第80話『黒ミミさんに、殴られていた』
■草原と平穏の国:男主人邸
SE(打撃音):バキィッ!!
【男主人】「つ~っ……気は済んだかな?」
【黒ミミ】「ふん、一発で気が済むわけないだろ」
【男主人】「悪いけど、これ以上は止してくれないかな」
【黒ミミ】「アタシは、言ったよな? 長ミミは幸せか、って? 長ミミは、幸せになる権利があると思ってるんだ」
【男主人】「ああ……すまなかった」
【黒ミミ】「ふんっ、その殊勝な態度に免じて、今回は許してやる」
【男主人】「助かるよ。あんな一撃を何発も食らったら、これからの行動に支障が出る」
【黒ミミ】「で、どうするつもりなんだ?」
【男主人】「黒幕は、分かっている……今回のことは、向こうにとって、あくまで嫌がらせに過ぎないんだろう。嫌いな相手の人形をボロボロにして、喜んでいるようなものだ」
【黒ミミ】「気分が悪くなる話だ。アタシらがオマエの物のような扱いされていることも含めてな」
【男主人】「君だって、僕の噂を聞いてたんだろ? 君もきっと僕の愛人扱いされているさ」
【黒ミミ】「長ミミの報復をするんだろ? アタシも協力してやってもいい」
【男主人】「悪いけど、君の力を借りるつもりはないよ」
【黒ミミ】「そりゃそうか、得体の知れない暗殺師は信じられないだろうさ。でもね……」
【男主人】「待った。それは違う」
【黒ミミ】「何が違うんだい?」
【男主人】「君の腕も人柄も信じているよ。今の状況は、相手一人を暗殺して終わるようなもんじゃないんだ。それで済むなら、僕がとっくに手を下している」
【黒ミミ】「つまり、それほどの相手ってことかい?」
【男主人】「ああ……暗殺して気が済むのは一瞬だけだ。統率を失った、相手の勢力がどんな手段に出てくるか分かったものじゃない。やるときは勢力ごと、まとめて力をそぐ必要がある」
【黒ミミ】「慎重だな。まぁ、闘士はいつでも冷静であるべきだ。その姿勢は認めてやる」
【男主人】「僕は臆病なだけさ。普通の人より丈夫で、バケモノと呼ばれるくらい魔術が使えると言っても、決して万能なんかじゃない」
【黒ミミ】「自然の中で最後まで生き残れるのは、強いヤツでも偉いヤツでもなく、自分が弱いことを知っているヤツだ。
強いヤツは何も考えないし、偉いヤツは何もしようとしない。自分が弱いと知っているヤツは、生き残る方法を考えるし、何をするにも躊躇わない」
【男主人】「それは?」
【黒ミミ】「エルフ族の闘士に教えられる訓戒みたいなもんだ。オマエに相応しいだろ?」




