第89話『猫ミミちゃんが、溜息を吐いていた』
■草原と平穏の国:孤児院
【猫ミミ】「はぁ…………」
【赤髭男】「猫ミミちゃん、何か悩み事でもあるのか?」
【猫ミミ】「えっ!? あたしは悩んでないよ!」
【赤髭男】「嘘をついてもすぐ分かるぞ。ワタシは猫ミミちゃんの2倍生きてるからな」
【猫ミミ】「う~……」
【赤髭男】「話してみろ。無理には聞き出すつもりはないが、人に話すことで解決する悩みだってある」
【猫ミミ】「ん~、別に悩みって言うか……赤髭男さんは、“あんたれす”って知ってる?」
【赤髭男】「あんたれす……“火蠍の毒”かっ! 猫ミミちゃんは、その名前をドコで?」
【猫ミミ】「あのね。長ミミさんが、その毒を飲まされたんだって……」
【赤髭男】「そうか……親しい人が亡くなったのだな」
【猫ミミ】「え? 長ミミさんは死んでないよ?」
【赤髭男】「……“火蠍の毒”を飲まされて助かったのか? それは、運が良い。それじゃあ、何を悩んでいるんだ?」
【猫ミミ】「うー……あのね、この毒を飲まされたのって、あたしに内緒だったんだ」
【赤髭男】「内緒なら、なんで知ってる?」
【猫ミミ】「えっと、その、こっそり耳を澄ませて聞いちゃった。……ご主人さまも長ミミさんも、あたしの事を思って話をしてくれなかったんだと思うんだけど……モヤモヤしてて」
【赤髭男】「子ども扱いされたのが辛い? それとも仲間はずれされたのが悲しい?」
【猫ミミ】「うーん、なんだろう……悲しいわけでも辛いわけでもなくて……」
【赤髭男】「ふむ……」
【猫ミミ】「なんか、こう、自分のことがイヤになるー! みたいな……」
【赤髭男】「猫ミミちゃんは、その長ミミさんもご主人様も好きなんだよな?」
【猫ミミ】「うん! 大好き!」
【赤髭男】「……2人の力になれなくて悔しい、とか?」
【猫ミミ】「あっ……それ、かも……そっか、あたしは悔しかったんだ」
【赤髭男】「ところで、その長ミミさんはどうして助かったんだ? 猫ミミちゃんは知らないかもしれないが、“火蠍の毒”はかなりの猛毒なんだが」
【猫ミミ】「えっとね。ご主人さまの魔術で治したんだって!」
【赤髭男】「ほう、それはすごい。猫ミミちゃんのご主人様は高名な魔術師なのかい? それほどの腕なら、お年を召した御老人かな」
【猫ミミ】「ううん、若くてカッコイイよ! 男主人さまって言うの!」
【赤髭男】「……男主人? 猫ミミちゃんのご主人様は、第十一師団の男主人なのかっ?」
【猫ミミ】「う~ん……、副官女さんが確かそんな事を言ってたような気がする」