第108話『柔らかな思いを、受け止めていた』
■草原と平穏の国:男主人邸(裏庭)
【長ミミ】「…………」
【男主人】「…………」
【長ミミ】「以前、魔術師さんは、私に『男としての僕は嫌いなのかな?』と質問しましたよね」
【男主人】「あー……そんなこと、言ったっけ?」
【長ミミ】「ええ、しっかりと覚えています。その答えを聞いてくれますか?」
【男主人】「じゃあ、聞こうかな」
【長ミミ】「では……正直な所、『どっちでもない』というのが答えです」
【男主人】「……どういう意味?」
【長ミミ】「私のことを助けてくれた魔術師さんを嫌いになるはずはありません。魔術師さんのことは大好きです。でも、これが恋愛感情かと言われると自信がありません……。
7年も放っておかれて、少しは嫌いになりそうでしたけど…………再会した時に、自分の正体をすぐに明かせなかったのは、明かしたら、また魔術師さんが何処かへ行ってしまうような気がしたからです。
まぁ、途中からぜんぜん気づかない魔術師さんに対して、意地を張っていたのは認めます」
【男主人】「分かったような分からないような」
【長ミミ】「私の気持ちは、“依存”が一番近いと思います。きっと、あの地下室で助けられた時に、私は生まれ変わったんです。
そして、鳥のヒナが最初に見た動物を親だと思い込むように……私は魔術師さんのことを好きになりました」
【男主人】「依存……か。僕とは逆なのかもしれないね。僕は自分自身を“拒絶”したかった。
それがゆえに副官女の好意、妖艶女の希望も、すぐには受け入れることはできなかった」
【長ミミ】「……魔術師さんは、私のことを抱けますか?」
【男主人】「ぶっ!? いきなり何を!」
【長ミミ】「答えて下さい。お願いします」
【男主人】「昨日までだったら、大丈夫だったかもしれない。けど、今はもう無理だ」
【長ミミ】「どうして……ですか?」
【男主人】「長ミミが僕に好意を抱いているから、いや……好意を抱いてくれているだろうと感じたから、かな?」
【長ミミ】「ありがとう……ございます。その答えが、とても嬉しいです」




