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「ねえハルト、これで答えあっているかしら?」
「ハルト!ダンスの相手して!」
「まあ!ハルト、あなたケガしてるわ。無理をしてはいけないわよ」
「君がいてくれると書類確認が早くなって助かるよ。ありがとうハルト」
ハルトが屋敷に来て半年が経った。
屋敷のあちこちからハルトの名前が聞こえ、笑い声が聞こえるようになったこの半年。彼もだいぶこの屋敷にも馴染んだのが分かるくらい、屋敷のあちこちで見かけることが多くなった。
計算が得意なので時々お父さまのお手伝いをしたり、お姉さまの勉強を見てくれたり、私にはダンスの相手をしてくれたりと大忙し。
それに加え、使用人の仕事もしていたりするので、時々怪我をしてはお母さまに心配されていたりもした。
ハルトといると、兄がいてくれたらこんな風なのかなと想像してしまうほどだ。
お姉さまもそう思っているのか、よくハルトと一緒にいる所を見かける。
なんだかとても楽しそうで微笑ましい光景に、ハルトには申し訳ないけどこのままずっといてもいいのにと思ってしまう。
そしてこの半年、王宮で大きな進展はなかった。
第四王子は未だに異世界の少女に夢中で、王宮内では対立が激化しているらしい。
ただ伯爵令嬢との婚約は白紙になったと聞いた。
ご令嬢が他の女に現を抜かす男は婿にいらないと、なんだかんだで吹っ切ったようで、これ以上の伯爵家との対立はなさそうだ。
二人の間に決定的な事が起こったのかもしれないけど、私たちが知ることはできないので、彼女には王子よりも良い男を婿に迎えて幸せになって欲しい。
「んふふ。お母様さまの合格がもらえた!」
「クロエ、書庫では静かに。それにしても、そこに至るまで長い道のりでしたわね」
「ええ、本当に。クロエお嬢様には手を焼いておりましたから」
喜ぶ私の後ろでは、お姉さまとコレットが呆れながらついてくる。目的地は書庫。
バイヤール子爵家はそこそこ古いお家柄なので、所蔵してる本も古い物がかなり多い。
歴史的価値がつくものは国に預けているそうだが、それでも昔の本が山程積まれてあるため、四つある自立式本棚の他に壁一面に本棚が造りつけられているかなり広い部屋だ。
普段はあまり立ち入らないその書庫にこうして来たのは、家庭教師の先生に出された宿題で必要になったからである。
この国の歴史について今は勉強中なので、詳しく載っている本が欲しかったのだ。
お姉さまとは書庫に行く途中で出会い、行き先が同じだったのでそのまま一緒に連れだって歩いていた。
ちなみにお姉さまは書庫の常連さんだ。趣味の刺繍に使えそうな図案や、レースの図案などをよく持ち出している。
この趣味のおかげか、ファンシーな部屋はさらに磨きがかかり、レースがふんだんにあしらわれ、繊細な刺繍が施された乙女チックな部屋に変貌している。
シンプルな私の部屋とは真逆で、部屋にお邪魔するたび目が痛い。
「それでは私はあちらに向かいますわ。歴史の資料関係は向こうにありますので、手が届かない場所にあるのならば、コレットに頼んで取ってもらいなさい」
「はい、わかりました」
姉さまは左側の本棚、私は右側の本棚に向かう。
ちょっと埃っぽい空気を吸いこみながら、目的の本を探すため背表紙を目でなぞっていく。国関連の書籍ってこんなにあるのね、この中から探すのって大変。
なんとか目的の本が見つかり、背伸びをして取り出すことが出来た。
パラパラとページをめくると、子供でも分かるように簡単にまとめられてあったのでこれで宿題は終われそうだ。
このまま自室に戻ってもいいけどあまり来ない場所だし、もう少し本を見ていこうかな。なんて気紛れを働かせ、背表紙を眺めながら歩き出す。
こうしてみると本棚はきちんと整理され、ジャンルごとに分かれているのがよくわかる。司書のような人はいないはずだから、使用人の誰かが整理してくれているのかもしれない。
今私がいるの場所は歴史関係、先を少し進むと貴族関係の法律を扱う場所になるみたい。ということは、ここはお堅い資料ばかりで楽しそうな本はなさそうだ。
裏側を覗き込んでしても同じような本ばかりだったので、反対側の本棚に行くことにした。
お姉さまが向かった先ならば、婦人ものを扱う書籍があるはず。ならば子供でも楽しめる本もあるかもしれない。
背表紙を見ながら反対側を進めば、思った通り宝飾品やドレスの本、私の苦手な行儀作法の本も置いてあった。
うげーと顔を顰めつつ先を進む。その先には子供向けの本が置いていあり、なんとなく題名を見ていく。うん、伯爵家にいた時に読んでいた物が並んであるわ。懐かしい。
他に目新しいものはあるかさらに先を進むと、お仕着せの端っこが見えた。コレットがいるなら、お姉さまはこの先にいるのか。
物語関係の裏側は、刺繍や裁縫の本とまた一つ頭の片隅に入れておく。
まだ探し中のお姉さまの邪魔をしちゃいけないし、コレットにだけ戻ることを伝えようと、二人の元に足を進める。
「コレ……。あれ?ハルトがいる」
本棚とコレットの間からハルトの姿が見え、思わず首を傾げてしまった。彼は異世界人だからこちら字は読めないはずなんだけど。
ここに来て最初の仕事の割り振りの時、言葉は通じるので文字も読めると思っていたら、全くできなかったと本人が言っていたから間違いない。
それなのに読めないはずの本を開いて、真剣な目でみているのはなんで?それにあの本はなんだろうか。
目を凝らいしてなの本か確認しようにも、薄暗いしここからでは遠すぎて全く分からない。
ただ彼にとって、とても大事なことが書かれてあるのだろうということだけは分かる。
それにハルトに気を取られて気づかなかったけど、コレットと本棚の間から見えたお姉さまもまたハルトを見つめ固まっていた。
なんだろう。なんだか嫌な予感がする。私は無意識に手にしていた本を抱きしめた。




