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 あれから一年が過ぎ、私は九歳お姉さまは十一歳になった。

 特に大きな出来事もなく、日々充実していてこれでいいのだろうかと思う日もあるけど毎日が楽しい。

 お互い婚約の話もなく、いずれお姉さまは婿をとり、私は嫁に行くのだろうと漠然とした未来しか分からないけれど、今はこんな毎日が続いてくれるといいなと思う。

 そうして過ごしていたある日、珍しくお父さまが早くに帰って来た。

 こんなに早く帰ってくるのは、家族の誕生日や記念日くらいで、なにかあったのかとお姉さまと二人顔を見合わせる。

 しばらくして、執事から応接間に来るよう伝えられ、これはただ事ではないとお互いの手を握り締め急ぎ応接間に向かった。

 途中で使用人が何やら王家がやらかした的なことを言っていたのを耳にし、さらに不安募りぎゅっと繋いだ手を強く握りしめた。


「大丈夫ですわ。ちょっと疲れてしまって、早めに帰って来ただけでしょう」

「そう、ですよね」


 王家がどうとかはきっと聞き間違いに違いない。しがない子爵家になにがあるというのだろう。

 あるとすれば、お父さまとお姉さまの容姿関連だけど、今までそんなことに口を挟まれたことはないし、婚約などは爵位が低すぎる。

 そもそも王子達にはそれぞれ婚約者もいる。王家が子爵家に口出しする理由がない。

 うるさい心臓を宥めつつ二人揃って応接間に入ると、そこには両親と執事、そして見知らぬ少年が一人ソファーに座っていた。


「二人とも来たね。少し込み入った話になってしまうし座りなさい」

「はい」

「分かりました」


 お父さまの顔色が少し悪い気がして、これから話すことはかなり重大な事なのだと分かってしまった。

 お母さまを見ても困惑した顔で頷くだけで、軽口さえ憚られる。


「本当は宰相様とだけの話になるはずだったんだけどね、ちょっと困ったことがあって今日から彼をうちで面倒見ることになったんだよ」


 僅かに口ごもりながらもお父さまはそう切り出し、事の次第を子供の私たちにも分かるようかみ砕いて説明してくれた。

 事の起こりは一週間前、王宮に所属する魔法使いと四番目の王子が禁書の魔法を使ったことが始まり。

 その魔法は、昔の魔法使いが従魔という式を召喚するために使用されていたものだった。

 しかしこの従魔召喚は、魔法使いでさえ扱えない狂暴な魔獣という獣を召喚してしまうことがあり、危険視した当時の国王が禁書に指定していた。

 それをどこから見つけて来たのか、興味好奇心で使用し、成功とも失敗とも言えない成果をもたらした。

 彼らが行った召喚で、人間を二人呼びだしてしまったのだという。

 ひとりは十五歳の少女。もうひとりは十七歳の少年。

 初め二人は王宮に保護されていた。なにせ元凶はこの国の王子と魔法使いたち。しかも帰し方が分からないときたからだ。

 容姿や服装から別の世界から召喚してしまったことは明らかで、そのまま放置することもできず緘口令を布いて保護することになったが、その後が問題だった。

 召喚されたうちの一人、異世界の少女に第四王子が一目ぼれしてしまった。

 第四王子には伯爵家の令嬢と婚約していたが、それを白紙にし代わりに少女を妻に迎えたいと言いだした。

 そんなとんでもない願いなど到底受け入れられない。

 どうにか考え直させようと、王子と少女を離れさせていたが、王子はいったいどんな手を使ったのか少女の所に度々顔を出した。

 そして少女の方も、見知らぬ場所で心細く泣いていた所に現われた王子を好きになってしまったのだという。この辺りはかなりぼやかして説明されたけど、大体こんな感じだったのだと思う。

 それに怒ったのは婚約者の家だ。伯爵家に婿入りするはずの王子が一方的に白紙を突きつけてきたことに激怒。

 婚約者である令嬢とは仲が良かったというし、おそらく令嬢の方は王子を好いていたのだろう。令嬢は寝込んでしまい、それがさらに伯爵の怒りに油を注いだ。

 そこからは王家ならびに王宮内を巻き込んだ泥沼劇だ。

 いくら緘口令を布いたとはいえ、人の口に戸は立てられない。少しずつ事の次第が知られ、王子を誑かした少女を忌避する人間と、運命的な出会いに憧れ応援する人間に別れ諍いが生じ始めてしまった。

 そしてそれは、同じく保護された少年にも飛び火してしまった。

 少女のようなことが少年にも起こるかもしれないと、王宮中が不安になってしまったのだ。

 幸い王家に王女はいないが、王宮内には貴族令嬢が多く出入りする上に、使用人たちも貴族出身が多い。

 間違いが起こってからでは遅いと、少年の身柄を他に移動させる話が出た。

 そこで独り身の宰相さまの屋敷に移す話になったのだが、宰相は今回の件で他に手が回らず、少年を十分に護れる保証ができなくなってしまった。

 今回の件の詳細を知る人間で、他に独身者はいないこともあり、どうするべきか悩んでいる所に、お父さまが短期間だけならば預かる旨を申し出たらしい。

 とはいえ、家にはお母さまをはじめ、私とお姉さまの女ばかり。宰相さまも周りも渋りはしたが、他にいい候補先も見当たらず、一先ず子爵家で預かりその後様子を見てどうするのか決めることにしたという。

 話しぶりから察するに、宰相さま以外の人達は関わり合いになりたくなかったのだろう。そしてお父さまもできればそうしたかった。

 でも宰相様さまが困っているし、少年も見たところ害を為すような人間に見えないから引き受けたみたいだった。


「そんなわけで、彼は暫く家で保護することになったんだ。

容姿の事もあるから、名目上は他国から来た行儀見習いの使用人ということにしている。君たちより歳年上だからギリギリの言い訳になってしまうけどね」


 まあそうなるよね。他家の行儀見習いに行く場合、十二~三歳が普通だ。十七では行儀見習いはかなり苦しい言い訳になってしまう。

 それならいっそ従僕として雇い入れたという方がしっくりくるが、一時的な預かりの人間を屋敷の重要職につけるわけにはいかないのだろう。


「普段君たちとは接する機会はあまりないだろうが、適度に仲良くしてくれると嬉しいよ。アデライドもそう身構えず普段通りにしてくれると助かる」

「……承知いたしました旦那様」

「うん、それじゃまずはお互い自己紹介しようか」


 どこか疲れた様子のお父さまに、お母さまが労わるよう体を支えている。

 こうしていると、契約結婚したとは思えないくらい仲睦まじい夫婦に見えるのが不思議だ。

 とりあえず、戸惑いながらも各々自己紹介する。言葉少なく名前と年齢あとは挨拶のみで、かなり省略した自己紹介内容だった。

 そして少年の方も名前を教えてくれた。私はその響きに衝撃を受けた。


「名前は桜井晴斗。あ、ここではハルト・サクライっていうんだっけ。えーっと君たちよりもかなり年上になるのかな。十七歳だよ。

子爵様の言う通り、あんまり接する機会はないだろうけど、仲良くしてくれると嬉しいかな」


 よろしくね。と困った顔で言われ、私たちも小さな声で「よろしくお願いします」と返すのが精一杯だった。

 え?これなんてフラグ?

 もしかしてネット小説的な世界?とか思っていたのが現実化してない?

 再婚。継母。義妹。ツンデレ悪役令嬢モドキときて、異世界召喚って。テンプレばかりなんだけど。

 本当にこの世界、ネット小説から生まれてない?

 



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