第77話『男主人は、踊り疲れていた』
■草原と平穏の国:夜会(中庭)
【長ミミ】「お疲れ様でした。ご主人様」
【男主人】「ねぇ、君たちは、僕をどうしたいの? 交互に10曲連続休みなしで躍らせるって、ひどくない?」
【長ミミ】「どこがひどいのでしょうか? 教えていただけますか?」
【男主人】「……うう、ごめんなさい」
【長ミミ】「分かればよろしいのです。それに、途中からこっそり自身に魔術を掛けて、肉体の性能を強化されてましたよね」
【男主人】「うわ、よく気付いたね。軽く強化したけど、この手の魔術って、反動で疲労がすごいんだよ……その疲労を魔術で癒すと、次は精神的な疲労がくるわけで……」
【長ミミ】「そもそも、ご主人様がハッキリしないのがいけないのです。最初にどちらと一緒に踊るかで迷い、曲の長さを考えずに長々と踊り、挙句の果てにワルツのステップを踏み間違えたフリをして副官女さんに……」
【男主人】「そ、それはフリじゃなくて、本当に間違えたんだって! 何度も説明しただろ! 副官女だって謝ったら分かってくれたし!!」
【長ミミ】「フッ……」
【男主人】「鼻で笑われたっ!?」
【長ミミ】「まぁ、そういうことにしておきますが……ところで、この後はどうなさりますか?」
【男主人】「そうだね。少し涼んだら、東公爵に挨拶をして帰ろう。猫ミミちゃんも待っているだろうしね」
【長ミミ】「かしこまりました」
【給仕娘】「お客様、お飲み物はいかがでしょうか? 本日は、葡萄酒がお勧めですが」
【男主人】「ありがとう、それじゃあ、僕はその葡萄酒を、長ミミは?」
【長ミミ】「では、同じものを……」
【給仕娘】「どうぞ。それでは、お楽しみ下さい」
【男主人】「それじゃあ、夜会が無事に終わりそうなことを記念して、乾杯(チン」
【長ミミ】「乾杯(チン」
【男主人】「(コク)ん、さすがは弟大公様の夜会だね。出てくる葡萄酒もランクが違う。これ一杯で、僕が普段飲んでいる葡萄酒が数瓶、下手したら樽ごと買えるんだろうなぁ……こっそり一本持って帰ろうかな」
【長ミミ】「ご主人様……(冷たい眼差し」
【男主人】「じょ、冗談に決まってるよ……?」
【長ミミ】「それにしては、ずいぶんと眼が本気のようでしたが?」
【男主人】「くっ、男には避けて通れない戦いと言うものがあるのさ」
【長ミミ】「カッコイイことを仰っていますが、葡萄酒一本分とは、ずいぶん安い戦いですね」