第146話『再会した日が、昔のように感じていた』
■森林と調和の国:“棘”の集落(特務隊天幕)
【男主人】「さてと……」
【長ミミ】「お疲れ様です。ワインなどをお持ちしましょうか?」
【男主人】「いや、いらない……というか、色々と話が聞きたいんだけど。まず、なんでここにいるんだ?」
【長ミミ】「馬に乗って来たからでしょうか?」
【男主人】「いや、そうじゃなくて! 屋敷で、僕の帰りを待っているっていう話じゃなかったっけ?」
【長ミミ】「その件については明確な返答をしておりませんが? まぁ「いってらっしゃいませ」とお見送りをしましたので、その事が誤解を招いた可能性については、主観の違いかと思われます」
【男主人】「ええい、予算会議の文官長の真似か!!」
【長ミミ】「いえ、商工ギルドの副ギルド長の真似でしたが」
【男主人】「そんな違いが分かるかっ!!」
【長ミミ】「ポイントは、“可能性”という単語を多用する所です」
【男主人】「無駄な知識過ぎる! まぁ、ここにいるのはいいとしよう。昼の件は一体どういうことかな?」
【長ミミ】「ご主人様が苦境に立たされていたようでしたので、思わず援護を……と」
【男主人】「……確かに、あの時は討論のアドバンテージをとられて困っていたし、概ねこっちの思惑通りに話は決着したけど……その部分については感謝している」
【長ミミ】「…………」
【男主人】「で、“耳問い”って、何のこと? すくなくとも、僕は初めて聞く単語だったんだけど」
【長ミミ】「以前、「エルフ族の女性は、異性が耳に触ると子供ができる」という話をしたのを覚えていらっしゃいますか?」
【男主人】「昼にも言われたけど、僕が長ミミに“耳を触っていいか”と聞いた時の話だよね? なんだか、懐かしい感じだけど、長ミミが僕の屋敷で働き始めた頃の話だから、そんなに昔の話でもないか」
【長ミミ】「その俗説になった元となるエルフ族の古い慣習が“耳問い”なのです。例えば、エルフ族では一生涯の友人を“同じ耳をしている”など、耳を重要視する風習があります。
耳に触らせる行為は、同性同士なら不破の友情や忠誠を意味し、異性同志の場合……その、子を生す様な関係になることを意味します」
【男主人】「……つまり、“耳問い”ってのは、求婚みたいなもの?」
【長ミミ】「みたいなではなく、まさに求婚、そのモノです」
【男主人】「あーー……」
【長ミミ】「……知らずに言っているというのは気付いていました、あの時は、本当に内心すごくドキドキしていたんですよ?」
【男主人】「うっ……その割には、「性的興奮は催しません」とか平気な顔をしてたような」
【長ミミ】「何を言っていいのか分からずに、口走っていただけです。それに、あの時だって、イヤだとは、一言も、その、言いませんでしたし……」
【男主人】「…………」
【長ミミ】「魔術師さん…………私を、お嫁さんに、もらってくれます、か?」