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エピローグ

 「え? 自殺した女神?」

 優音の説明に、茜ちゃんは勿論、楓ちゃんも驚いた顔になった。

 「うん。優音に降りた女神さんは、自分から神殺しを望んだ珍しいケースなんだって……だから、可能な限りの温情として普通なら殺されていたはずの優音の先祖は殺されずに済んで、記録も見れる人を大分限定してだけど、残されていたんだって」

 「……優音が女神の子孫……ね」

 「まあ、人を簡単に信用したり、疑う事を知らなかったり、ちょっとずれた子だとは思ってたけど……」

 微妙な顔をする楓ちゃんと茜ちゃん。

 ん~……

 「なんかね。その優音の性格も、女神の子孫だからなんじゃないかって金兎さんは言ってたよ」

 「何それ?」

 「えっと……神様とかって、人の願いとか思いとかで生じる存在で、そう言う存在だから酷く純粋な性格を良い意味でも悪い意味でもしてて……感覚とか感性とかもその生じさせた願いとか思いに寄っちゃうから、感情の偏りとか理解出来ない感情が出来るんだって」

 「? ……それは神様の話だろ? 神様の血が大分薄まってる優音に何の関係があるんだ?」

 「だから、優音は遺伝的に女神さんに近い……えっと……身体だけ先祖返りしてる可能性が高いんだって」

 「つまり……何? 優音のこの性格って、治らないの?」

 「治らないって分けじゃないらしいけど、遺伝的な問題だから治るまでかなりの労力と時間が掛かるんじゃないかって」

 「何それ……」

 「……まあ、そうだと思ったけど」

 金兎さんから聞いた話に、流石の茜ちゃんも楓ちゃんもげんなりしていた。

 「…………まあ、なんであれ、優音が神様を降ろしても何ともなかったのは、身体だけ先祖返りしていたおかげだったんでしょ」

 「うん。そうらしいよ」

 「じゃあ、今はそれでよかったって事にしておきましょ……本当に何ともないのよね?」

 「ちゃんと専門の病院で精密検査して貰ったから大丈夫だよ」

 「ならいいんだけど……」

 優音は市花さんに彼女だけを斬られた後、その影響で意識を失っちゃってた。

 そして、気が付いたら、知らない病院のベッドに寝てて、精密検査とか色々して貰って、帰ってこれたのが、ちょうど一週間後の今日で、

 「優音としては、たった一週間であれだけ壊されてた学校が直ってる事に驚きだったんだけど……」

 今いる学校の廊下からグラウンドを見るけど、あれだけぼこぼこと木が生えて森になってたグラウンドがいつも見ている光景に戻ってて……

 「一週間じゃないわよ。たった数時間でよ」

 「数時間で!?」

 「詳しくは聞かないでよ? 手伝った私だって未だに信じられないんだもの」

 「手伝ったの!?」

 「……まあ、手伝ったと言っても、金兎さんが指定した場所に移動して、携帯をかざしただけだけどね」

 ……金兎さんって、本当に凄い魔法使いさんなんだ……じゃあ、本当に『あの事』も何とかしてくれるかな?

 「……ねえ、優音」

 「え?」

 「何か私達に隠している事ない?」

 ギク!

 「……バレバレだな」

 「全く、優音は嘘が苦手なんだから、隠し通せると思ったの……何を隠しているの? 言いなさい」

 うう……

 「言ったら絶対怒るから、や!」

 「や! って、どうせ私達に迷惑が掛かるんだから早い内に言いなさい」

 「うー……あ! だ、ダメだって」

 「「は?」」

 「え? あ! こ、こっちの話」

 もう! いきなりはなしだよって言ったよね。

 ごめんなさい。

 「こらお前達! ホームルームのチャイムはもう鳴ったぞ」

 不意に先生に怒鳴られ、優音達はびくっとして、先生の方へ顔を向けた。

 久しぶりのお喋りに夢中になっててチャイムに気付か…………え?

 先生の背後に、二人、優音達と同じ制服を着た女の子がいて……優音は、その一人に見覚えがあった。

 「ん? 何だ三人とも、転校生と知り合いか?」

 驚いて固まる優音達に先生が不思議そうにそう言った事に、優音達は顔を見合わせた。

 だって、先生の後ろにいたのは、どこをどう見ても、市花さんで、

 「制服がコスプレみたい」

 思わず思った事を口にしたら、市花さんが頬をひくつかせ、隣にいた可憐な女の子は爆笑して、優音は茜ちゃんと楓ちゃんに叩かれた。


 「え? 偽刀流さん? この人が」

 昼休み、お昼ごはんと、市花さんに詳しい事情を聴く為に優音達は屋上にいた。

 そこに、市花さんと一緒に転校してきた可憐な女の子も来て、あのマッチョなお兄さんの正体だって紹介されて……退魔士って何でもありなのかな?

 「信じられないのは無理もありませんの。人目が付くこの場所では顔は変えられませんが、声だけは変えてみたが、どうよ? 信じる気になったか?」

 前半が見た目通りの可憐な声で、後半があの偽刀流さんの声になった為、優音は目を開けて驚いたけど、茜ちゃんと楓ちゃんは既に知ってたみたいで、平然としていた。

 むーいつの間に?

 「それで、なんでお二人は同じ学年で転校してきたんですか? しかも、市花さんなんて年齢を偽ってまで」

 茜ちゃんのその質問に、市花さんはまた頬をひくつかせ、偽刀流ちゃんはおかしそうに笑った。

 二人の反応に優音と楓ちゃんは顔を見合わせていると、ピンときた茜ちゃんは、

 「もしかして……逆?」

 逆?

 「ええ」

 頷く市花さん……って!?

 「同い年!? こんなに大人っぽいのに!?」

 驚く優音に、市花さんはため息を吐き、

 「……まあ、老け顔ですからね」

 「いえいえ、市花のは老け顔とは言いませんし、むしろ深刻なの私の方ですの……二十を超えているのに、風峰さんに同年代と思われたんですから」

 若干ふて腐れている市花さんに、励ましてるのか追い込んでいるのかよく分からない事を嬉しそうに言う偽刀流ちゃん……って、

 「二十歳を越えてる!?」

 「ええ、偽刀は基本的に幼顔ばかりですの。それ故に身体操術を習得したって話もあるぐらいですの」

 そう言う偽刀流……さん? はどこからどう見ても優音達と同年代にしか見えないけど……市花さんはどう見ても……コスプレにしか見えない…………はー……世の中には色んな人が本当にいるんだね……

 「えっと……年齢を間違えたのはごめんなさい」

 「いえ……まあ、多少は慣れてますから」

 「……えっと~、その……それで、お二人の目的は」

 茜ちゃんの問いに、今度は市花さんと偽刀流さんが顔を見合わせた。

 あ! ヤバいかも……

 「……聞いてないのですか? 優音さんが『次元の狭間へ再封印される女神の魂を引き留めた上に、引き離すのが難しくなってしまってる』って」

 「「……はい?」」

 キョトンとする茜ちゃんと楓ちゃんに、市花さんはため息を吐いて、優音の方に顔を向ける。

 「自分で話すから、先に説明しないでくださいって金兎に言ったって話でしたけど……」

 「優音ぇ~なんでそんな大事は話を先にしないの!」

 「……神様にまで手を差し伸べるなんて、本当にどうしようもないお人よしだな」

 三人に一斉に責められ、優音は、優音は、

 「ごめんなさい。私が早く消滅しないばかりに」「あ! また、勝手に出てくる!」「ご、ごめんなさい。どうしても、ご迷惑をおかけしてしまう事を謝りたくて」「だから、それは優音が優音のタイミングで……」

 優音のコロコロ変わる口調に、茜ちゃんと楓ちゃんが困惑してた。

 謝った口調が優音の中にいる女神ちゃんで、こうして一つの身体を共有してる状態になっちゃってる。

 優音はよく覚えていたいんだけど、市花さんが言った通りの事をしちゃったみたいで、実は検査入院が一週間も掛かったのは女神ちゃんのせいだったりする。

 ごめんなさい。

 もう! 謝ってばっかり、別に気にしてないって言ってるじゃん!

 ごめんなさい!

 「……まあ、そう言うわけですから、力をほとんど失っているとは言え、女神は女神ですから、女神を完全に優音さんから引き離し、再び次元の狭間に封印する方法を金兎が見付けるまで、丁度同年代のわたくしが護衛する事になったんです」

 「私は市花に勝つ方法が見付かるまで、市花に付き纏うって決めたんですの」

 事情を説明し終えた市花さんに抱き着き、偽刀流さんがとんでもなく迷惑な事を言った。

 「……まあ、変なおまけもいる上に、どれくらいの期間になるかもわかりませんが……これからよろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる市花さんに、優音達は顔を見合わせ……とりあえず、

 「「「よろしくお願いします」」」

 って頭を下げ返した。



 「無事転入できたわ」

 「おめでとう……驚かれたんじゃない?」

 市花が経過の報告の為に金兎に連絡すると、若干含み笑いが入った問いを言われ、ちょっとムッとした。

 「金兎までコスプレって思ってんの!」

 「? ……ああ、なるほど…………まあ、市花は同年代に比べて大人っぽいからな……でも、俺は似合ってると思うよ」

 金兎のその言葉に、市花は表情をムッとさせながら、顔を赤らめた。

 「……それにしても、市花が風峰さんの護衛を名乗り出るなんて意外だったよ」

 金兎のその言葉に、市花は小首を傾げて見せた。

 実は優音の護衛には鋼だけが付くはずだった。

 市花はフリーの退魔士として各地を旅する為に、高校に通っていない。

 中学の時は休みがちではあったが、何とか卒業してはいる。が、退魔士に学歴はほとんど重要ではないので、金兎の勧めを断って高校には進学しなかった。

 旅をしている事と、高校に進学しなかったのを、金兎は多少なりとも自分の容姿や特殊な全盲である事を周囲に注目される事を嫌っての事だと思っていたのだが……

 だからこそ、市花が優音の護衛に名乗り出た時、軽い驚きを覚え、

 「もしかして……風峰さんと自分を『重ねてる』?」

 と考えた。

 「……どうしてそう思うの?」

 市花はちょっとだけ困った顔をした。

 「まあ、色々と違う所はあるけど、市花も風峰さんも先祖の血のせいで大変な目に遭ってるしね」

 金兎のその予想に、市花は苦笑して、優音達の方に意識を集中させた。

 口調と表情をコロコロ変えて喋る優音に、これからどうしたものかと困っている茜と楓のその様子に、市花は少し苦笑。

 「……私と違って、風峰さんは普通の子だから……出来れば、私みたいな目に遭ってほしくないじゃない」

 市花のその言葉に、金兎は沈黙。

 神殺しを受けた神が殆ど力を失った状態でこの世に復活している。

 その事実は、退魔士側の者達に様々な思惑を抱かせてしまう。

 女神に対する恐怖や探究は勿論、その女神を宿し平然としている優音自身にもその様々な思惑は向けられつつある。

 そう考えると、あるいは血を濃くする為に贄姫されそうになった市花より、優音のこれからは苛烈で残酷な物になるかもしれない。

 「だから、それなりに有名な私が近くに言えば、いい魔除け代わりになるでしょ」

 「それに偽刀流もついでいれば、魔除け効果も二倍以上ですの」

 さらっと市花の隣にいた鋼が、そんな事を言ったので、市花は酷く迷惑そうな顔になって、

 「あなたへの護衛の依頼は取り消しになったはずですよね……」

 市花の言う通り、市花が優音の護衛に名乗り出た時点で、鋼への依頼は取り消された。

 なのに、市花が学校に行くと、何故か一緒に転入しており、

 「私、負けっ放しは嫌いですの」

 とか言い出す始末。

 仕方がないので、金兎が鋼を雇う形で優音の護衛に加える事になったのだが、まともに護衛する気があるのか怪しい所で、市花はこれからの事を思うとため息を吐くしかなかった。

 「まあ、とにかく、せっかくの機会だから、高校生活を楽しんだら?」

 金兎の慰め交じりの提案に、

 「……楽しむ?」

 ちょっと戸惑いを見せた市花だったが、

 「市花さぁ~ん。そろそろ昼休みが終わりますから、教室に戻りましょぉ~」

 と優音に呼ばれ、手を引っ張られた。

 ふと殺伐とし、常に張り詰めていた今までの退魔士生活を思い出し、

 「……まあ、確かにこういうのも悪くはないかもね」

 とんでもない事がその身に起こっているのにのほほんとしている優音の様子を感じると、そんな事を思わずぽそっとつやいてしまう市花だった。


 「何か言いました?」

 「いいえ……これからよろしくお願いしますね風峰さん」

 「ん~優音でいいですよ。優音は市花さんの事を市花さんってもう呼んじゃってますし」

 「……そうですね……これから長い付き合いになるかもしれませんし……では……優音さん」

 「はい! 市花さん」

 「必ずあなたを守りますから、安心してください。今度は絶対に」

 「はい。よろしくお願いします」

 「……何だかあたし達がないがしろにされていない?」

 「ねえ。二人の世界を作っちゃってる感じがする」

 「二人はそっち系ですの?」

 「市花……」

 「愛を感じます」

 「「違う!」」


                                           終わり


以上で終了です。

楽しんで頂けたでしょうか?

なお、今回の投稿前に、ある程度の修正は行っています。

主な修正は、基本的な小説のルールに基づいて書かれていなかった部分の修正と、今回の見直しで発見した誤字脱字です。

ですので、ストーリーや設定は一切弄ってませんので、そこら辺に対する意見や批判があると私としては助かります。

勿論、無くてもOKですよ。

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