第64話『男主人は、噂されていた』
■草原と平穏の国:男主人邸
【男主人】「…………」
【黒ミミ】「…………」
【男主人】(さて、どうしたものかな……逃げ出す様子もないし、仕掛けてくる様子もない)
【黒ミミ】「……一つ聞きたい」
【男主人】「こっちは、色々と聞きたいけどね。それで?」
【黒ミミ】「今、長ミミは幸せか?」
【男主人】「はっ? いや、ちょっと待って、君は長ミミの関係者なのか?」
【黒ミミ】「答えろ、そうしたら、そっちの聞きたいことは一通り答えてやる」
【男主人】「いや……まいったな、想定外の質問だ。長ミミが幸せどうかなんて、本人以外には分からないんじゃないか? 少なくても不幸そうには見えないけどね」
【黒ミミ】「ふんっ、使えない」
【男主人】「ふっ、そのえぐるような言葉のナイフ。君が長ミミの関係者で間違いがなさそうだよな」
【黒ミミ】「それで、何が聞きたい?」
【男主人】「あー、まず、名前と所属。それと僕の寝室に長ミミの振りをして潜り込んできた理由?」
【黒ミミ】「黒ミミ、“棘の氏族”、長ミミの主が色ボケという噂の真偽を確かめるため」
【男主人】「ふむ……つまり、長ミミとは同郷ってことか。というか、どんな噂を聞いてきたんだか」
【黒ミミ】「やはり噂とは当てにならんな」
【男主人】「ま、そうだな」
【黒ミミ】「……色狂いの変態という噂だったが、ただのヘタレか」
【男主人】「いたたたっ! 僕のデリケートな部分がとっても傷ついた!?」
【黒ミミ】「ふんっ」
【男主人】「結局、君は一体何のためにわざわざこの国までやってきたんだよっ!?」
【黒ミミ】「そう取り乱すな。アタシをしばらくこの家で雇って欲しい。長ミミだったら、アタシの身元を保証してくれる。返事はそれからでも構わない」
【男主人】「分かった。雇おう」
【黒ミミ】「はっ!? アタシが言うのもなんだが、オマエは底抜けのお人良しか馬鹿なのか?」
【男主人】「長ミミのことは信じている。仮に長ミミが何らかの魔術で操られたり、脅されていれば、すぐに分かるしな。そもそも、そんな方法で身元証明をしろ、と言っている時点で疑いはないさ」
【黒ミミ】「……屁理屈もいい所だな」
【男主人】「とりあえず、また明日来てくれないか。今日はもう眠い、詳しい話は今度だ」