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#13 道具屋 【槐】

『道具屋 槐』


/所在地

〒―――-――――

―――――――――――――


/アクセス

―――――――――――――

―――――――――――――

―――――――――――――


/営業時間

不定

基本的に店主が在店している時のみ


/定休日

不定

店主の気分次第


/店のルール

・基本的に売る相手は店主が選ぶ

・商品を傷つけた客は出入り禁止

・公安関係者への店の情報開示厳禁


何度も通って店主と顔なじみになる、かつ、それなりに腕が立つ者でなければ道具屋には入れない。

一番の鬼門は、気難しい店主のご機嫌を取れるかどうか。


クロは道具屋に向かうために朝早くから事務所を出た。


冬の空は白く(にご)り、風が低く(うな)っている。通勤者の流れに逆らって進み、いくつかの角を曲がると、次第に人の気配が薄れていった。このあたりまで来ると、観光客はおろか地元の人間もほとんど歩いていない。裏路地と裏路地が入り組んだ一角で、迷い込んだ人間が目印もなしに抜け出せるとは思えないような場所だ。


目的の店は、古びた雑貨屋の体裁(ていさい)をとっている。


看板には「骨董・雑貨 (えんじゅ)」とある。

ショーウィンドウには埃をかぶった置物や、年代物らしき陶磁器(とうじき)が並んでいる。外から見ると、廃業寸前の店にしか見えない。実際、一般客が入ってきたことは、クロの知る限り一度もなかった。


♢♢♢♢♢


ドアを開けると、古い木と埃の匂いが鼻をついた。


店内は薄暗く、棚に雑多な品が並んでいる。それらの商品には目もくれず店内を進むと、奥のカウンターの向こうで白髪を無造作に束ねた老人が腕を組んで立っていた。革のエプロンを着けており、顔のしわは深いが、眼光だけは妙に鋭い。こちらを見る目には愛想のかけらもない。



「久しぶりだな、ジジイ」


「三ヶ月ぶりだ。客が来たかと思えばお前か」



老人はカウンターから出てくると、クロを一瞥(いちべつ)して顎をしゃくった。



「来い」



それだけ言って、迷わず店の裏手へ歩いていく。クロもその背中について外に出た。裏庭と呼ぶには荒れすぎた空き地の隅に、錆びた旧型の乗用車が一台放置されている。老人はためらいなくそのボンネットを持ち上げた。本来、エンジンがあるべき場所には石造りの階段が下へ向かって伸びている。



「相変わらずめんどくせえ入口だな」


「仕方ないだろ、うちにある商品は特別製なんだ。こうでもせんと公安の犬どもが嗅ぎ付けてきやがる」



老人は振り向きもせず階段を真っ直ぐ降りていった。クロもあとに続く。


地下の店は、地上とまるで別の空間だった。石造りの壁に等間隔でランタンが掛かり、橙色の光が室内を照らしている。棚には所狭しと品が並んでいるが、地上の雑貨とは明らかに異質だ。奇妙な文様の刻まれた刀、複数の鎖で厳重に封じられた箱、形状からして用途のわからない道具。漂う気配だけで、ここに並ぶ品が普通でないことは一目でわかる。老人は作業台の前に腰を下ろし、工具を手に取った。



「もう少し顔を出せ、うちの売り上げに貢献しろ。それで、今日は何だ」



そう言いながらも視線はクロの腰元に向いたままだ。



「はぁ、相変わらず目がいいな。ナイフの状態を見てくれ」



クロは腰から漆黒のナイフを抜き、老人に渡した。老人はランタンに近づけてしげしげと眺め、刃の腹を指でなぞる。口の中で何かぶつぶつ言いながら、裏返し、また表に戻す。



「……術式の()みが少し緩んどる。放っておくと切れ味が落ちる」


「直せるか」


「なめるな。これくらいならすぐに終わる」



老人はナイフを台に置いて作業を始めた。クロは近くの椅子を引いて座る。


老人は手を動かしながら、ちらりとクロを見た。



「最近は多いぞ、怪異(かいい)絡みの相談が。呪物(じゅぶつ)の持ち込みも増えた」


「そうか」


呪具(じゅぐ)の需要も上がっている。先週だけで四件、商品の問い合わせがあった」


「売れてよかったじゃねえか」


「一件は断ったがな。腕のない人間に渡しても、(しな)が可哀想なだけだ」



それが老人の中での商品を売らない最大の理由だ。儲けよりも品の行き先を優先する。商売人と言うよりも職人。だからこそ、ここに並ぶ商品の質が保たれているのだとクロは思っている。



「それに、下手な相手に渡して事故でも起こされたら、うちに火の粉が飛んでくる。まあ、そういう話が広まれば、公安が嗅ぎ付けてくる口実にもなるしな」


「前にも公安がどうとか言ってたな」


「三年前にな。上の店をうろついて、品定めをしていきやがった。何も見つけられずに帰ったが、不愉快な話だ。以来、念のために結界を強化した。今は地下においてある品の呪力(じゅりょく)が表には漏れんようになっとる」


「面倒なことしてんな」


「面倒なのはあいつらの方だ。なんでもかんでも管理したがる。独占したがる。……まあ、お前さんはその手合いとうまくやっとるようだが」



皮肉の混じった目で見てくるがクロは流した。



「仕事上の付き合いだ」


「そうか。よくつるんどるみたいだが、うちの店のこと話すなよ」


「わざわざ敵を作る真似なんざしねーよ」


「どうだか」



老人は工具を置き、ナイフを手に取って(かざ)した。ランタンの光を受けて、刃が鈍く輝く。



「よし、できた」


「早いな」


「言っただろ、すぐに終わると。術式の緩みは締め直した。切れ味は前より少し上がっとる。大事に使え」



ナイフを受け取ると、手に伝わる感触が確かに変わっていた。呪力が安定し、握りがしっくりとくる。クロはナイフを腰に収めた。



「代金は」


「五千だ。今回は軽い調整だけだったからな」


「いつも助かる」



財布を出して、カウンターに紙幣を置いた。老人はそれを掴んで、引き出しの中に放り込む。



「他に何か要るか。いい品が入っとるぞ」


「今日はいい。依頼で必要になったら来る」


「けち臭い奴だ」


「今日は勘弁してくれ、それに無駄に荷物を増やしたくない」



老人は鼻を鳴らして、また作業台に向かった。次の仕事に移るらしく、棚から何かを取り出し始めている。それきり黙るかと思ったが、少しして重い声が続いた。



「……クロ、最近はどうもおかしい。明らかに怪異による事件の数が増えて来とる。噂じゃ百鬼夜行(ひゃっきやこう)の再来なんて話もある。気をつけろよ」



珍しいことを言う。


この老人が人を気遣うような言葉を口にするのは、クロの記憶ではほとんどない。



「ジジイが心配するなんて珍しいこともあるもんだな」


「誰が心配なんかするか。うちはただでさえ客が少ないんだ。収入源が減ったら困る」


「……そうかよ、次は何か買いに来る」


「ああ、そうしてくれ」



老人は振り向かずに返事をした。


結局、クロはそのまま帰ることにした。

階段を上がり、ボンネットを閉める。錆びた鉄の感触が指先に残った。


♢♢♢♢♢


店を出ると、風は止んでいた。


代わりに空が低く垂れ込み、今にも雪が降りそうな色をしている。クロは裏路地を抜けながら、今しがた老人が言ったことを反芻(はんすう)した。


百鬼夜行の再来。


大げさな言い方だと思う。だがあの老人が根拠もなくそんな言葉を出すとも思えない。


(いろいろと調べたほうがよさそうだな)


大通りに出ると、人の流れが戻ってくる。クロはその中に紛れ込み、事務所への帰途についた。腰に収まったナイフが、心なしか震えた気がした。

Wright/__です。

本作品を読んでいただき、ありがとうございます。


表の雑貨屋は仮の姿、地下が本店の道具屋となっています。

店主のクロに対する評価は、それなりに高いみたいです。

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