第113話『男主人は、問い掛けていた』
■草原と平穏の国:男主人邸(地下室)
【男主人】「国を手にすると言ったが、貴女は国を得てどうするのでしょう?」
【鉄皇女】『さぁ? そんなことは国を得てから考えるわ』
【男主人】「…………」
【鉄皇女】『アナタは、食事をする時に、次の食事のことを考えながら、出された料理を口にするのかしら? まず、目の前にある、温かなステーキを頬張るのが先でしょう?』
【男主人】「貴女にとっては、内戦も食事も一緒なのですか……?」
【鉄皇女】『ワタクシにとっては、どちらも同じものよ。ワタクシが生きていくために必要な儀式……ワタクシにも確かにお父様の血が流れているという証左かしらね』
【男主人】「それが、貴女が争いを起こす理由ですか?」
【鉄皇女】『いいえ、争いはなくなることはないわ。ワタクシは、争いを起こすのではなく、争いの渦中に身を投じるだけよ』
【男主人】「そんなことはないでしょう? 貴女が原因で起こった争いだってあるはずだ」
【鉄皇女】『否定はしないわ。けどね、この国は……常に争いを欲しているの。その象徴がお父様の現皇帝ね。もっとも、人が2人いれば争いは起こるのよ。ワタクシが理由で起こった争いがあるというならば、男主人殿が原因で起こった争いだってあるはず』
【男主人】「…………」
【鉄皇女】『ああ、言っておくけれど、別にワタクシの意見に従わせるつもりはないわ。ワタクシは男主人殿はと、あくまで対等の関係でいたいの。同盟は、お互いの意思を尊重し、お互いが最も納得できる形で長く続ける。本来は、そういうものでしょう?』
【男主人】「対等……それは、望むべき理想ですね」
【鉄皇女】『理想は、語るだけでなく、動かなくては実現しないものだけどね』
【男主人】「あともう1つ」
【鉄皇女】『何かしら?』
【男主人】「一国の皇女が、ともすれば、次期皇帝の貴女が、なぜ同盟の相手に私を選んだんです?」
【鉄皇女】『貴女は、自分の力では、役者不足だとでも思っているのかしら?』
【男主人】「ありていに言えば、疑わしいを通り越して、不思議ですね。普通ならば、王族は無理でも、将軍や公爵といった人を狙うのでは?」
【鉄皇女】『少ない消費で、最大限の効果を……あらゆる交渉ごとの基本ね。今、男主人殿と手を組むことが、後々に活きてくる、とワタクシの勘が告げているのよ』
【男主人】「勘ですか……」
【鉄皇女】『ええ、ワタクシは、自分の勘を信じて3度、命の危機を免れたわ』