第54話『男主人は、人を嫌いになれないでいた』
■草原と平穏の国:王宮(執務室)
【男主人】「副官女は随分と優しくなったよね……いや、僕も丸くなったから、お互い様かな?」
【副官女】「む、昔のことは言わないで下さい!」
【男主人】「僕の両親は共に魔術師だったけど、決して優秀と言えるほどの力があったわけじゃない。僕が持つ膨大な魔力は、血統からすれば突然変異みたいなものでね」
【副官女】「その……男主人様のお父様はお母様を疑ったりはしなかったのですか?」
【男主人】「むしろ両親は、子供の僕が恥ずかしくなるくらい愛し合ってた。父は、僕の異常さを気付いてすぐに封印を施し、王宮に僕の力を隠したんだ。今だからこそ、父の正しさが分かるし、その判断に尊敬すらしてる」
【副官女】「素敵なご両親だったんですね……」
【男主人】「東公爵夫妻も素敵な方々だと思うけど」
【副官女】「まぁ、自慢の両親とは言いにくいですが、……優しい両親ではあります」
【男主人】「僕のこの力が、子どもに継がれるかどうかは分からない。けど、僅かでもその確率があるなら、子供なんかは欲しくない。むしろ、子供が作ることが想像できない。僕は一人で生きて死のうと思ってた」
【副官女】「…………」
【男主人】「僕はあの戦争で、一度“心”を失くしたんだ。いや、失くしたんだと思い込んでいただけだったかな」
【副官女】「…………」
【男主人】「ダメだよねぇ。僕は、人が嫌いじゃないんだ。長ミミや猫ミミが来て、家に一人じゃなくなって、余計に感じちゃってさ」
【副官女】「私じゃ、ダメだったんですか?」
【男主人】「ううん、副官女や部下男、妹や師匠、一応、王子様がいてくれたから、僕は人を嫌いになりきれなかったんだと思う。その僕の歪みを長ミミに指摘されちゃってね」
【副官女】「長ミミさんですか……」
【男主人】「容赦ないよ。人が必死に目を背けていた事実をいきなり突きつけるんだ」
【副官女】「なんて言われたんですか?」
【男主人】「『副官女様は……お嫌いですか?』だってさ、咄嗟に言い返せなかった」
【副官女】「私の……ことを?」
【男主人】「嫌いじゃないよ。好きか嫌いかのどっちかなら、多分好き。けど、それが男女の愛かと問われれば、分からない……単純に自分が親になる自信がないだけなのかな」
【副官女】「分かりました。じゃあ……」
【男主人】「ただね、あんまり挑発されると……僕も我慢が効かなくなるというか、そういう欲がなくなったわけじゃないから……魔術で純粋に行為だけをすることができるから、気をつけてね?(にっこり」
【副官女】「き、気を付けますっ!!(真っ赤」