第103話『好みはすべて、掌握されていた』
■森林と調和の国:男主人邸
【男主人】(そういえば…………。
目玉焼きは固焼き半熟。
サラダのドレッシングは塩と油を控えめ。
肉は鳥の胸肉か牛の赤身。
スープの出汁は干し魚。
ワインは白よりも赤。
コーヒーは砂糖なしでクリームを少し。
オヤツは酸味の強い柑橘類、もしくは甘さを控えたゼリーか焼き菓子……)
【長ミミ】「ご主人様、何か?」
【男主人】「あ、いや、ごめん……」
【長ミミ】「言い訳もなしに謝るということは、私に対して、きっと口に出して言えない様なことを……」
【男主人】「言い訳はあるよ! すごく言い訳がしたいな!」
【長ミミ】「……ご主人様、言い訳をするとは男らしくないですよ?」
【男主人】「どうすりゃ良いんだよ!!」
【長ミミ】「あえて言うのでしたら、一つ面白くなる方向で」
【男主人】「ねぇ、長ミミは僕に何を求めてるのかな? そこの所を一度聞かせて欲しいかな!?」
【長ミミ】「申し訳ありません、その希望に沿うわけには参りません。……ご主人様が泣き出すといけませんので」
【男主人】「…………泣くことが前提!?」
【長ミミ】「勝算は五分五分です」
【男主人】「いやいや、今までの会話でどこに勝算が必要な勝負があったんだよ!?」
【長ミミ】「ご主人様、メイドを前にする時は『常在戦場』の心得が必要です」
【男主人】「そんな血臭漂うメイドはイーヤーだーっ!!」
【長ミミ】「……で、私を見ながら、何を考えてらしたのですか?」
【男主人】「はぁ……、ちょっと最近の食事のメニューをね」
【長ミミ】「なにか不備があったでしょうか?」
【男主人】「いや逆々、すっかり好みが把握されちゃったな、って思っただけだよ」