第115話『僕の手で守りたいと、願っていた』
■草原と平穏の国:王宮(執務室)
【男主人】「それじゃあ、留守を頼んだよ」
【副官女】「……はい、任せて下さい」
【男主人】「あー、言っておくけど、一緒に連れて行かないのは副官女が決して弱いと思っているわけじゃなくてね?」
【副官女】「王都にいて、ここから物資や情報の支援も重要な役割、なんですよね? それだけ、私のことを信頼してもらっている……分かってはいるんです」
【男主人】「ん~と?」
【副官女】「男主人様は、私が弱くないと言ってくれましたけど……すみません、私はそこまで強くなかったみたいです」
【男主人】「…………」
【副官女】「第十一師団の派兵……いえ、男主人様が戦争に向かうと言われて、初めて気付いたんです」
【男主人】「……何に?」
【副官女】「戦争で人が、いえ男主人様が死ぬかもしれないって言う事実、でしょうか? 今まで、戦争の話を聞いても、本や劇の物語のように感じてました……。
けど、男主人様が戦争に行くときいて、いった先の戦場で死ぬかもしれない……そのことに気付いたら、急に怖くなってきて……」
【男主人】「うちのメイドさんといい、副官女といい……僕は、そう簡単には死なないよ」
【副官女】「けど、万が一ということだってあります!」
【男主人】「万が一というなら、事故や病気で突然死んでしまう可能性だってあるじゃない」
【副官女】「それは! ……そう、ですけど……」
【男主人】「僕だって、好きで戦争に行くわけじゃない……敵と言っても、同じ人間だよ。倒さないで、殺さずにすむなら、そっちの方がずっといい。
けど、僕の手は、そんなに長くは無いんだ。僕の目だって、前を見るだけで精一杯。家族や友達とか僕が知っている人、守りたい人たちがいるから、僕は戦いに行ける。
もちろん、副官女や東公爵も、守りたい人のうちだからね」
【副官女】「男主人様……その、嬉しいです」
【男主人】「ごほんごほん……もし、何かあったら、王子様か東公爵を頼るんだよ? いいね?」
【副官女】「はい」
【男主人】「それじゃあ、いってきます」
【副官女】「いってらっしゃいませ。どうぞ御武運を」