第117話『噂話のせいで、憧れられていた』
■草原と平穏の国:馬車の中
【射手男】「失礼するっす。おれも同席させてもらうっす(ピシッ」
【男主人】「えっと、射手男だったよね?」
【射手男】「はいっ! その通りっす!」
【男主人】「別にそんな緊張らなくてもいいよ。もちろん、戦場で気を抜くのは危険だし、公の場では適度に硬くなった方がいいと思うけどね」
【射手男】「いえ、おれらにとって男主人様は、尊敬の対象っす!」
【男主人】「尊敬……?」
【射手男】「今回はご一緒できて光栄っす。ぜひ道中に色々とご教授お願いしたいっす!」
【男主人】「そういえば、さっきも噂のとか言ってたけど……何の話かな?」
【射手男】「それはもう男主人様は、男兵士の憧れっすから!」
【男主人】「憧れ……?」
【射手男】「もちろん、妬むヤツも少なくないっすけど、おれみたいに純粋に憧れてるやつも結構いるっす」
【男主人】「ちょっとごめん、さっきから聞きなれない単語がいっぱいあって……噂って何のこと?」
【射手男】「うちのお嬢様をはじめとし、数多くの美女と浮き名を流している男主人様は、男兵士の憧れで、希望の星っす!」
【男主人】「…………はい? えっと、まず、うちのお嬢様ってのは、何処の誰?」
【射手男】「そりゃあもちろん、東公爵様の御息女である副官女様のことっす! 副官女様の初めての夜会で惚れさせ、今では副官女様は男主人様に公私共に仕えているという話っすよね」
【男主人】「続きを聞くのが怖くなってきたような……他は?」
【射手男】「今では王都の色町に、この店ありと呼ばれる名店の有名娼館が経営難で苦しんでいる時に、連日連夜貸し切り、その窮地をそっと助けた。
それに対して、見返りは求めるどころか娼婦達に一切手すら触れない。感激した娼婦達全員が、男主人様に口付けを懇願したという……男主人様は、もう生ける伝説っす! 漢の中の漢っすよ!」
【男主人】(うおぉぉ!? あの時の話がそんな曲解を!?)
【射手男】「それに今回の参戦もエルフ族の姫様が流した涙を見て奮い立ったという噂っす!」
【男主人】「あ、あのな。それは所詮噂で……」
【射手男】「もちろん、こんなのは“鉱山の小石”ってことっすよね! 分かってるっす!」
【男主人】「分かってないから!! うわ、もうどこからツッコんだらいいんだ!?」