第152話『妖艶女は、忍び込んでいた』
■草原と平穏の国:郊外の屋敷
【妖艶女】(ったく、こんな盗賊紛いのこと、本当はアタイの役割じゃないんだけどね、っと)
【妖艶女】(近くに人の気配はない……例の人質がいるのは、確か2階の廊下の突き当たりの部屋……階段はどっちだ?)
【妖艶女】(…………?)
【妖艶女】(……どういうことだ、これは? 人の気配がなさ過ぎる)
【妖艶女】「もう、移動した後なのか……」
【給仕娘】「いいえ、彼女はまだここにいますよ」
【妖艶女】「!!??」
【給仕娘】「ワタシの指示で、見張りは全員この屋敷から出て行ってもらったけど、彼女は2階の廊下の突き当たりの部屋で、静かにしているわ」
【妖艶女】「ア、アンタは……なんで、ここに居、ぐっ」
【給仕娘】「くすくす、男を誑し込むのが自分だけの専売だと思わないで欲しいわね。もっとも、ワタシは聞き出すためじゃなくて、聞かせるのが目的だったけど」
【妖艶女】(ヤバイ、これは……罠に嵌められた……)
【給仕娘】「思っていた以上に素敵ね、アナタ。“戦い方を知らない”割には、よく、ワタシの殺気に耐えているわ」
【妖艶女】(殺気だって……? 殺気だけで、こんなに重圧が……手足が動かない……)
【給仕娘】「そんなに人を化け物のように見ないで欲しいわね。アナタは、ワタシと同じ化け物の手駒なんでしょう?」
【妖艶女】(化け……物?)
【給仕娘】「分かってないの? それとも知らない振りかしら? アナタの飼い主は、男主人なんでしょう? ワタシが化け物なら、カレだって十分化け物よ。ううん、カレはワタシ以上の化け物よ……(くすくす」
【妖艶女】「!!」
【給仕娘】「怒っちゃった? でもね、アナタよりワタシの方がカレのことをよく分かっているのよ。だって、ワタシはカレと同じ化け物なんだから……」
【妖艶女】「……それ以上口を開くな! アンタの話はこれ以上聞きたくない!!」
【給仕娘】「ふふふ、ワタシの殺気を打ち破るほど、精神が高揚しちゃったのね」
【妖艶女】「アンタの目的は何なんだ!!」
【給仕娘】「目的なんかないわ、生きているのだって、ただの暇つぶしですもの……さぁ、悪い化け物の呪縛から抜け出した王子様は、囚われの姫の元へ向かう権利があります。どうぞお通り下さい(優雅に一礼」
【妖艶女】「くっ……」