第58話『猫ミミちゃんは、聞かないでいた』
■草原と平穏の国:孤児院
【猫ミミ】「おまたせー。はい、どうぞ」
【赤髭男】「ん、ありがとう……(もぐ)むぅ……」
【猫ミミ】「(じぃ)……」
【赤髭男】(食えない味じゃないが……いや、この部屋の様子からすれば、この味も妥当か)
【猫ミミ】「味……どうかな?」
【赤髭男】「う、ん……少し味が薄いかもしれないが、今のワタシにはちょうどいい(もぐもぐ)」
【猫ミミ】「つまり、美味しくないってこと?」
【赤髭男】「いや、美味いよ、ほら(がつがつ)……うっ(胸をドンドン」
【猫ミミ】「わわわ、急いで食べるから!!」
【赤髭男】「げほげほ、は、はぁ……」
【猫ミミ】「別に正直に言ってよかったのに、赤髭男さんって、今はボサボサしてて浮浪者さんみたいだけど、本当はお金持ちとか貴族さんじゃない?」
【赤髭男】「なんでそう思った?」
【猫ミミ】「生まれた時から、美味しそうな物だけを食べて育ってきましたよ、みたいなとことか? 後、少し雰囲気がご主人さまと似てるとこもかな?」
【赤髭男】「戦場では、もっとひどい食事で過ごししたことだってある」
【猫ミミ】「……やっぱ、美味しくないと思ったんだ?」
【赤髭男】「ごほんごほん……、ん、ご主人様? ここは孤児院だと聞いたが、キミは誰かに仕えているのか?」
【猫ミミ】「うん、あたしはね。この街の生まれじゃなくて、色々あってこの街に連れてこられた所を、ご主人さまと長ミミさんに助けてもらったの。だから、いつもはお屋敷の方でメイドさんをしてるから、孤児院にはお休みの日にしか来れないんだよ」
【赤髭男】「そうか……」
【猫ミミ】「で、赤髭男さんは何者なの?」
【赤髭男】「死に掛けていたワタシを助けてくれたことは感謝している。しかし……」
【猫ミミ】「やっぱ、今の質問はナシ!!」
【赤髭男】「な、なし?」
【猫ミミ】「うん、だって、あたしのワガママだもんね。赤髭男さんは、赤髭男さんでいいよ」
【赤髭男】「…………なんで、そこまでワタシのことを信じられる?」
【猫ミミ】「ん~、倒れていた赤髭男さんがね。あたしに言ってたんだ」
【赤髭男】「何を? すまないが、記憶がおぼろげで……ワタシはキミに何と言ったんだ?」
【猫ミミ】「“生きたい”って……」
【赤髭男】「生きたい……」
【猫ミミ】「うん、“生きたい。このまま死ぬものか”って、そう悲しそうに言ってたよ」