第85話『ちょっとだけ、飲みたい気分になっていた』
■鉱山と武勇の国:酒場
【部下男】「オレもご一緒してよろしいですか?」
【白髪女】「おや? ずいぶんと早いねぇ」
【部下男】「お祖母様が、何を想像されているかは分かりませんが……」
【白髪女】「せっかく、アタシが気を利かせたっていうのにねぇ」
【部下男】「変な気の回し方をしないでください」
【白髪女】「ふんっ、どうせ、微笑みながら『しばらくは、このままの関係でいたいな』とか言って誑かしたんだろぉ? ねぇ?」
【部下男】「……盗聴の魔術でも使ってましたか?」
【白髪女】「図星かい。アンタは父親じゃなくて、アタシの亡くなった旦那に似てるみたいだねぇ」
【部下男】「お祖父様に?」
【白髪女】「そうそう、アタシも若い頃は色々と泣かされたもんだよ」
【部下男】(お祖母様が泣く所なんて想像もつかない……)
【白髪女】「もちろん、その3倍は泣かせてやったけどねぇ」
【部下男】「あ~……」
【白髪女】「なんだい、その『納得しました』って声は?」
【部下男】「はっ、いえ、別に、なんでもありません」
【白髪女】「それで、結局どうなんだい?」
【部下男】「あー、えー、その、見た目は結構好みですし、あの挙動不審さも緊張した時に出るクセみたいなものだと思えば、全然可愛いと……」
【白髪女】「…………いや、そっちじゃなくて、昼の話を聞いてるんだけどねぇ」
【部下男】「うっ……」
【白髪女】「満更でもないってわけかい。こりゃ、曾孫の顔は思ったより早く見れそうだねぇ」
【部下男】「あーあー(クイッ)。げほっげほっ、こっちのお酒はキツイですね」
【白髪女】「アタシは結構好みだけどねぇ。もちろん好みといっても酒の話だけどさ」
【部下男】「ぐっ……えっと、向こうが言うには、この国の第一皇女が、男主人様と魔術による会談を望んでいると言う話です」
【白髪女】「ふ~む……」
【部下男】「どう思いますか?」
【白髪女】「メリットとデメリットでいえば、若干メリットに分があるねぇ。そもそも、この国の第一皇女が男主人を騙す理由がないねぇ。兄の敵討ち? 兄妹の仲が悪いと言う噂しか聞かないしねぇ、それもないだろうさ。いっそ素直に話に乗ってみるのも手だろうねぇ」