第95話『男主人は、偶然を信じていた』
■草原と平穏の国:王宮(王子執務室)
【王子様】「戦争の状態は一進一退を繰り返しているらしい。物量で推す鉱山軍を防衛拠点と地の利で防ぐ森林軍と草原軍の連合という流れだ」
【男主人】「7年前と同じような感じですね」
【王子様】「規模はだいぶ違うだろうがな。ところで、長ミミ殿の体調はどうだ?」
【男主人】「後遺症もなく、昨日から屋敷の仕事に復帰しています」
【王子様】「そうか、それは良かった。で、何か進展があったのか?」
【男主人】「ええ、悪領主を発見しました……そして、僕たちへの協力を取り付けました。今は、その情報の裏づけを取っている所です」
【王子様】「……話が美味過ぎるな。罠じゃないのか?」
【男主人】「いえ、それはないでしょう」
【王子様】「言い切ったな」
【男主人】「あまりに偶然が重なりすぎていて、逆に馬鹿馬鹿しくなるくらいです。この話が罠だとして、それを弟大公派の誰かが描いたというなら、いっそ、演劇の台本でも書いてる方が似合っていますよ」
【王子様】「そんなにか?」
【男主人】「詳しい事は、いずれ茶飲み話にでも語ります」
【王子様】「ああ、早くゆっくり茶を飲みたいな。どうせなら、オマエの家でご自慢のメイドさんに注いでもらえるといいな。ボクは、まだ新しい2人は紹介してもらってないんだよな」
【男主人】「そもそも、長ミミも紹介したわけじゃありませんけどね」
【王子様】「あれ? そうだっけ?」
【男主人】「その都合の悪いことをすぐに忘れた振りするの通じませんから」
【王子様】「ふむ、心外だな。こう見えても、この演技で何十人もやり過ごしているんだぞ」
【男主人】「そ・れ・は! 貴方の権力が有無を言わせていないだけです!!」
【王子様】「おおっ、そういう見方もあるな。なるほど、やはり他人の意見というは重要だな」
【男主人】「そのさも今初めて新しいことを知ったような振りも通じませんから」
【王子様】「なんだって、それじゃあ、後は……」
【男主人】「色仕掛けも通じませんよ?」
【王子様】「……つまらん男だな」
【男主人】「つまらなくて結構です。というか、幼馴染に何を求めてるんですか?」
【王子様】「せめて、オマエが女だったら、もうちょっと楽しめたんだろうなぁ」
【男主人】「今ほど男に生まれて良かったと思えた時はありませんね」