第7話 バタネルとカンコネル
轟音が鳴り響いて、雷は敷地の反対側に落ちた。
私はてっきり、私かアークが狙われているとばっかり思っていたので、これは意外だった。
「どういうことなの?もしかしてフェイク?」
だとしたら、これからが本当のピンチだ。なぜなら、今の私の、可愛い悲鳴が聞かれた可能性があるからだ。
ふとアークを見ると、こちらを向いて睨んでいる。きっと悲鳴をあげたことを非難しているに違いない。
私はわかった、わかった。ゴメン……と、顔の表情で返事をする。
だが、天使たちの様子を見ると、私たちに気付いた様子はなさそうだった。
たぶん、凄まじい轟音にかき消されて、私の悲鳴が聞こえなかったのだろう。
バタネルが叫ぶ。
「出て来い!この薄汚い悪魔の仲間め!」
「ひうっ!」
私は動揺して、両手で口を塞いだ。
やっぱりバレていたのか!
どうしよう。……出て来いと言ってるぞ。私の額に滝のような汗が流れた。
私は動揺しながら両手を上げて出て行こうと腰を浮かせかけた。
だが、向こうでアークが険しい顔をしながら首を振っているので、私は投降を思いとどまった。
「おっと、力余って殺してしまったかな?」
……よく考えてみると、バタネル?だったか? あいつがトンチンカンな場所へ雷を落としていたということは、私の居場所を把握していないということではないか。
あっぶねえ……
わざわざ捕まりに出ていく所だった!
私がホッと胸を撫でおろしていると、先ほど雷が落ちた方から、黒い何かが飛び出して来た。
それも一人や二人といった話ではない。
ワラワラ、ワラワラと……出てくる出てくる。
15匹はいる?
2メートル超えのサイクロプスみたいな一つ目の、豚みたいな鼻をした悪魔もいるじゃないか。
一体、どこに隠れてたんだ?
「ほう!デビルハウンドを引き連れた悪魔様が……こんなところで何をしているのかね?」
すると大柄な豚の悪魔が叫んだ。
「バレたのなら仕方がねえ。リリア様のお宝が落ちていたら拾おうと思って見に来たが、まさか天使様がゴミを漁っているとはな、同じ泥棒仲間だ、仲良くしようぜ!!」
悪魔たちはガハハハと笑った。
するとバタネルは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「黙れ小汚い豚どもめ!私たちは正義のためにここへ現れたのだ」
するとリーダー格の豚悪魔が唾を吐いた。
「お前ら天使は、いつも綺麗事ばっかりだ!」
すると後ろでそうだ、そうだと声がする。
「お前ら3人に対してこっちは5人と10匹だぞ。痛い目に合わせてやろうか!」
するとバタネルは、片手を振り上げてその悪魔めがけて、指揮者がタクトを振るように腕を振った。
すると、一番先頭に立っていた悪魔の一人に、天から一筋の雷が落ちた。
ピシャ―ン!という轟音とともに、悪魔は立ったまま黒焦げになっていた。それをみた悪魔たちは、みんな黙り込んだ。
「4人と15匹になったな」
するとセラフィムは一同を見渡して、ため息を吐いた。
「バタネル……もう良い、さっさと始末しろ」
そういうと、杖を悪魔たちへ向けた。
「全員殺せ!」
「ハッ!」
するとバタネルは前へ飛んで、悪魔たちを殴り飛ばした。
焦った悪魔たちは、リーダーと思わしきセラフィムに狙いをつける。
「あのジジイから先に始末するんだ!」
すると悪魔たちの半数が、セラフィムに向かって飛び掛かっていった。
私はその様子を見ながら、顔を青ざめさせていた。
天使たちのイメージが私のものと違う!それはもう衝撃的だった。
だけど、私の目から見ると、いくらこの天使たちが強くても、あの強面の悪魔たちには勝てないと思った。
なにせ2メートルはある巨漢なのだぞ?
あんな細い体では、一瞬で倒されるに決まっている。
私は両手で顔を覆って、指の隙間から彼らの戦闘を見ていた。
すると、今度は、これまで傍観していたカンコネルという天使が前に出てきた。
「ここからは私がやりましょう……」
カンコネルは、中性的な顔立ちをしたイケメンだ。彼は水色の髪の毛を揺らしながらまるでダンスでも踊るように前へ出る。
キザな野郎だ。
すると、十頭のデビルハウンドが、カンコネルに次々と飛び掛かる。
するとカンコネルは踊るように回転しながら、デビルハウンドの攻撃をかわしたのだ。
何これ?なんか、酔拳的なやつ???
すると豚の化け物みたいな悪魔たちが、怒りで顔を真っ赤にした。
「おのれ、チョロチョロと!みんなでかかれ!」
「おう!」
一つ目の豚悪魔たちは結集してカンコネルに飛びかかっていく。だが、それは彼が張った罠だった。
悪魔たちが近寄ってくると、カンコネルはクルクルと舞いはじめた。すると、風の刃をまとった竜巻がまきおこったのである。
「うわあっ!」
悪魔たちはあっという間に切り刻まれ、ポトフの材料となった。そんな肉の入ったポトフなんて食べたくないけど。
上空高く巻き上げられた一部の血肉が、私の足元へボトボトと落ちてくる。
「ひいい!」
グロっ……
私はドン引きした。
主人を失ったデビルハウンドは、キャンキャンと吠えながら逃げ去っていった。
その様子を見ながら、私は思わず唇を噛みしめた。あんなに強そうに見えた巨漢の悪魔が、一瞬で倒されたのだ。
人は見かけによらない……私は顔を青くしながら様子を伺った。
「よくやった、カンコネル」
だが彼は、少し考えるようなそぶりを見せた。
「何か気になることでも?」
「いえ、こいつらと戦ってみてわかりましたが、手応えが無さすぎます。おそらく、先ほどの巨大な魔力反応は……別の誰かのものだと思いまして……」
「ああ、私もそう思う」
セラフィムは唸った。すると、カンコネルが口を開いた。
「もしかすると……あのリリアの娘かもしれませんね」
「あの人間の小娘が?」
カンコネルは頷く。
「あの小娘だけならともかく……今はリリアの従魔がそばにいるというではありませんか。きっと我々の知らない情報を掴んでいるにちがいありません」
セラフィムは唸った。
「あの小娘を泳がせていたら、宝を探す手がかりを見つけるかもしれないと思っていたが……もっと身近に置いて監視した方が良いかもしれんな」
すると、カンコネルは一歩前へ進み出た。
「それではセラフィム様……私があの娘を探し出し、セラフィム様のもとへお連れしましょう」
それを聞いた私は、変な汗が出た。私はここにいるんですが……。
「よし、それではカンコネル。お前はイサルフェを伴って、あの小娘を探し出せ」
「イサルフェですか、確かに彼の探索力を使えば、すぐにでも見つかるでしょう」
「うむ……くれぐれも頼んだぞ」
私は唾を飲み込んだ。こちらからではセラフィムの背中しか見えないが……どうやら偉い人なのだろう。セラフィムは、続いてバタネルにも指示を出していく。
「お前は遺跡に向かって、扉を開く解読作業を続けるんだ。もし解読出来たなら、もう小娘に用はないからな」
「わかりました、セラフィム様」
「では、二人とも、頼んだぞ!」
「ハッ! お任せを!」
二人はセラフィムに頭を下げると、また流星のように飛んで行った。
行った……行ってしまった。
私は少しだけ、胸を撫でおろした。
それにしても、この天使たちは私のことを一体何だと思っているのだろう。
結局……私を助けようという気は微塵もないのね。
私は悲しくなって小さなため息をついた。
「そこに誰かいるのか!」
突然、セラフィムが声を上げた。私はマズイと思って両手で口を塞ぐ……だが少し遅かった。
セラフィムはすぐさま腕を振って雷を飛ばす。
ピシャ―ン!という轟音とともに、大きな稲光りが鳴って、私の股間の数センチ先の地面に小さな雷が落ちた。
「ウッ!」
私は硬直して息すら出来なかったが、今回はそれが幸いしたようだ。
「ふむ……私の気のせいか……」
セラフィムはそういうと、杖を空へ向かって高く掲げた。
「さて……私も動くとするか」
セラフィムの顔を見たかった私は、その瞬間、こっそりと覗き見をした。
するとどうだろう。
セラフィムとは……私に呪いの首輪をつけたあの老人ではないか。
「お前、天使だったのかよ!」
どこがお前……天使やねん!……と、私が冷たい目で見守る中……セラフィムは光となって空高く飛んでいった。




