第79話『男主人は、勝負を賭けていた』
■草原と平穏の国:馬車の中
【長ミミ】「……はぁはぁ…………」
【男主人】(だいぶ熱が上がってる、それに保有魔力の乱れ……間違いなく“火蠍の毒”による中毒症状だ。
“火蠍の毒”が体内に入ると、対象が持つ魔力の流れを阻害する。その結果、保有魔力が乱れ、体温の異常な上昇などの症状を起こす……はず。
長ミミがエルフ族であることも最悪だ……人間族よりも保有魔力が多いために、症状の進行が早い。
下手な魔術は効果がない。むしろ長ミミに、これ以上の魔術を掛けるのは危険だし……。
……くうっ、もっと簡単な毒だったら、僕でも解毒できるのに……自分が毒や病気に侵されないからと、治療系の魔術を積極的に習得しなかったツケかっ!
今は、悔やむなっ! 悔やむのは後でもできる!
まず長ミミを助ける手段を…………ん? 今、何か思い浮かんだぞ。
僕は毒が効かない……これは生まれ持った体質で、原因は過剰な保有魔力による恒常性維持の副作用。保有魔力は、ヒトの体液の流れに沿って体内で循環している。
……エルフ族と人間族の間に、肉体的な相違はほぼなく……ということは……。
まずは、血液の種類を確認しないと……)
SE(短剣を抜く音):チャキ
【男主人】「……んっ(自分の左の掌を切る)。長ミミ、少し痛いけど我慢して……(長ミミの右の掌を切る)」
【長ミミ】「いつっ!」
【男主人】「…………凝固作用が起こらない、僕と長ミミの血液は同種……よっし!
長ミミ、僕の声が分かるかっ!? 今から、お互いの傷口と流れる血液を仲介して魔力の同調させ、二人で一つの魔力の循環を作る。呼吸を整えて、力を抜いて、僕に全部魔力を委ねてくれるか?」
【長ミミ】「わ、かりまし、た……ご、主人様を、信じ……ています……」
【男主人】(くっ……仲介箇所が一つだけだと、循環が上手くいかない…………僕からの魔力の流れと長ミミからの流れが衝突しあう…………ああ、これは非常事態ってことで!!)
【長ミミ】「んんっ!?」
【男主人】(ぐっ、この流れを保て、ばっ…………!!)