第37話『部下男は、決意していた』
■草原と平穏の国:酒場
【男主人】「えっと、師匠……すみませんけど、そろそろお開きにしませんか?」
【白髪女】「ふむ、アタシはちょいと孫と会話がしたいんで、先に帰ってくれるかい?」
【男主人】「(小声)部下男……健闘を祈る」
【部下男】「(小声)男主人様……明日からは病欠でよろしくお願いします」
【男主人】「(ちゃらり)師匠、酒場の払いはこれで払ってください。では、お先に失礼します」
【白髪女】「さて、ありがたくご馳走に預からせてもらおうかねぇ」
【部下男】「で、お祖母様、わざわざオレを残した理由ってのは?」
【白髪女】「アンタが男主人について何を知ってて、どんな考えかを確認しとこうかと思ってねぇ」
【部下男】「お祖母様以上のことは知らないと思いますけど」
【白髪女】「アンタと男主人が出会ったのは、男主人がアタシの弟子になった翌年だから……12年も前かい」
【部下男】「一応、男主人様はオレの兄弟子ってことになりますね」
【白髪女】「そう言うなら、そうなるねぇ」
【部下男】「7年前の『焦森戦争』では、男主人様が小隊長、オレがその部下で……」
【白髪女】「男主人が味方側には“救森の魔術師”、敵国にとっては“不死の魔人”と呼ばれる活躍を見せた」
【部下男】「それだけだったら良かったんですが……」
【白髪女】「宮内で王子派と主権を争っていた王弟派には面白くない話だった」
【部下男】「王子様と幼馴染で右腕と呼ばれる男主人が“栄誉”と“権力”を手に入れてしまう可能性」
【白髪女】「そして、忌まわしい男主人邸虐殺事件……生き残ったのは男主人と義理の妹だけ」
【部下男】「実行犯は男主人様によって殲滅されましたが……」
【白髪女】「主犯と思わしき貴族が次々と謎の死を遂げ、事実は闇の中に……」
【部下男】「やったのは男主人様でしょうか?」
【白髪女】「さてねぇ。アタシたち以外にも、そう考えた人は少なくはないだろうねぇ」
【部下男】「あの時、オレは男主人様の力になれなかったこと、止めれなかったことを悔やみます」
【白髪女】「しょうがないさ、男主人が持つ膨大な魔力は、人が持つ能力としては異常過ぎる」
【部下男】「だけど! 男主人様はオレらと同じ普通の人間です!!」
【白髪女】「ああ、普通だからこそ、戦争で起こした自らの大量殺人について、心を痛めていたねぇ」
【部下男】「…………少なくともオレは男主人様について行きます」
【白髪女】「やれやれ、アタシもしばらくは寿命を迎えるわけにもいかないようだねぇ」