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夕食後、私一人で通されたのはお父さまの執務室。
普段は仕事関係の人間しか立ち入らない部屋に、お父さまとお母さまが二人揃って私と向かい合っている。
二人の後ろには執事が気配なく立っているのも見慣れない光景で、ちょっビックリした。
「クロエ、なぜ呼ばれたのかわかっているかい?」
「はい。ハルトを見ていたことですよね」
「ではなぜ彼を見ていたんだい?」
なぜって言われても正直に答えられない。自分が転生者かもしれない事や、異世界かもしれない事なんて、頭がおかしくなったとしか思われないこと確実。
そしてハルトが、この世界のことを知っているかもしれないとも言えない。
なにせ確証がない。それどころか知らない可能性の方が高い。
私は異世界や転生の事は省き、正直に彼に興味があったからと答えることにした。
「だって知らない世界から来たっていうから、気になるんだもん」
「クロエ、言葉使い」
「う……っ。気になるので、観察していた次第です」
お母さまに叱られ、言葉使いを直し答えると、お父さまは「はぁ……」と深い溜息を吐き出していた。
「やっぱり他の方に引く受けてもらうべきだったかな……。まさか一週間もしないうちに娘が」
「いいえ、旦那様。クロエが特別好奇心旺盛なだけですので、お気になさらずに。
それよりもクロエ、なぜ約束を破ろうとしたのです。彼の立場が危ういのは分かっているでしょう?」
頭を抱えるお父さまと対比するように、ちょっと目に力を込めて聞いてくるお母さまにヒクリと頬が動く。これは間違いなく怒ってる。
厳密には会話などしたりしていないけど、約束を破り彼の近くにいたことは確かだし分かるけど、なにもそんなに怒らなくても。
「分かってます。でも気になったんです。……彼が一年前の私みたいで」
去年の今頃、私たち母子はこの子爵家に来た。
その時に感じた孤独感や疎外感は、心の中で今も燻っている。毎日が温かくて楽しいのは本当。
でもやっぱり血の繋がりを感じさせる仕草や行動を目にすると、ちょっと寂しくなる。
もし今も父親が生きていたのならば、彼もお父さまのように私を可愛がってくれてくれていたのだろとか。
一から関係構築などと頑張らず、なんの心配もせず無邪気に生活していたのだろうとか。
考えたらキリがないほど押し寄せてくる郷愁と、お父さまとお姉さまのやり取りで感じる疎外感。
彼の姿を見るたびに自分とどこか重なると小さく言うと、二人は目を見開き私をまじまじと見つめ、力なく肩を落とした。
え? なにもショックなことはいっていないよね? ただハルトが昔の自分みたいだって感じで伝えただけだよ?
「そうね。考えてみれば、彼も私たちと少し似ているのかもしれないわね」
「うん。あとさっき外を見てすごく寂しそうな顔をしていたの。お母さまがお父さま……亡くなったお父さまを思い出すときにそっくりだった」
「そう……」
お母さまはずっと亡きお父さまを思っている。
ふとした瞬間に寂しそうにいしている様子は、私をはじめこの屋敷に住んでいる者なら皆見ているんじゃないだろうか。
それはお母さまに限らず、お父さまにも言えることで、彼もまた亡き妻との思い出がよみがえるのか、少し感傷的にあちこち見ていることがある。
お姉さまだってそう。きっと皆心の奥底では、寂しさや孤独を抱え込んで過ごしているんだ。
「そうだね……。少し警戒し過ぎていたのかもしれない。彼ともう一度話し合ってみようか。なにもなければ、君たちの遊び相手にでもなってもらおう」
「本当!? ありがとうお父さま!」
「まぁ!クロエったら! ……旦那様、私も彼との話し合いにご一緒してもよろしいでしょうか?」
行動してみるもの、言ってみるものである。これで彼と自然に接触できる。
嬉しくて立ち上がった私をお母さまは呆れたと叱ろうとし、でも何か思う所があったの、それをやめお父さまにハルトとの話し合いに参加を申し出る。
これにはお父さまも驚いて、お母さまに聞いてきた。
「ああ、いいが。なにか気になっていることでも?」
「いいえ。今まであまり関わることがないようにしてきたのですが、いい機会ですから何か困ったことでもあるのなら聞いてみようかと」
「そうだねぇ。うん、いい機会だしこの際、屋敷中の者達にも聞いて彼の人となりを知ろうか」
わあ……。私の行動が意外な広がりを見せてる。
でもハルトにとってはいいことだよね。これで晴れて無害判定がでたら、さりげなくこの世界のことを知っているか探りを入れよう。




