第143話『戦争の悲しみを、説いていた』
■森林と調和の国:森林軍本部
【老ミミ】「さて……男主人殿、話の続きを聞かせてもらおうか」
【男主人】「それでは、失礼して……皆様方に質問があります。この戦争はどうすれば終わるのでしょうか?」
【偉ミミ】「それは、もちろん、敵軍を打倒し、我らが勝利すれば終わる」
【男主人】「確かに7年前は、私たちの勝利で終わりました。しかし、また彼らは攻めてきたのです」
【偉ミミ】「ならば、今度こそ完膚なきまでに叩きのめしてやればいい!!」
【男主人】「もし、逆に私たちの軍が完膚なきまでに叩きのめされたらどうしますか?」
【偉ミミ】「そうなったら、一矢を報いるために、雌伏の時を過ごす!」
【男主人】「……相手もそうであると、何故考えないのですか? それとも、気づいていて、知らぬ振りをされてるのですか?」
【偉ミミ】「なん、だと?」
【男主人】「偉ミミ様は、子供に向かって、剣を振れ、敵を殺せと教えるのですか?」
【偉ミミ】「さっきから、ぬらりくらりと本意を避けるような発言ばかりして! 男主人殿は、何が言いたいのだ!」
【男主人】「戦争を続けるということは、人に憎しみや恨みを教える、ということです。そして、恨みの連鎖は、止めるべくして止めなければ、何処までも何処までも繋がっていきます。
今ならば、それを止めることができるのです。
偉ミミ様……皆様も考えてください、敵軍にいる彼ら全員が憎いのですか? 彼らのうち、どれだけが本当の意味で、私たちを憎んでいるのでしょうか?」
SE(静寂):シーン……
【男主人】「私は確かに、今回の戦争も直接的な関係者ではないかもしれない。けど、私は子供やこれから生まれてくる幼子に、自分たちの恨みを継がせたいとは考えません。
この気持ちは、私と皆様で同じではないのでしょうか?」
【老ミミ】「……男主人殿、ワシから一つ聞きたい。男主人殿は、ワシらと同じように、敵軍の将を全員説得させるつもりか?」
【男主人】「いいえ」
【老ミミ】「説得をせず、どうやって、敵軍を停戦へと導く?」
【男主人】「私が『いいえ』と言ったのは、説得する相手が“敵軍の将を”と訊かれたからです。私が説得しようとしている相手は“敵軍の全兵士”です」