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「今日からここのお屋敷に住むことになるわよ」そう母に言われた私は、こじんまりとした屋敷の門を前に、間抜けにもポカンと口を開けていた。
私はいわゆる転生というものをしたのだろう。物心ついたころには、自分が昔別の世界で生きて死んだことを理解していた。
特に何かを成し遂げたとか、事故や事件に遭遇したとかいう記憶はなく、それどころか親や兄妹、どこで生まれ育ったのかもわからない。辛うじて日本という国にいたという漠然と記憶。これはもう理由不明の転生をしたのだろうと理解していた。
しかもどうやら前世よりもかなり古い時代らしい。しかも前世でのヨーロッパ中世時代に近い。ただし普段はドレスに近いワンピースを着用し、公式の場ではコルセットを使い派手な衣装で社交する。
なのに髪は盛るなどといった派手さはなく、既婚者は軽くまとめて髪飾りをつけ、未婚者はすき流しの髪に目立たない程度の髪飾りをつけるといっやチグハグ具合。
これはあれだろうか。日本人が思い描くファンタジー世界感。そしてよく見聞きしたナーロッパ世界という時代考証なにそれおいしいの?的なアレだ。
なにせ水は蛇口ではなく井戸からくみ上げ、風呂もその井戸から桶で何度も移動さるくせに、下水処理などのインフラ設備はなぜか整っているという摩訶不思議世界。
中世のキラキラしたところはを取りつつ、不便なところはできるだけ近代化させちゃおうぜ!的な世界が、今私が生きている世界なのだ。
しかもこの世界、魔法が存在しているのである。ただし稀に魔法が扱える人間が生れる程度で、皆がみんな扱えるわけではないという不便さ。
それなのにインフラが整っているのは、魔法石といわれる魔力を秘めた石が採れるからだ。
便利な事にその石を使えば、中世ヨーロッパの地獄の排便道やら異臭やら、瓶で用を足すやらしなくてもいい。
なにせ不浄物は魔法石を使った装置で浄化され、下水へと流れていくのだから。浴槽に水を溜めればあとは魔法石で沸かせることも可能。便利だが不便である。そこは水道設備も完備してほしい。
そんなチグハグな世界に、誰も疑問を持っていない。キラキラと不便を融合した世界に違和感を持ちつつ、この八年生きてきた。
そして先日、伯爵だった父が急逝し、家督を叔父家族が継ぐことになり、母と私は少量の金額と、僅かばかりの装飾品を含む荷物片手に屋敷を追い出され今に至る。




