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ああ憧れの情報屋 ~弱小子爵家の三男、命の恩人を探している間にうっかり学園最強になる~  作者: 毒島リコリス


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第17話 野生の勘

 大当たりのスープも一口味見させてもらったら、キノコが入っているだけでこんなに違うのかと感動する美味しさだった。

 授業中にこれが食べられるのなら、二学期は魔法料理学を取るのもやぶさかではない。


「私、この実習で良いところなしね……」


 一方、エリカ先生の言うとおりバッドな感じになってしまったミーシア嬢は、ホテルの特製弁当と普通の美味しいスープをちびちびと食べながらしょぼくれている。

 少し涙目になっているのは気のせいだろうか。


「そんなことないですよ。意見をまとめたり、次の指針を決めてくださったりしてるじゃないですか」

「だって、ハイドくんのほうがよっぽど頼りになるじゃない」

「もう、自信持ってくださいよ」


 一口では特に何も感じなかったが、実は変なものが入ってるんじゃないだろうか、ハズレのスープ。


 そして僕のスープを味見したスノウ様は、無言でぎゅっと目を瞑り、滑らかで平らだった眉間に皺を寄せた。ジュリも口を押さえて顔を背けた。


「ハイドくん、そのスープ食べ切るんですか?」

「もちろん。この苦いのもなんだかクセになる味に思えてきたよ」


 餓死する恐怖を味わったことがあるので、僕に食べ物を残すという考えはない。


「強いのね、ハイドくん……」


 僕が苦いスープを平らげているのを見て、少なくとも自分は美味しいスープなのだから落ち込んでいてはいけないと思ったのか、ミーシア嬢は少し食欲を取り戻したようだった。


***


 昼食を食べ終わり、そろそろ出発しようと立ち上がった時だった。


「良い匂いがするー!」


 僕たちが来たのと同じ、険しいルートの方から妙に元気な声がした。


「食べ物!? 食べ物だ!」


 金と焦茶がまだらに混ざった髪に葉っぱを付けた背の低い男子生徒が、茂みの中からガサガサと現れる。


「いらっしゃーい。お腹空いたでしょう」

「空いたー!」


 全く疲れを感じさせない動きでエリカ先生に駆け寄り、びしっと手を挙げた。


「三つのお鍋から一つ選んで食べていってね」

「どれでもいいの!? んーとねえ」


 そしてすんすんと三つのスープの匂いを順に嗅ぎ、


「これ! これが一番美味そうな匂いがする! 高いキノコの匂い!」


 と、ものの数秒で大当たりの鍋を選んだ。


「あらあ、鼻がいいのねえ」

「そう! おれ鼻がいいんだー」

「あっちのテーブルを使っていいからね」

「ありがと!」


 賑やかな男子は両手で嬉しそうにスープを受け取り、零さないように器を注視しながらこちらに近づいてくる。


「あなた、一人だけ?」


 四人一組のはずなのに、一向に他のメンバーが現れる様子がないことに気付いて、ミーシア嬢が話しかけた。


「公爵家の人だ! こんにちはー!」


 気安い言葉使いだが、一応敬意を払わねばならないとはわかっているようで、男子生徒はぺこりと頭を下げる。


「こ、こんにちは」


 ミーシア嬢も釣られて挨拶を返した。押しの強いマイペースな相手には弱いらしい。


「あのねー、おれ以外の人は罠にひっかかってリタイアしちゃったからねー、おれ一人で来たんだー!」

「危険な道の方から来たよね? 本当に一人なの?」

「うん! 他の人に合わせなくて良くなったから、走ってきた!」


 声は溌剌としていて疲れは全く見えない。山道に慣れているとしても元気すぎやしないだろうか。


「オーリー先生の課題はどうしたの?」

「背中にタッチしたら合格にしてくれた!」


 あの鬼神相手に一人でクリアしたというのか。

 光の加減によって緑にも金にも見える猫のような目と、妙に野性的なその能力から、僕はある生徒の噂を思い出した。


「もしかして、三組の……。名前は確か、トーティ?」

「なんで知ってんの!? そう、トーティ・ラスト!」


 トーティはよほどお腹が空いているようで、喋りながら椅子に座って弁当を取り出し、ふわっと食前の祈りの動作をした後スープに手をつけた。


「うまーい!」


 普通は公爵家なんていう上位の貴族を見たら畏まるものだが、そんなことより食事が優先らしい。

 ふにゃふにゃの笑顔で頬張る様子は、見ているだけでこちらまで笑顔になる。


「珍しい血統魔法を持ってるって聞いたよ」


 男爵家は一代限りの爵位なので、彼自身は平民ということになる。

 それでも入学が許された理由が、彼が父から受け継いだ血統魔法のためだという噂を聞いた。


「そう、これー」


 スプーンを持っていない方の手を出し、爪を見せたと思ったら突然その爪がシャキンと尖った。


「猫みたいね」

「名前もそのまま【猫の加護】だったと思います」


 他にも五感や脚力の強化、暗視など、猫のような能力を行使できるという話だ。人外レベルまで身体能力を引き上げる強化魔法だと思えば、オーリー先生に一人で対応できたのも頷ける。


 特待生ではなく三組の所属なのは、たぶん彼の能力が入試の方法では上手く測れなかったからだろう。

 今後彼の家が有名になれば、【ホラントの氷】のように家名の入ったものに変わる可能性もある。


「おれより詳しいじゃん! だれー?」

「ミスティコ家のハイド。よろしくね」

「ハイド! よろしくー」


 笑った口元から尖った牙が見えた。ずいぶん人懐こい猫だ。

 僕がいつもどおり『みんなと仲良く』『最初の印象が肝心』を心がけていると、鍋を管理しながらにこにことこちらを見ていたエリカ先生が突然言った。


「そうだ。あなたたち、良かったらトーティくんもエーレンベルク班に入れてあげてくれないかしら」

「んぇ?」


 トーティ本人が一番きょとんとしている。 どうやら僕たち四人は、書類に【エーレンベルク班】で登録されているらしい。

 するとミーシアが代表して頷いた。


「私は構いません。いくら先生がたが見守ってくださっていても、一人では危ないこともあるでしょうし」


 と言ってから、


「……あ、ええと、他の皆がよければだけど」


 急に目を泳がせた。やっぱり少し自信をなくしている。

 僕たちは一度顔を見合わせ、口々に頷いた。


「俺は別に」

「はい、人数は多い方が楽しいです」

「僕はスノウ様に従います」


 するとトーティはぱあっと顔を明るくした。


「いいの!? ありがとなー、やっぱちょっと寂しかったからさー!」

「私からもお礼を言わせてちょうだい。他の先生にも伝えて、不利にならないようにしておくから、よろしくね」


 こうして仲間を一人増やした僕たちは、エリカ先生にスープの礼を言って二つ目のチェックポイントを後にした。

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