第6話 焼け跡
私の首にある黒い輪が、ギュウギュウと締め付けて来る。
うずくまって苦しむ私に、アークは優しくしてくれた。
「おい、大丈夫か、ミナ!」
しばらくすると、締め付けが緩んで息が出来るようになった。私はハアハアと荒く息を吐いた。
「……こんな締め付けが毎日来るのかしら……」
私が苦しそうにしていると、アークがお水を持って来てくれた。
私はグラスに入った水を、一気に飲み干した。
「ありがとう、アーク……」
「大丈夫か、ミナ……」
「ええ、もう平気……」
私は息を整えて、唾をゴクリと飲み込んだ。
「この締め付けは警告なのかしら?……早く宝を見つけなさいっていう……」
するとアークは下を向いて黙った。それから顔を上げて私を見つめると、肩をポンポンと叩いた。
「とにかく早く進めなきゃな。もう少し先に進むと……その首輪の外し方もわかるかもしれない」
「そうだといいけど」
私は大きく息を吐いた。両親が殺されて悲しむ間もなく……こんな命の危険に晒されるなんて……。私はなんてツイてないんだろう。
本気でそう思った。
「さあミナ……出発しよう」
それを聞いた私は立ち上がって、ズボンの埃を払った。
「まずは火災現場ね……あのカードが見つかるといいけど」
私はシートをめくって廃工場へ出た。
◆
今回は、アークが私を両手に抱いて空を飛んでくれた。ちょっと疲れてるだろうからって。
悪魔の一味なのに、優しい所もあるのね。
でも、アークは重力を操ることが出来るんだから、私を抱いて走っても、重くはないのかもしれない。
「着いたぞミナ!」
上空から見下ろしてみると、ものの見事に私の家の敷地だけきれいに焼け焦げていた。
アークは敷地のすぐそばで着地した。そして私を、そっと地面に下ろしてくれた。
「さあ、探しましょう」
私は焼け跡をジッと見つめる。燃え残った何本かの柱だけが、墓標のように立ち尽くしていた。
「母さん……父さん……」
私は、胸がギュッと締め付けられる思いだった。
「酷いもんだな……あいつらは情け容赦ねえ」
私は小さく頷いた。
アークは焼けた家の敷地へと入っていく。そして黒焦げの角材を足で押したりしながらチラチラと焼け跡をチェックしていた。
「下がっててアーク。あなたの白いセーターが、真っ黒になるわよ」
そう言うと私は……かつて自分の部屋があったあたりへと歩いて行った。
そして、邪魔な焦げた角材などを押しのけると、ガサガサと、燃えカスを掻き分けながら探し始めた。
「確かこのあたりに本棚があったはず……」
私は本棚の中段あたりにカードを置いていたのだ。だが、なかなか見つからない。
「おかしいわね……魔道具って、本当に燃えないの?」
しかし、根気よく探しているうちに、燃えカスの隙間からキラキラ輝く光が見えた。
「あっ、これだわ!」
私が燃えカスを手で押しのけると、紫色の布に包まれた、タロットカードが一組現れた。
するとアークが近付いてきて、肩越しに覗き込んできた。
「……ミナ、その包みを開けてみろよ」
私は小さく頷くと、紫色の包みをめくった。
そして現れた光り輝くカードの束。
私はそれを両手で包み込んだ。
「温かい……なんだか不思議なエネルギーを感じるわ」
「ああ……驚くほどの魔力に溢れてるぜ……」
私はカードに、直接触れてみることにした。すると、頭の中に……懐かしい母との記憶が蘇ってきたのだ。
「ああ……思い出したわ……母さんとの思い出を……」
アークがそばに来て言った。
「ミナ……どんなことを思い出したんだ?」
「母さんは、このカードは特別なものだと言っていたわ。……いつか必要な時が必ず来るから、忘れちゃ駄目だよって……」
私は思わず涙がこぼれそうになった。するとアークがソワソワした様子で声をかけてくる。
「……ミナ。そのカードは思った以上に強大な魔力を放っている。早くそのカードを包みの中へしまえ。こんな所でそんな強大な魔力を放っていたら……変な奴らに嗅ぎつけられる」
「そうなの?ごめん」
私は慌ててカードを紫色の布で包み、ポケットの中に入れた。
「とりあえず、隠れ家へ戻ろう。ここは危険だ」
私は頷いて、歩きはじめたアークの背中を追った。
するとその時、空から流れ星のような光がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。それをみたアークは冷や汗を流した。
「まずいぞミナ! どこかに隠れるんだ!」
それを聞いて、私は周囲を見渡した。だけどここは焼け跡……隠れる場所なんてあるわけないじゃない!
「馬鹿言わないで! どこに隠れる場所なんてあるのよ?」
するとアークは私の後ろを指差して言うんだ。
「その、柱の後ろでいいだろ」
私が振り返ると、その燃えて炭になった黒い柱が立っていた。
「馬鹿なの?いくら私が細くても、こんな細い柱じゃ隠れられない!」
するとアークは自ら地面に横になると、顔に泥を塗りたくりながら「早くしろ!」
と険しい顔で指示してきた。
私はブンブンと首を振る。
「泥を顔に塗るなんて絶対に嫌!」
するとアークはしかめっ面をして、口パクで何か言った。
「し・に・た・い・の・か」
そうこうしているうちに、その流れ星がズドーンと焼け跡に落ちた。
するとそこには3名の天使が立っているではないか。
私は、うわあ……頭の上に天使の輪があるーと思った。
しばらくすると、杖を持ったリーダーのような男が、杖の底を、地面にガンと叩きつけた。
「バタネル!先ほど感じた強い魔力はどこへ消えたのだ!」
思い出せないが、どっかで聞いたことのある声だ。
すると隣にいた若い天使がうやうやしく頭を下げた。
「セラフィム様……魔力を感じたのはほんの数分前……必ず近くへいるはずです」
するとセラフィムはまた、杖で地面を叩いた。
「探せ! 必ずこの近くにいるはずだ!」
「ははっ!必ずや、見つけて見せましょう!」
このやりとりを見て、ふと思った。
もしかして、あの魔力ってあのタロットカードのこと?
私は、自信満々に胸を叩く若い天使を見て、顔を青ざめさせた。
するとセラフィムはニヤリと笑った。
「バタネル……えらい自信だな。何か確証でもあるのか」
「ええ……私にはもうわかっています」
そういうと、バタネルは大きく息を吸った。
「隠れてないで出て来い! そこにいるのはわかっているんだぞ!」
私の心臓は、かつてないほど跳ね上がった。心臓の脈動に喉を押しあげられるような気がした。
私は両手で口を塞いだ。
「……出てこないつもりか? ではこれで出てくる気になるかな?」
バタネルは片手を高くあげた。
そして、指揮者がタクトを振るように腕を前に伸ばすと、サンダーボルト!と叫んだ。
するとどうだろう。
稲光が幾筋も走り、轟音とともに、天空から無数の雷が降り注いだのだ。
「ひいいっ!」
これは本気で死んだぞ!
私は頭とヘソを手で隠して、焼けた柱に縋り付くのだった。




