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ああ憧れの情報屋 ~弱小子爵家の三男、命の恩人を探している間にうっかり学園最強になる~  作者: 毒島リコリス


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第19話 実習終了

 ハンマーイーグルが一番優れているのは視覚だ。次いで聴覚で、嗅覚はほとんどないと言われている。


「トーティ、狙うのは翼だよ。仕留めようと思わないで、とにかく少しでも地上に近付ければいい」


 ライズ先生の影に関する噂と本人の反応からして、先生が操れる影は、自身の影と接触している部分だけ。

 そして操れる範囲や濃さにも制限があり、濃いほど威力は高くなる。

 つまり僕たちは、先生の魔法がより強く発動できる条件に持っていけばいいのだ。


「わかった!」

「それじゃ、スノウ様。お願いします」

「うん」


 そして僕は自分たち三人に『物を見えなくする魔法』をかけた。視認できなければ、縦横無尽に駆け回るトーティをあの巨体が音だけで追うのは難しい。

 そして、


「おお、【ホラントの氷】だ」


 空中に突然現れた氷の箱を見て、ライズ先生は僕たちが何をするつもりなのかすぐに勘付いたようだった。


「飛ぶのは無理だけど、ジャンプなら得意だからなー!」


 トーティの声だけが響き、宙に浮かんだ氷の板がダン、ダンと音を立てて揺れる。

 その揺れと音だけで、トーティがスノウ様の氷を足場にして順調に登っていくのを確認できた。


 スノウ様は今までのトーティの動きから、彼ならここまでは飛べるという場所を見極めて次々と足場を用意する。

 ライズ先生は、イーグルがトーティの動きを追わないように自分に引きつけてくれていた。


「そーれっ!」


 姿は見えないまま、トーティの軽快な声と共にイーグルの体勢が崩れる。

 蹴りか何かを翼の根元に思いきり叩きつけたのだろう。骨が折れていなくても、一時的に羽ばたけない程度のダメージになればそれでいい。


「こっちも!」


 高度を落としながらもギャアギャアと威嚇の声を上げ、空中で闇雲に暴れて抵抗するイーグルをものともせず、トーティはもう片方の翼にも打撃を与えた。

 いよいよバランスを崩した巨体が、重力に逆らえなくなって落ちてくる。


「上出来! ありがとう、あとは任せて!」

「はーい!」


 トーティが再び氷の足場を伝って僕の近くまで戻ってきた気配がしたのとほぼ同時に、地上に接近して濃くなった大鷲の影とライズ先生の影が重なった。


「鳥は鳥かごに入れないとね!」


 ライズ先生がステッキを地面に突くと、影から黒いツタのようなものが無数に飛び出した。

 瞬く間に円柱の頭を絞ったような形の鳥かごがイーグルを閉じ込める。巨体が中で暴れてもびくともしなかった。


「……すごい」


 スノウ様が小さな声で呟くのが聞こえた。


***


 災害級の魔獣が現れると、その周辺にも魔獣が引き寄せられる傾向があるということで、生徒の安全を考慮して実習は中止になった。


「ごめんなさいね、あなたたちが出発したのと入れ違いに頂上からの連絡が入ったの」


 ライズ先生の飛行魔法で麓に戻った僕たちに、エリカ先生が駆け寄ってきた。

 僕たちよりも後に到着した班は、麓に戻ってから弁当とエリカ先生のスープを食べたそうだ。

 妙にぐったりした顔をしている面々は、苦いスープか美味しいハズレのスープに当たったのだろう。


「人数が多いエリアの避難を優先してる間に、頂上まで行ってるんだもんな。大したもんだよ」


 疲れた様子でのっそり歩いてきたオーリー先生は、取り出したタバコに火を点けるよりも早く、エリカ先生にレードルで叩き落されて少ししょげた。


「トーティくん、お手柄だったよ。正直あのまま一人で抑えるのはキツかったから助かった」

「へへー」


 トーティは褒められてくすぐったそうにはにかんだ。


「二人もナイスアシスト」

「いえ……」

「恐縮です」


【ホラントの氷】は特徴的だからすぐにわかるとして、二人の姿を見えなくしたのが僕だと、ライズ先生はすぐに気付いたようだ。


 それから、集まった教師陣は『どうして突然ハンマーイーグルが移動したんだ』とか『よりによって宿泊実習に』とか、複雑な話を始めた。

 話題が流れていきそうなところで、ミーシア嬢がおずおずと訊ねた。


「先生、中断した課題はどうなるんです?」

「真面目だねー、普通は課題がなくなったって喜ぶところなのに」


 そういうライズ先生は、不真面目な生徒だったのかもしれない。


「ま、僕の課題はただのクイズだから。魔法学の授業中にでもやってもらおうかな」

「そうですか……」


 背負っていたリュックサックのベルトを掴むミーシア嬢の手にぎゅっと力が入るのが見えた。

 ジュリは何か声をかけようとして、結局何も言わずに寄り添っていた。




 ホテルで一晩休み、生徒たちは帰路につく。

 帰りの魔導車の中は、行きよりもずいぶんと静かだった。


 昨日の疲れが取れず、椅子に埋もれるようにして寝ている生徒が大半なのはもちろん、活躍したエーレンベルク班の間にも沈黙が流れていた。


 ミーシア嬢は、物憂げな表情で外の景色を見ている。

 ジュリはその横顔を時折伺いながら本を読むふりをしている。

 そして、


「スノウ様、何してるんですか?」

「……練習」


 手元で何かしていると思ったら、氷で小さな鳥かごを作っていた。


「わあ、すごい」


 ちらちらと見ていたジュリも思わず身を乗り出す。


「綺麗ですね」

「もっといろんな形が作れるようになったら、ライズ先生みたいなこともできるかと思って……」


【ホラントの氷】は浮かせて操作することができるので、影を操る魔法よりも汎用性が高そうだ。

 まずは小さなものからということらしいが、小さくなった分、むしろ細かい調整が必要に見えた。


「血統魔法って本当にすごいですね。そういえば、ハイドくんのお家に血統魔法はないんですか?」

「あったら、ミスティコ家ももう少し発展したと思うんだけどね……」


 そう、残念ながら我が家には今まで血統魔法を顕現させた人間はいない。

 真面目が取り柄なだけの影の薄い貴族家には、きっと今後も王家からの覚えがめでたくなるような魔法は期待できないだろう。


「特別な魔法って、ちょっと憧れます」

「……そんなに良いものでもないよ」

「そ、そうですか……」


 ジュリの無邪気な言葉にスノウ様がぼそりと返し、また静寂が訪れた。

 まあ、情報屋に派手な魔法は必要ないと思うので、僕はこれからも地味な一般魔法を磨いていこうと思う。

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