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悪魔っ子ミナの魔界冒険譚  作者: minori
第1部 旅立ち編
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第4話 夜を駆ける


「あの馬鹿、飛びやがったよ!」


ミナは叫んだ。なにせ彼女の病室は5階なのだ。窓から飛び降りるなんて自殺行為である。


「嫌ああああ!」


胃が持ち上がるような浮遊感とともに、手をバタつかせながら落ちていく。猛烈な恐怖で胸は苦しく、顔は鬼のような形相をしていた。


「ちょっと暴れるなって!」


「これが暴れずにいられる?!」


あわや地面に激突かという時、何故だか落ちる速度にブレーキがかかった。


「えーー?!」


それは不思議な感覚で、次第にジェットコースターが滑るみたいに地面スレスレを走っていくのだ。


「落ちないのぉぉ!」


ミナはどんな声を出したらよいのかわからなくなった。


「むしろ上がるぞ!」


アークがそう言うと、今度はフワリと浮きだした。


アークに抱かれたまま、ゆっくりと上昇していくのだ。


「ええええー!」


ミナの反応を見て、アークはニヤリと笑った。


「どうだ、俺は空間の重力を操れるんだよ」


アークは私を抱えたまま、さらに高く飛び上がった。


「先に言えって!」


アークは能力があるのを隠して、ミナを驚かせたのだ。


「言っても信じなかったろ!」


「確かに信じないけど」


実は今でも信じられなかった。


こうやってお姫様だっこされたまま、空を飛んでいるなんて!


ミナは顔を上げてチラリとアークを見た。童顔だけど、優しそうな顔をしている。少なくとも、昨日の老人やタコみたいな化け物に比べると信用してもいい気がした。


「ほらミナ、見てみろよ」


アークの声に振り返ると、そこには見事な夜景が広がっていた。


「……信じられない」


見たことのない角度からの夜景。自分が住む街の光がこんなに綺麗だったなんて……。ミナは街の輝きに心を奪われてしまった。


だがその夜景もほんの数秒で、アークはすぐに地面へ着地した。そこは病院の駐車場だった。


「どうして着地したのよ?」


「だって、君を下ろさないと、両手が塞がって戦えないからだよ」


それを聞いて、あの触手を思い出した。


「そうだわ、あいつ、一体何なの?」


病院を振り返ってみると、病壁を這い下りてくる巨大なタコのような怪物が見えた。それは頭だけでも象くらいの大きさがあった。


「なにあれ? あんなに大きかったの?」


するとアークは頷いた。


「あれはダークテンタクルっていう魔獣だ。ミナを捕まえようとしている奴らが送り込んだんだろう」


「私を? なんで……」


「決まってるだろ。お前が”鍵”を持ってるからさ」


病院の窓ガラスが次々と割れ始めた。私はそれを、遠くの出来事だと思って眺めていた。すると突然顔の前に、ニュルニュルと動く黒い触手が現れたのだ。


「きゃああっ! 臭っさい!」


ミナは猫のように後ろへ飛び上がった。


「ちょっと冗談じゃないわよ!なんで私が……ってキャアア!」


足元を見ると、黒い触手がミナの体にいくつも絡みついていた。彼女は悲鳴を上げながら数メートル引きずられ、その後、逆さ吊りに上空へと持ち上げられた。


「ひいい! なんで? なんでみんな空へ行きたがるのよ?!」


だけどこの時ばかりは、夜景を楽しむ余裕なんてなかった。


すると、とてつもなく臭い臭いがしたので、ミナは振り返って顔を上げた。


するとその目の前には、ヌメヌメと光った黒いダークテンタクルが、臭い息を吐きながらこちらをギロリと睨みつけていた。


ミナの背筋が凍りついた。


「ひいい!助けろ!アーーーーク!」


ミナの気分は最悪だった。


「待ってろ、ミナ!」


上空からアークの声がする。


ミナが空を見上げると、月の輝く明るい夜空から、ひとつの黒い影が現れた。


その影はやがて白い髪の男の子の姿へと変り、ダークテンタクルめがけて落ちていく。


「アークっ!」


彼は背中に背負った1メートルくらいの剣を取り出すと、頭上に振りかぶった。


「食らえ、この野郎!」


アークの剣が、ダークテンタクルの丸い頭を切り裂いた。


「ブオオオ!」


ダークテンタクルが痛みに吠えた。


アークの剣は、化け物の頭を引き裂いていた。これであの化け物が倒れるのも、時間の問題だと思った。


ダークテンタクルは痛みに打ち震え、触手を振り回す。その影響で、触手に掴まれているミナもブンブンと振り回された。


「わわわわわ!」


アークはそのまま、空中でピョンピョンと飛び跳ねると、両手に持つ長い剣を使って無尽に振るって、タコの体を切り裂いていった。


「心臓を切り裂いた!もうちょっとだ!」


だが、無数の触手がアークを襲う。アークは空中を飛ぶように舞いながらそれを躱し、剣を振るって斬り裂き、その触手はあっという間にブツ切りにされた。


「アーク!やっつけたの?」


「いや、タコの心臓は3つあるから!」


「馬鹿なの? あと2つもあるじゃないの!」


「ちなみに脳は9個あるぞ」


「嘘でしょ? 全然倒せる気がしないわ!」


ミナは生臭い臭いに耐え切れず、眉間に皺をよせた。そして自分の鼻をつまんだのだが、もともと指にダークテンタクルの粘液がついていたようで、今度は鼻の回りから臭いが取れなくなってしまった。


「うっわ、もう最悪!」


ミナは泣きそうになった。


するとアークは服の内ポケットから何かを取り出すと、ミナに向かって投げた。それはフリスビーみたいに飛んできて、ミナの頭上で浮遊したまま止まった。その輪っかの色は金色でキラキラ輝いていて、まるで天使の輪のようだった。


「その輪を使って……なんとか自力で脱出してくれ!」


「なんとかって、私か?!」


「俺は今忙しいから!」


「おい!」


ミナはチラリと頭の上にいるダークテンタクル見上げた。


「ブオオオ!」


ダークテンタクルが怯えて、ミナを掴んでいる足を目いっぱい伸ばして遠ざけている。


……この天使の輪は、何か怖い武器なのだろうか。


「ブオオオ!ブオオオ!」


ダークテンタクルが数本の触手を伸ばして、ミナの腕や足を掴んでくる。ミナを拘束しようとしているのだろうか。


「ああっ!sれはダメよ!」


ミナは思わず両腕で顔をガードした。


するとその輪が自動的にヒュンヒュンと飛び回って、攻撃してきた触手を切り裂いてしまったではないか。ミナは目をパチクリしながら、頭上に輝く天使の輪を見た。


「すごい、自動で私を守ってくれてるの?」


正面を見ると、ダークテンタクルが悲鳴を上げながら身をよじっている。どうやらアークがまた一つ、心臓を切り裂いたみたいだ。アークが振り返って叫んだ。


「その輪に触れてみろ!」


ミナはどぎまぎしながら、指先を頭上へ伸ばす。


「どこを触ればいいのよ!」


「どこでもいいから!」


「指が切れたりしない?」


「早くしろこの馬鹿!」


「今、馬鹿って言った??」


ミナは腹を立てながら、指先でその輪に触れた。


するとその輪は頭の上から離れて指先近くまで降りて来た。


「えっと……これからどうすれば……」


ミナはこの輪は防御に特化したアイテムであり、きっと異臭からも身を守ってくれるのではないかと期待した。


「お願い……この鼻の臭いを消して頂戴!」


ところが、ミナのジェスチャーが悪かったのか……天使の輪は何気なく動かした指先に反応して、急にどこかへ飛んで行ってしまったのだ。


「ちょ、ちょっと!帰ってきなさいよ!」


ミナは手を降って戻って来いと言ったけど、天使の輪は暴走したみたいに、ダークテンタクルに向かって飛んでいく。


だけどその先では、アークがダークテンタクルと戦っているではないか!


「危ない!避けて!!」


ミナの声が聞こえたかどうかは不明だが、異変を察したアークはすぐさま脇へ飛んだ。


すると円盤は、その脇を間一髪通り抜けた。そして、制御不能な様子で蛇行すると、触手を切り裂きながらダークテンタクルの丸い頭へゴン!と突き刺ささった。


「ブオオオ!ブオオオ!」


ダークテンタクルが悲鳴をあげる。


そして天使の輪は、そのまま、シュンシュンと左右、斜めと動き回って、アッという間にダークテンタクルをバラバラにしてしまったのだった。


「ひょおお! 危ねえ!」


アークは振り返りながら、額の汗をぬぐった。


ミナは呆然としながらアークを見つめていた。


「これって私がやったの?」


アークはニヤリと笑った。


「ああ。これが君の力さ」


「すごい力ね……」


「危うく俺もバラバラにされかけたけどね」


ミナが呆然としていると、天使の輪はゆっくりと戻って来て、小さな髪飾りへと形を変えて頭に貼り付いた。


その時、急に足元がグラつき始めた。


「ん……ちょっと何?!」


するとアークが何か叫んでいる。よく聞いてみると、倒れるぞ!って言ってるようだった。


考えてみれば当然である。だって、ダークテンタクルを倒したのだから。その手足の力が抜けるのは当然だ。


「ちょっと!どうすんのよこれ!」


「なんとかタコの脚から抜け出せないのか!」


アークは急いで駆け寄ってくれたが、間に合わない。


「ひいいいっ!アーークぅ!」


「しっかりしろ、ミナ!」


アークは私を守るように抱きながら、一緒に倒れていく。


下を見ると地面まで3メートルくらいあるので、普通に怪我をする高さだ。


「アーク離れて! あなたまで怪我しちゃう!」


だけどアークはミナの頭を守るように胸に抱く。ミナはアークの服をギュッと掴んで目を閉じた。


やがて、タコの脚はゆっくりと横倒しに倒れていく。


「嫌ああ! 死んじゃう!」


「しっかり俺に掴まってろ!」


タコの脚は、駐車場へと横倒しとなって、ズーンという大きな音を立てながら駐車している車たちを踏み潰した。


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