1話
はじめまして、黒山健太と申します。初の投稿作品となりまして、いろいろとつたない部分が多々あると思いますが、読んでいただければ幸いです。
誤字、脱字や改良点などがありましたら、教えていただけると幸いです。
ズシャッ
と音がして、その場にあったものはポリゴンをまき散らして消えていった。
「ふう」
倒し終わった「敵」が消えるのを確認してから、キャスは一息をついた。
「全く、あの程度のモンスターに何分かけてるのよ。」
仲間であり、戦友でもあるクロスがあきれたような顔で声をかける。
「しょうがないだろ。慣れてないんだし」
キャスは、平然とした顔で何度も返したセリフを返す。
「言い訳はもういい。そろそろ戦闘システムはわかったでしょ」
「まぁね・・・ でも、おかしなことになったよなぁ。このゲーム」
「そうね・・・・」
キャスとクロスは、過去を振り返るかの表情でぼんやりと空を眺める。
キャスとクロスの二人が、プレイしていたゲームの名前は「キャンダデイトマスター(Candidate Master)」。
いまや爆発的に増えたVRMMOの一つでもあり、戦闘自体そんなに難しくないので初心者でも気軽に楽しめるゲームの一つであり、おすすめされているものの中ではひときわ評価が高いはずだった。
二か月程度前に、突如現れた謎のキャラによって、ゲームシステムを根幹から破壊されてしまい、ログアウトできなくなってしまった。
また、今までは出てくるチェスの駒をモチーフにしたモンスターを倒し、キャラのクラスをあげるだけの簡単なゲームだったものが、いきなりクラスアップのためにクエストをクリアしなければならなくなり、クエスト内容がプレーヤー同士のデス・マッチだったりと、陰湿なものになってしまった。
そんなゲームをキャスこと木山靖幸が始めたのは、おかしくなる数週間前。幼馴染であるクロスこと黒川飛鳥に誘われたからであった。
〜三か月前〜
飛鳥とともに帰宅途中の靖幸はあくびをしながら眠そうな顔をしていた。
「ねぇねぇ靖幸―」
満面の笑みで寄ってくる飛鳥。靖幸に、嫌な予感が走るが、とりあえず眠そうな顔で答える。
「なんだよ。飛鳥」
「『キャンダデイトマスター』ってゲーム知ってる?」
有名になったネットゲーム雑誌の表紙を見せ、満面の笑みで近づいてくる幼馴染。ゲーム雑誌の表紙に『キャンダデイトマスターの全貌!』という見出しがでかでかとある。
「いや、知らんな。つか、チェスのゲームか?」
靖幸は、考えるそぶりをしつつ答える。靖幸の父が以前チェスの話題でそんな単語を口にしていたような気がしなくもないので、飛鳥に聞いてみる。
「違うわよ。VRMMOで最近始まったゲームなんだけどさぁ。面白いのよ。よかったらやってみない?」
「俺、ゲームはFPSとJRPGそれにギャルゲー以外やらないことに決めてるんだ。」
誇れることじゃないのに、威張ったように言う靖幸。
(なんにせよ、ネットゲームなら今はFPSだ。ちょうど付録で、限定アイテムが手に入るプロダクトコードが、その雑誌についている。是非ともほしいところだが、飛鳥はそういったものをくれる場合、何かしらの交換条件をだしてくるだろう。今回の場合、その『キャンダデイトマスター』の参加だろう)と靖幸は思った。
「なにそれ、つまんないー。今なら新規参入者とその紹介者に対して、ボーナスと特典アイテムにスキルがもらえるのよー。ねぇやってよぉー」
飛鳥が、頬膨らませながら懇願してくる。靖幸は、突っ込みたいのを我慢して、しぶしぶ答える。しかしこの時、靖幸の頭では(プロダクトコードをもらうにはどうするべきか)という考えしかなかった。
「なんだ。結局はお前の都合じゃんかよ。やらねぇって。つか、そういうことなら俺じゃなくて取り巻きの集団に頼めばいいだろ」
飛鳥は、気さくな性格とその美貌によって非公式ファンクラブが出来るほどの存在だ。こいつがファンクラブのメンツに頼めば、大体の奴が興味のないことにも参加してしまうだろう。また、飛鳥は頭もよく、時折学年ランキングの上位者の中にランクインするほどだ。そんな奴が幼馴染だなんて皮肉なもんだと靖幸は思った。
対照的に靖幸は、社交性が低く、同い年の奴に対してキョドってしまうような性格だ。そんな奴なのだが、意外と友達は多い。
理由は簡単だ。幼馴染でもある飛鳥と行動を共にしているせいか、ともかく人が寄ってくる。しかし、靖幸から話すことと言ったらゲームのことか授業のことぐらいである。
ゆえに暗いや真面目と思われていて、ファンクラブのメンツにはよく攻撃の的にされている。
そんな靖幸にも、特技があった。それは、FPSをはじめとしたシューティング・ゲームだ。「CAS」という名前は、オンラインFPSをやっているものならば一度は目にしたことがある名前だろう。
何しろ、ランキングの上位から落ちたことがないという存在であり、たった一戦でキル数が途方もない数になるぐらいだ。
ゆえに靖幸はFPSと時折暇つぶしでやっているJRPGそれとギャルゲーぐらいしかやらないと心に決めているのだ。
「あの人たちに頼むとさ、アタシのイメージが崩れちゃうから・・・・」
そういいつつ、飛鳥は目を伏せうつむいた。
実は、飛鳥はネトゲ廃人寸前にいる重度のゲーマーだ。ゲームと聞くと、いきなり目の色が代わり、とりあえず手を出してしまう。
このことを知っているのは、靖幸と飛鳥の兄である修一だけである。もっとも、修一はすでに社会人でゲームがあまりできるような人間ではなくなったが。
「まぁ、あいつらは、お前をいろんな意味で神聖視してるからキャラ崩したくないのはわかるが…」
靖幸は苦笑する。
「でしょ。靖幸なら、別にアタシの本性知ってるわけだし。迷惑かけったっていいんだけど。」
「おい。とりあえず、お前が言い出したことで、何かすると俺はろくな目に合わないから、やらない」
「そんなことあったっけ?」
飛鳥がきょとんとした顔をする。
「忘れたとは言わせないよ」
靖幸は、若干いらつきを隠せない表情で返す。
飛鳥に、言われて始めたことは靖幸にとってのトラウマとなっているものが多い。「探検行くよー」と言われて、ついて行って迷子になり、警察のお世話になった六歳。「美容師になる!」と言い出して、靖幸の頭で練習して見事なまでのハゲを作り出して、学校で大笑いされた十四歳。etc
「と、ともかくやってみなさいって。それに、マインド・ダイバー持ってるの、靖幸ぐらいしか知ってる中ではいないんだから」
飛鳥は、焦った顔で返す。(どうやら思い出してくれたようだ)と靖幸は思いつつ、とりあえず疑問をぶつけてみる。
「なんで、マインド・ダイバーが必要なんだよ?潜るための機器ならアカシック・スキャナーでもいいだろ?」
マインド・ダイバーは、VR世界に潜るために必要なデバイスの一種でPCに接続する必要がある。さらに、PC側の設定が面倒だったり、スペックが高く一般的なPCでは厳しかったりと難点はあるが、VR世界へ潜るための機器の中ではひときわ優秀な一品であり、非常に高価なシロモノだ。
対して、アカシック・スキャナーは、PCに接続するだけで準備が整うという非常に簡単なVR機器である。しかし、マインド・ダイバーと比べると反応が悪かったり、といったFPSでは非常に致命的な問題を抱えている。
ゆえに靖幸は、必死に成績を上げて親にマインド・ダイバーを買ってもらったのに対し、飛鳥は同時期に懸賞でマインド・ダイバーを当てた。この時、靖幸は齢十七にして世界の理不尽さを知ったのだった。
「『キャンダデイトマスター』の、推奨環境の中に[VRダイブはマインド・ダイバーをお使いください。]ってあるのよ。実際、アカシック・スキャナーの人はラグが多いのよ。」
「ふーん」
聞いておいて興味がないように靖幸が相槌を打つ。
この時靖幸の頭には、(とりあえず、インストールだけやって飛鳥からプロダクトコードをもらおう。で、ログインしないまま退会してやろう)などという失礼極まりないアイディアが浮かんでいたのだが、やったら飛鳥に殺されてしまうのが目に見えているので口には出さない。
「ともかく、帰ったらURLメールで送るから、必ずインストールして、アタシに連絡入れなさい!わかったわね?」
「へいへい」
「じゃ、アタシはこっちだから。忘れずにやりなさいよ!」
「・・・・・」
「返事!」
飛鳥が眉をひそめながら若干大きい声を出す。
「はいはい」
もちろん、この時点の靖幸には、やる気などさっぱりなかった。この時靖幸が考えていたのは(帰ったら、なんのFPSやろうか)といったことであったのだから。