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ああ憧れの情報屋 ~弱小子爵家の三男、命の恩人を探している間にうっかり学園最強になる~  作者: 毒島リコリス


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第21話 部活動勧誘期間

 翌朝、ミーシア嬢から聞き出した話をジュリにどう伝えようか考えながら登校すると、


「ハイドくん、おはようございます」

「おはよう、ジュリ」


 さっそく向こうから駆け寄ってきた。何やらにこにこと笑っていて、機嫌が良さそうだ。


「おはよう」


 ミーシア嬢も声をかけてきた。

 いつもなら朝は取り巻きに囲まれていて、僕が教室に入ってきたことにも気付かないので、わざわざ来るのは珍しい。


「おはようございます、ミーシア様」


 まさかバレたかと内心冷や冷やしながら挨拶を返すと、


「……やっぱり違うか……」


 手の甲をさすり、ぼそりと不穏な言葉を呟いて去っていった。怖いのでわざわざ聞きはしないが、何の確認だろうか。


 本人に聞こえないようにジュリと一旦廊下に出て、端のほうで話すことにした。


「ミーシア様、なんだか調子を取り戻したみたいです。ハイドくんに頼んで良かった」

「今ので?」


 明らかに不審だったのに。ジュリとは見えている景色が違うのかもしれない。


「僕を差し向けること自体が目的だったってこと?」

「実はそうでした」


 ジュリは口元を手で隠し、うふふと含みのある笑顔を見せる。僕の周りには強かな女性が多い。

 僕は本当に話を聞いただけなので――いや別れ際に少しからかったけど――根本的な理由は僕ではない気がする。

 まあ、元気になったのなら何でもいいかと言い聞かせた。


「じゃあ、理由は聞かないでおく?」

「はい。話さないってことは、言いたくないことでしょうから」


 知らないことは知らないままでいるというのも、また友情なのかもしれない。

 家柄や能力に関係なく、ミーシア嬢自身のことを案じてくれる人間がすぐ近くにいることに、本人が早く気付きますように。


***


 学校では、一年を通して様々なイベントが行われる。

 年間予定表によると次の大きな催し物は夏休みの前に行われる体育祭だそうだが、一年生にはその前にもう一つ、大きな行事がある。


「テニス部でーす! 一緒に楽しく身体を動かしませんかー!」

「馬術部です! 乗馬体験やってまーす!」

「魔道具研究部で新しい魔道具を開発しましょう!」


 部活勧の勧誘解禁と仮入部期間の開始だ。


「先輩たちの圧がすごい」


 部員の数が部の予算に直結するとかで、どちらの先輩も目が血走っていた。

 僕は特に押しに弱そうに見えるのか、寮を出て教室にたどり着くまでの間にあらゆる部活動のチラシを渡された。


「いっぱい貰いましたね……」


 そう言うジュリも、僕に負けず劣らず大量のチラシを受け取っていて、恰好の餌食になっていた。


「断ればいいじゃない」


 教室に入ってくる他のクラスメイトも似たような状態で、身軽なのはミーシア嬢くらいだ。いくら押しが強くても、公爵家の進路をチラシで塞げるほどの猛者はいない。


「まあ、チラシを貰うだけならタダですから」


 どんな部活があるのかはオリエンテーションの時に一覧を貰うが、各部の活動内容や個性を知るにはうってつけだ。


「二人とも、部活に入るの?」


 そう言うミーシア嬢はもちろん、どこにも所属するつもりはなさそうだ。


「面白そうな部があったら覗いてみてもいいかもとは思ってます」

「ジュリは?」

「うーん、活動時間が長すぎるところと、自費で購入する用具が多いところは難しいですね……」


 特待生は勉学を優先することが義務づけられているため、授業に必要な物品に関しては購入費用の援助が受けられるそうだ。

 しかし部活動の参加は任意となっているので、そこにかかるお金は自分で賄わなくてはならない。


「ミスティコ家も経済状況に関しては人のことを言えないからなあ」


 やりたいと言えば多少のわがままは聞いてもらえるものの、あまり家の負担になるような活動はできない。

 そもそも自由な時間が少なくなるので、活動が活発な部に入るつもりはない。


「ごきょうだいは、何の部活をしてらっしゃるんですか?」

「兄さんは読書部。姉さんは手芸部だったかな。卒業した方の兄は馬術部」


 話しながら、ジュリが持ってきたチラシも合わせて興味の有無と裏紙にできるかどうかで仕分ける。


「読書部って、何をするの?」


 ミーシア嬢が再び訊ねた。


「本を読むんですよ」

「……それって、一人でやるのと何が違うの?」

「さあ……」


 実質帰宅部と変わらないことは、ミスティコ家の評判にかかわりそうなので言わないでおいた。


「またスノウと同じところにするって言い出すんじゃないでしょうね」

「スノウ様は、疲れるのは嫌なのでどこにも入らないそうです」

「彼らしい」


 ミーシア嬢は呆れた様子で肩をすくめた。

 ちなみに朝が苦手なスノウ様は、今日もまだ登校していない。学校生活に慣れて油断し始めているのか、日に日に教室に現れる時間が遅くなっている。

 従者が送り届けてくれるので遅刻することはないと思いたい。


「掲示板にも募集のポスターが貼ってありましたよ」

「せっかくだから見に行こう」

「物好きねえ」


 入る気はないのについてくるミーシア嬢のほうが、よっぽど物好きだと思う。もちろん本人には言わないが。




 廊下の掲示板には、大小様々なポスターが貼ってあった。ここに掲示するには学校の許可印が必要なので、比較的真面目な部が多そうだ。

 ただし、剥がされることを覚悟でしれっと貼ってある無許可のものや、掲示板の外なら良かろうと言わんばかりに、近くの壁に直接貼られているものもある。


「やっぱり運動部が多いね」

「呪物研究部なんていうのもありますよ」

「そこは兄さんに噂を聞いた。本気のマニアしかいないからやめとけって」

「そ、そうですか……」


 わいわいと話していると、掲示板をはみ出しているアウトローな一枚にミーシア嬢が興味を示した。


「これは……。新聞?」


 他のポスターと違い、モノクロの写真の周りにびっしりと文字が書いてある。


「新聞部が発行してる校内新聞ですね」

「『実験棟で謎の発光体を目撃』『理事長室に隠された秘密』……。何これ、ゴシップばっかりじゃない」


 上品なミーシア嬢は、うわ、と顔をしかめて一歩引いた。


「すぐに剥がされてしまうので、読めるのはレアなんですよ。さすがに今日は見回りが追いついてないみたいです」

「……非合法ってこと?」


 記事の真偽はともかくとして読み物としては面白いので、見かけた時には興味深く拝見している。


「あ、新聞部も部員を募集してるみたいですよ。ほらここ」


 ジュリの指が示す先、記事の端のほうには小さく『部員募集中』という広告があった。部室の場所も書いてある。


「新聞部かあ」


 大衆に公開するか否かという差はあれど、情報屋と通じるものがある。彼らがどうやってネタを仕入れているのかは少し気になった。


 低い位置に貼られている新聞を、ジュリと並んでしげしげと読んでいると、


「ボクたちの活動に興味があるの!?」

「ひゃっ!?」

「うわっ」


 突然肩を叩かれ、二人して悲鳴を上げてしまった。

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