表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

23 SIDE:とある少女


SIDE:とある少女



 遠くで玄関の閉まる音が聞こえ、私は強張っていた体の力を抜き布団をかぶり直す。

 これでやっと静かになった。私の邪魔をする人はいない。

 父親は急患だとかで夜遅くに飛び出して行ったきり帰ってこない。母親は今出ていったばかり。今日一日は誰もいない静かな家で、私は一人夢想する。


 五年前に私の身に起こった夢のような出来事を。


 当時、十五歳。中三の受験生真っただ中だった私は、お嬢様学校に入れようと躍起になっている母親から逃げたくて、一人で街の中を行く当てもなく歩いていた。

 父親は大学病院の医師で、お金には困っていなかった。だから母親は専業主婦としてずっと家にいて息が詰まって仕方がなかった。

 私に興味のない父親。夫の職業をステータスにして、ママ友のカースト上位にいる母親。特に取り得もない娘の私。

 探せばどこにでもいそうな冷え切った家庭だった。

 私に興味のない父親なので、特に好き嫌いといった感情はない。問題は母親の方。

 夫のステータス以外にも、娘のステータスも欲しがる人が母親なのが、私の最大の不幸なのかもしれない。

 幼稚園受験。小学校受験。中学校受験と幼い頃から有名な所を受験させるほどに、地位や学歴に固執する人だった。

 でも私はそのどれもが失敗に終わり、母親の希望する有名私立ではなく、自宅近くの公立へと通うことになった。

 それが母親には受け入れがかったのか、とにかく私の生活は母親の管理下に置かれ、日々勉強や習い事に明け暮れることになった。

 母親に監視されている生活は息が詰まる。

 そんな時に友人にライトノベルを進められた。

 帰宅後、スマホは母親預かりになるし、家でそんな娯楽小説は買ってもらえないので、友人に借りて学校で少しずつ読み進めていく。

 剣と魔法の世界での冒険活劇。不遇の女の子が逆転し幸せになる恋愛話。モブだと言いながらも世界を変えていく革命話。

 初めて読む世界は、夢と希望で溢れていた。その中で一際惹かれたのは、異世界召喚ものや転生ものと言われるジャンル。

 召喚されたり、死んで転生したりと理由は様々だったけれど、そのどれもが最後は苦難を乗り越え幸せになる物語だった。

 前世の知識を生かして無双するなんて私にはできないけれど、できないからこそ憧れがあった。

 しかし、あんな世界があるのなら行ってみたいと思うほどに憧れは強くなり、勉強が疎かになってしまう。

 そしてそれは、成績結果として現れてしまった。

 高校受験を控えた三年生の大事な時期。母親は今度こそ有名お嬢様学校に入れるのだと意気込んでいた矢先のことだった。

 ありもしない娘像を言いふらしていたくせに、でっち上げた理想を壊されたと一人で喚く姿は醜悪でこれが母親だと思いたくもない。

 これじゃ近所の笑い者だと騒ぐ母親に気分はさらに落ち込んだ。

 成績結果や模試の判定結果を片手に、今にも手が出そうになった母親を見た瞬間、私は家を飛び出していた。


 もしここで死んだら、あの小説の主人公たちのように転生できるだろうか。


 薄暗い道をとぼとぼと歩きながらそんなことを考えていると、ふと目の前が暗くなり、次に見えたのはファンタジー溢れる服装をした外国人たちだった。

 どうやら私は異世界召喚をされたらしい。

 これは夢だろうかとボンヤリしているうちに、あれよあれよという間に豪華な部屋に連れてこられ、暫くして偉い人だという男の人が説明してくれた。

 説明によれば、ちょっとした事故(?)で召喚されてしまったらしく、帰れる手段がないという。

 自分たちの過ちだから、何とかして帰れるように手を尽くしてくれると約束をしてくれたけれど、私はどうでもよかった。

 どうせ帰っても、また母親の支配下に置かれ窮屈な日々を過ごすだけ。それならこのままこの世界にいた方が幸せに思えた。

 ぼんやりと説明を聞いていたのがショックで言葉もないと受け取ったのか、偉い人は気の毒そうな顔で再度謝って部屋を出ていった。

 それから暫くして、今度は綺麗な男の子が部屋に来た。

 彼曰く、この国の第四王子様らしい。私が召喚されたのは、彼のちょっとした興味が招いた事故だったと説明され謝られた。

 そして償いとして、帰れるまで不自由のないようにしてくれると約束してくれた。

 偉い人が保護してくれたし、別にそこまでしなくてもいいと伝えても、彼は首を縦に振らなかった。

 どうしても償わせてほしいと頼み込んできたので、なんでそんなに必死なのかと聞いてみた。

 王子様は少し気まずげに、顔を見た瞬間一目ぼれだったんだと返してきた。

 こんなに綺麗な王子様が私に一目ぼれ?

 私の顔は両親の良い所をとったと言われたことがあるから、可愛い分類だと思う。でも自惚れるほど特別に可愛いわけじゃないと私自身が分かっている。

 戸惑う私に、王子様は今日は謝りに来ただけだと言って、その日は部屋から出ていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ