第36話『男主人が、心配されていた』
■草原と平穏の国:酒場
【白髪女】「さてと……ステージ オン フェイク サウンド……《虚像世界》」
【部下男】「これは《結界作成》系の魔術ですか?」
【男主人】「うん、このテーブルに座っている僕たち以外には、僕たちの姿が認識できなくなっているはず」
【白髪女】「あ、しまった。アンタたちに任せればよかったねぇ。無駄に疲れなくてすんだ」
【部下男】「いやいや、オレは、そんな高等魔術は使えませんから」
【白髪女】「そうなのかい? 情けない。アタシの孫ならこのくらい“代用詠唱”で使いな」
【男主人】「それ、結構無茶言ってますけど。で、結界を張ったということは本題に入るのですね?」
【白髪女】「そうだねぇ。正直に答えてくれると嬉しいんだけどねぇ」
【男主人】「何をですか?」
【白髪女】「アタシの力は必要かい?」
【男主人】「…………何のために?」
【白髪女】「遅くても半年、早ければ来月には、戦争が始まるんだろ?」
【部下男】「なっ! 何を言ってるんですかお祖母様!!」
【男主人】「はぁ……部下男、語るに落ちてる」
【白髪女】「もうちょと部下には心理戦の基礎を教え込んでおくんだねぇ」
【男主人】「というか、勘弁してください師匠……どこに自分の弟子と孫に心理戦を仕掛ける人がいるって言うんですか」
【白髪女】「何事も経験じゃないかい」
【男主人】「まぁ、いいです。師匠もある程度の情報は、既に掴んでいるんでしょう?」
【白髪女】「そうだねぇ。こう見えても西の情勢には気を配っていたからねぇ」
【男主人】「こっちは、武具と兵糧、それと傭兵の流れを追っていましたが、ほぼ確定ですね」
【白髪女】「7年前の戦争で消えずに燻っていた火種がまた煙を上げだしたって所かねぇ」
【男主人】「付き合うほうは溜まったものじゃありませんけど……」
【白髪女】「アンタは、また“心”を削って削って削り減らすつもりかい?」
【男主人】「削るも何も、喪った物は減らしようがありませんから」
【部下男】「男主人様…………」
【白髪女】「はぁ、やれやれ……難儀だねぇ」