第61話『赤髭男は、迷っていた』
■草原と平穏の国:孤児院
【赤髭男】「老院長殿、薪割りは終わった」
【老院長】「おお、ご苦労様」
【赤髭男】「他に何か仕事はあるか?」
【老院長】「いやいや、お客に雑用ばかりさせるのもなんじゃしの」
【赤髭男】「ワタシは客人ではない。命を救ってもらい、その上、何も聞かずに置いてもらっている。正直な所、ただ何もしないでいると居心地が悪い。やれることがあれば、やらせて欲しい」
【老院長】「……しかしの」
【赤髭男】「何か問題が?」
【老院長】「いや、儂らには問題はないが、子供達の遊びにも付き合ってくれとるし……生まれてこの方、子守りなぞ、したことなかったじゃろ?」
【赤髭男】「確かに子守りの経験はないが……」
【老院長】「それにな。お主は、あまり目立たない方が良いんじゃないかの?」
【赤髭男】「!?」
【老院長】「儂もまだまだ耄碌しとらんでな。こう言っては悪いが、儂はお主が子供好きの善人だとは思っとらん。自身のためには、簡単に他人を利用する……そんな性分じゃろ?」
【赤髭男】「…………」
【老院長】「そう怖い顔するな。老人の戯言じゃ、ただ、伊達に年を食ってないでな……お主は、まるで若い頃の自分を見ているようじゃ。何の因果か、この年になって孤児院のジジイなぞやっとるが」
【赤髭男】「……ワタシと老院長殿が似ている、というのか?」
【老院長】「若い頃の、と言うたじゃろ。今の儂は子供達から好かれる素敵院長様じゃ」
【赤髭男】「ワタシは……」
【老院長】「無理に話さんでもええぞ。逆に話したいならいくらでも聞いてやるがの」
【赤髭男】「そこまで……ワタシの危うさを分かっていて、ここに置いてくれる?」
【老院長】「猫ミミちゃんの頼んできたからじゃ」
【赤髭男】「猫ミミちゃんが?」
【老院長】「あの子は面白いの。儂が出会った孤児の多くは、もっと独特な目付きをしておった。何かを諦観したような死んだような目か、憎悪から生まれたような暗くギラついた目……だけど、猫ミミちゃんは全てを許して、受け入れるような、そんな目をしておる」
【赤髭男】「分からなくもない……」
【老院長】「その猫ミミちゃんがな、お主を助けて欲しいと、この孤児院に来て二度目のお願いをしたんじゃ。一度目は“また来てもいいですか?”じゃったしな。実質初めてのお願いと言えようか」
【赤髭男】「何故、ワタシにそこまでしてくれる」
【老院長】「さぁ、それは儂にも分からん。ただ、少なくとも……ここ数日、お主の事を見ておったらな。善人ではないが、根っからの悪党と言うわけでもないことが分かるしの。
それに、居心地が悪いのはタダで飯を食らうことじゃなく、そんな自分の変化に戸惑っとるからじゃ。今のお主は人を害するほどの気概を持ちお合わせてないじゃろ」
【赤髭男】「ああ……その通りかもしれない。ワタシは、自分を見失っている……」