第53話『男主人は、自分を恐れていた』
■草原と平穏の国:王宮(執務室)
【男主人】「おはよう」
【副官女】「……おはょぅ……ございます(視線逸らし」
【男主人】「…………うん、副官女、ちょっと話をしようか」
【副官女】「あ、あの、申し訳ありません。昨日はちょっと、やりすぎたといいますかっ!!」
【男主人】「そのことで謝ろうと思ってね」
【副官女】「えっと、それはつまり……お断りされたという事です、よね?」
【男主人】「んー、結果としては断ることになるかもしれない、けど。あのさ、少し話をしようか?」
【副官女】「は、はい」
【男主人】「僕が“救森の魔術師”と呼ばれる原因となった『焦森戦争』について、簡単に言える?」
【副官女】「発端は7年前「鉱山と武勇の国」による「森林と調和の国」へ侵略目的の進軍、我が国から当時の第五師団が「森林と調和の国」への援軍として派遣されました。
その時の第五師団の師団長が王子様で、男主人様は小隊長の1人たった」
【男主人】「それの結果は?」
【副官女】「第五師団が用いた大規模な火計により、「鉱山と武勇の国」の軍が壊滅的な損害を受けて撤退。その火計の発案者が男主人様だった……えと、どこか間違えてましたか?」
【男主人】「いや、一般的にはそれで正解。けど、そこに一部の人しか知らない事実があってね」
【副官女】「じじつ?」
【男主人】「僕は発案者というだけでなく、火計の実行者であったこと……それも1人だけの」
【副官女】「えっ……?」
【男主人】「詳しい説明は端折るけど、僕が敵軍に潜り込み、敵の指揮官の一部を暗殺し、命令系統を乱す。その後、僕の魔術により、敵の駐屯地の三方から火を起こして…………森一つを焼き尽くした」
【副官女】「!!??」
【男主人】「戦時中に僕が直接手に掛けた人数は20人もいってないと思う。けど、その時の火計による死者は1万88人と公表されている。もちろん、それ以上の負傷者がいただろうね。副官女は、僕が怖い?」
【副官女】「…………怖く、ないです」
【男主人】「僕は怖かったよ。大量に人を殺せてしまう、自分の力が……実際、人からバケモノと呼ばれたことも少なくない。
敵軍が僕のことを“不死の魔人”と呼ぶのも理解はできる。殺そうと思っても殺せない、それどころか一方的に殺される側にとっては、まさに不死身のバケモノという呼称はぴったりだ」
【副官女】「私は、男主人様が怖くもないし、バケモノでもありません!!」
【男主人】「…………」
【副官女】「人が人である以上、人を殺すのはいけないと思います。けど、人が人を殺すのを許容してしまう戦争は、実際にあって……、だから……、すみません、上手く言葉にできなくて、でも絶対何かが違うんです」