2話
靖幸は、家に帰ると一目散に自室の戻り、制服を脱ぎ散らかす。そして、洗濯物だけは籠の中に入れて置き、それ以外はしわになると母親に怒られるので仕方なくハンガーにかける。
そこまで終わると、靖幸はPCの電源を入れる。
ピープ音が鳴り、見慣れたOSの起動画面が表示され、その後にみなれたFPSのゲーム「アサルト・センス」のデスクトップが表示される。
「よしよし、今日は、『ショット・ステーション』のスコアを稼ぐか」
先ほどの幼馴染とのやり取りは完全にスルーして、靖幸は、笑顔を浮かべながら最近始めたFPSゲームを起動させようとする。その時、ピーンと音がする。
「誰だろ?こんな時間からメールだなんて」
靖幸は、首をかしげながらメールソフトを開く。
そこには、飛鳥の命令とともに、ダウンロード用のURLがあった。
飛鳥からのシンプルに用件しか伝えてこないメールではあったが、靖幸を恐怖させいうことを聞かせる人形にするには十分な文字数であった。
「はぁ、無駄なソフト入れるとPC重くなって、ゲームに支障が出るのに」
靖幸は、しぶしぶといった感じで『キャンダデイトマスター』の公式ホームページのURLをクリックする。
すぐに、普段使っているブラウザが起動し、トップページを表示する。
「さてさて、どんなゲームなのかな?内容次第ではやってもいいけど。FPSやる時間減るし」
ものすごい不機嫌な顔をしつつ、靖幸はつぶやく。
「なになに?『チェスの駒をモチーフにしたクラスで、レベルアップによってクラスアップ! クラスによってたくさんのスキルが手に入ります。スキル次第で戦闘が有利に!VSモード追加アップデート近日公開予定!』かぁ」
靖幸は、興味がなさそうな渋い表情を浮かべる。
それもそのはずだ。この『キャンダデイトマスター』には、靖幸が好きな銃の類がないのだ。あったとしても弓もしくはボウガン程度で靖幸にとっては「旧時代の遺物」扱いだ。
「はぁ。飛鳥には悪いがこのゲームはパスさせてもらおうかなぁ。さすがに銃がないんじゃ俺、活躍できないよ」
靖幸に、銃を持たせればFPSの経験を生かし無敵に近い存在となるだろう。しかし、靖幸に剣を持たせてもそこら辺の銅像の方が盾として機能する分ましなのだ。
ゆえに、靖幸は基本的に武器は銃以外選ばない。自分でもわかっているからだ。
「やめた、やめたぁ。ひどい目は怖いが、FPSをやって気分を晴らそう!」
と、靖幸が決意したときであった。
prrrrrrrrrr prrrrrrrrrr
と、携帯が着信音をけたたましい音で鳴らす。
「くっそ、せっかくFPS世界にダイブする準備整ったってのに、誰だよ」
靖幸が、イライラを隠さずに携帯を開くとそこには、[着信:黒川飛鳥]の文字。
「は、はいっ。もしもしっ」
『何あわててるのよ。メールは届いたでしょ。インストール終わった?』
「そ、そのことなんだけどね。アスカサン、俺このゲームインスt」
『あぁん。よく聞こえないんだけど。』
「いま、トップページからダウンロード中です。」
この間、約5秒。幼馴染の脅しによって、靖幸は完全に下僕と化していた。
『まったく、メールしてから何してたのよ。まぁ、いいわ。はやくしてちょうだい』
電話越しの飛鳥の声が、脅しからあきれ声に変わる。
靖幸は、そんな幼馴染との通話状態を維持したまま、ページからダウンロードしたインストーラーを起動して、インストール作業を進めるのだった。
数十分後
「インストールと、マインド・ダイバーの設定がおわりました」
靖幸が、か細い声で飛鳥に告げる。その声には、悲壮感が漂っていた。
『じゃ、初期設定終わったら、[始まりの町]の噴水前にいなさい。見つけてあげるから』
「・・・・・・・・はい」
靖幸にはそういうしか道は残されていなかった。
「ここまで来たら仕方ない。とりあえず初期設定は済ませて、飛鳥におこられないようにしよう」
靖幸は、面倒くさそうにそう言うとマインド・ダイバーを装着する。
そして、VR世界に潜るための起動スイッチを入れて、コマンドを叫ぶ。
「ダイビング!」
その言葉が発せられると同時に、靖幸の意識はVR世界に潜っていった。