2
「あのお母さま、なぜ今日からお屋敷に住むんですか?」
「それはね、このお屋敷の子爵様が後妻にと言ってくれたからよ」
「え……?」
母よ。それは事前に言うものではないだろうか。
あまりの展開に唖然としている私を尻目に、母はニコリと笑うと「住む場所に困らなくてよかったわ」などと言って手を叩いている。その後ろではこの屋敷の使用人が、私たちの荷物が少ないことで戸惑っているのが見えた。
展開についていけない私を尻目に、母は「さあ行きましょう」と、もう一人の使用人に案内され先に進んでいってしまった。
残された私は再度「え?」と言葉をもらしながら、荷物を持つ使用人に促され二人の後を追うしかない。今から生家に行ったとしても門前払いが関の山だ。
屋敷に通されると、あらかじめ話が通っていたようで、茶色の髪の綺麗な男性と同じ色の髪色をした私より少し年上の少女が出迎えてくれた。
どうやらこの綺麗な男性が子爵様で、母を後妻に向かい入れてくれる人らしい。
歳は二十代後半っぽく、二十五歳の母とはそれほど歳は離れていなさそう。急に後妻やここに住むやら言われて混乱していた私にも、優しく笑って向かい入れてくれた。いい人そうで良かった。
後妻と聞いて少しだけ禿げて太った男を想像したことは、心の中で謝っておく。
男性はアドルフ・バイヤール子爵。三年前に妻を病気で亡くし、男一人で愛娘のルイーズを育ている。
一人娘のルイーズは父親譲りの茶色の髪に、お母親譲りだという青色の瞳をした美少女で、私より二歳年上の十歳。透き通った白い肌と人形めいた綺麗な顔に似合わず、ぎゅっと目に力を込めてこちらを睨んでいた。
まあ、そうなるよね。いつこの話を知ったのか知らないけど、急に母親と妹ができるよと言われれば、警戒もしたくなる。
しかも、彼女は今まで父親の愛情を一身に受けていたのに、それを横取りする形で私たち親子が入り込んできたら睨み付けたくもなるよ。
それにもしかしたら、父親の浮気を疑ってもいそうで、なんだか関係が拗れそうな気がしてならない。
とはいえ、まずは荷物を置いて落ち着いてから話をすることになったので、本当に自己紹介だけでこの場は終わった。




