくなっていた。

 同じ様に頭を抱えていた茜ちゃんと楓ちゃんと目を合わし、一緒にそろ~と様子を見る。

 すると、市花さんと偽刀流さんが少し距離を置いて、背中合わせに立っていた。

 どちらも全身がぼろぼろで、全身から血を流してて……でも、市花さんの髪と大きな白い花の髪留めと着物だけが、何故か不自然に綺麗なままで……でも、でも……

 ふらっと市花さんの身体が揺れ、

 「市花さん!」

 倒れそうになったけど、何とか近くのゲーム機に手を掛けて倒れなかった。

 反対に、偽刀流さんの方は膝を付いてゆっくり倒れた。

 これって……これって、勝った!? 市花さんが勝った!

 「市花さん!」

 思わず優音が駆け出して市花さんに近寄ろうとした瞬間、

 「風峰さん!」

 何かに気付いた市花さんが叫んだ。

 え?

 その意味を優音が理解するより早く、バチンと言うお



 不意に優音の近くに姿を現した男の手から電撃が放たれ、優音は気絶した。

 倒れる優音を受け止めると同時に市花が動こうとするが、その瞬間、

 「拘束魔法具『女郎蜘蛛の糸』発動!」

 倒れていた鋼そう叫ぶと、市花の身体に出来た気指弾の痕から一気に糸の様な物が吹き出し、市花を拘束し倒れさせる。

 唐突な魔法具の発動と、いつの間にか気指弾の中に魔法具が混ぜられていた事に気付かなかった事に市花は驚愕の表情を浮かべた。

 「ご苦労さん」

 まだ倒れている鋼に向かって男はそう言うと、鋼は何とか首を男の方に向け、

 「これで依頼は完了でいいな……流石にこんだけダメージを受けると、俺でもしばらくは動けねわ」

 「ああ、十分だよ」

 満足そうに頷いた男は市花を抱き抱えて、この場から去ろうとした。

 つまり、鋼の攻撃は全て、市花を拘束する為の囮だったと言う事で、市花は偽刀流に対する認識がまたしても甘かった事を痛感せざるを得なかった。

 「っく、金兎!」

 流石にこの状況を自分では直ぐに何とかできないと考えた市花は金兎の名を呼ぶが、反応がない。

 「無駄だよ。今、ここら一体は『原因不明の停電』になってるからな。流石の魔法使いも通信手段が断絶されれば手の打ちようがないだろ?」

 その原因不明の原因であろう男はそう言って笑い、振り返る。

 男の背後から襲い掛かろうとしていた楓と茜は、それだけで動きを止めてしまう。

 楓と茜は自分達が何故動きを止めたのか分からず戸惑っていると、

 「簡単な魔眼さ。退魔士には効かないだろうが、素人にはこれで十分……しばらく、ここで固まってろ」

 その男の命令に、本当に動けなくなった楓と茜は驚愕の表情を見せると、

 「簡単な言霊さ」

 そう言って、笑いながら男はこの場を去った。

 「市花さん!」

 茜の呼び掛けに、市花は困った表情を浮かべると、鋼が軽く笑う。

 「はは、あんまり座頭市に期待しない方がいいぜ? 女郎蜘蛛の糸は、退魔士が使う魔法具の中でも最高レベルの拘束系魔法具な上に、今持ってる全てを打ち込んでやったからな……普通なら絞殺されててもおかしくないって言うのに……まったく丈夫な奴だよ」

 鋼のその言葉に、茜と楓は思わず市花を見ると、市花を拘束している糸らしき物からぎちぎちと音がするほど締め上げられ続けているようだった。

 「だ、大丈夫なんですか?」

 流石に心配になった茜の問いに、市花は若干辛そうに微笑んで、

 「ええ、死にはしないとは思いますが……流石に自力での脱出は無理ですね」

 そう言ったが、それはつまり、

 「そんな……じゃあ、優音は……」

 「……彼の目的はこの地で名を奪われた女神の復活です」

 市花の言葉に、茜と楓のみならず、鋼も驚いていた。

 茜と楓はここに来る直前におさげの少女から聞いてはいたが、その話が時間稼ぎだったと分かってから嘘の話だったと思っていたからだが、鋼の場合はそんな事を聞かされていなかった為の驚きだった。

 「名を奪われた女神って……ロクな事とは考えてないと思ってはいたが……成功報酬が高かったから、高額な女郎蜘蛛を使ったんだが……ん~まともに報酬が払われると思うか?」

 鋼がそんな問いを市花にしてきたので、市花は呆れつつ、

 「知りませんよ……とにかく、そんな大物の復活なら、例え風峰さんが特殊な人間だったとしても、準備にそれなりの時間が掛かるはずです」

 「それなりの時間って……どれくらいですか?」

 「さあ、私は魔法使いではありませんので……ですが、その間に金兎なら」

 不意に茜と楓の携帯が着信音を奏で出した。

 それと同時に、二人の動かなかった身体が動くようになり、大慌てで携帯を見ると、

 「……電力復旧まで数時間掛かるから、これで何とか市花の拘束を解いて欲しい?」

 茜が着信したメールを読み上げると、二人が持っていた携帯の頭から光の小さい刃が展開された。

 「……切れって事?」

 「見たいね」

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