第160話『月明かりの下で、想いを受け止めていた』
■草原と平穏の国:男主人邸(裏庭)
【長ミミ】「ご主人様、こんな所にいらしたんですか」
【男主人】「長ミミか……みんなはどうした?」
【長ミミ】「猫ミミちゃんは、はしゃぎ疲れて眠ってしまいました。副官女さんと妖艶女さんは、まだ飲んでいましたが……」
【男主人】「2人とも大丈夫かなぁ……」
【長ミミ】「いい大人ですし、二日酔いなどになっても自業自得でしょう」
【男主人】「まぁ、それもそうだけど。なんか、やっと帰ってきたという気がするな」
【長ミミ】「そうですね。私も……そう思います」
【男主人】「月が綺麗だな…………」
【長ミミ】「ええ…………そう思います」
【男主人】「この間の話、だけど……」
【長ミミ】「いつの話でしょうか?」
【男主人】「あの「森林と調和の国」の集落で再会した時の夜の話?」
【長ミミ】「ええ…………」
【男主人】「…………」
【長ミミ】「…………」
【男主人】「先に、少し自分の話を、していいかな?」
【長ミミ】「どうぞ……」
【男主人】「もっと以前にさ、僕は自分の子供が生まれるのが怖いって話をしたじゃないか?」
【長ミミ】「ええ…………」
【男主人】「だから、誰とも結婚もしないし、付き合う気もない、みたいなさ……」
【長ミミ】「覚えて……います」
【男主人】「まぁ、裏を返せば、怖がっているのは、それだけ求めていたから……なんだよね」
【長ミミ】「求めて?」
【男主人】「ヒトはさ、必要が無いと思っているものや興味がないものには無頓着になるんだよ。
憎んでいる、怖がっている、嫌っている……どれも悪いイメージがあるけど、その気持ちが強ければ強いほど、対象に対する想いは深くなっている。
憎んでいるのは愛せなかったから、怖がっているのは手に入れれないことへの嘆き、嫌っているのは好きになってもらいたい証……という面もあるはずなんだ」
【長ミミ】「そうなのですか……?」
【男主人】「なぁ、長ミミ……」
【長ミミ】「はい?」
【男主人】「月が綺麗だな…………」
【長ミミ】「その言葉は先ほども聞きました……」
【男主人】「…………」
【長ミミ】「…………」
【男主人】「なぁ、長ミミ……」
【長ミミ】「はい?」
【男主人】「“耳に触ってもいいかな?”」
【長ミミ】「それは、どういう意味で、ですか?」
【男主人】「うっ……」
【長ミミ】「(じぃ)」
【男主人】「…………」
【長ミミ】「…………」
【男主人】「……長ミミ、僕と結婚してくれないか?」
【長ミミ】「そこ、疑問系なんですか……?」
【男主人】「長ミミ、結婚しよう」
【長ミミ】「その前に聞きたい言葉があるのですけど?」
【男主人】「…………僕の子供を生んでくれ?」
【長ミミ】「違います。“あ”で始まる言葉です……」
【男主人】「…………」
【長ミミ】「…………」
【男主人】「……長ミミ」
【長ミミ】「はい?」
【男主人】「愛してるよ」
【長ミミ】「ええ、知ってます」
【男主人】「僕と一緒に生きて欲しい」
【長ミミ】「私もです」
【男主人】「結婚しよう」
【長ミミ】「ええ、喜んで」