第25話 大恋愛
アイゼルが連れて来た男は、背の高い金髪巻毛の男だった。彼は大きな二重の目でジッと私を見ると、にこやかに微笑みながら女王の前へ進み出てきた。
「リリシア様……リメルでございます」
するとお婆ちゃんは大きく頷いた。
「おお、リメル。良く来てくれた。早速で申し訳ないが、ミナの首にあるこの輪を診てくれんか?」
リメルは頷くと、私のそばへとやってくる。
「それではミナ様……失礼させて頂きます」
「は……よろしくお願いします」
私が頭を下げると、リメルは小さく頷いた。そして少し前屈みになりながら、私の首を調べ始めた。しばらくすると、リメルの額に汗が流れた。
その様子をみたお婆ちゃんは、心配そうにリメルを見る。
「どうなのだリメル」
すると彼は顔を上げて振り返った。
「大変申し上げにくいのですが、強烈な呪いがかけられています」
「それはどんな呪いなのだ?」
「はい……。これはブラックバインディングという呪いで、別名、処刑人の首輪とも呼ばれています。対象者の魔力を吸い、それが一定量に達すると対象者の首を絞めてしまうというものです」
それを聞いたお婆ちゃんの顔は青くなった。
「……ミナによれば、1ヶ月で呪いが発動すると言われたそうだ」
リメルは私の方を向いた。
「吸い出す魔力の量を調整することで、期限を調整出来るのです。ミナ様はおそらく、毎日魔力を吸われてはいませんか?」
私は頷いた。
「毎日決まった時間に、この輪がギュッと絞まって……ウロコみたいな模様の色が変わっていくのよ」
それを聞いたリメルは小さく頷いた。お婆ちゃんは両手で顔を覆った。
「ああ、ミナ……お前は毎日、そんな酷い目にあっていたのかい……」
お婆ちゃんは私のそばまで歩いて来ると、ギュッと抱いてくれた。
「それでリメル……それを取ることは出来るのかい?」
「はい……もう少し詳しく見させて頂きます。それではミナ様……よろしいですか?」
私は頷いて、リメルのそばへと歩いた。するとリメルは近くにあった椅子を引いてきた。
「こちらへ座って……そう……それから肩の力を抜いてね……少し熱いけど我慢してください」
リメルは首輪をよく調べてポイントを探し、指を当てて、魔力を注ぎ始めた。
「うん、ここか!」
「ああっ!熱いっ!」
首輪から煙が立ち上る。首の周りがヒリヒリと焼けるような痛みが走った。私は顔をしかめ、歯を食いしばった。
「ああっ! ミナ!」
お婆ちゃんがそばへ駆け寄ってくる。リメルはお婆ちゃんの顔を見た。
「リリシア様……ミナ様の手を握ってあげてください!」
「わかったわ!」
お婆ちゃんは私の手の平を両手でギュッと握ってくれた。
治療?解呪?それはものの数分で終わった。首輪は熱を持っていたので、リメルは軽く冷却魔法をかけてから手を離した。
「ミナ様……よく頑張ってくれました」
お婆ちゃんは私をギュッと抱きしめて、頬ずりしてくれた。
「それでリメル……どうなの?」
「半分成功です。呪いの内部を破壊したので、毎日締め付けられたり、1か月後に首が絞まることはありません。しかし、黒い輪が首と癒着していたので、取り除くことが出来ませんでした」
それを聞いたお婆ちゃんは眉間に皺を寄せた。
「それは危険だね……もしセラフィムか魔力を注いだりしたら、首が絞まるかもしれないってことだろ? なんとかそれを取り除くうまい方法はないのかね?」
「やはり、ルカリエルが封印した天界の遺跡に行くべきかと」
それを聞いた私は首をかしげた。
「天界の遺跡……?」
リメルは頷いた。
「そこに術式を考案した天使ルカリエルの作った、呪いの解除装置があるはずです」
すると、お婆ちゃんは腕を組んで唸った。
「しかし、あそこに入るためには鍵が必要なのだろう?鍵なしで遺跡に入ることは不可能だ」
「しかし、このまま首輪を残したままでは、万が一のことがあります」
その時アークが手を上げた。
「リリシア様……鍵ならミナが持ってますよ」
みんなが驚いてアークを見た。
「それは本当かい?……ミナ、見せてみな」
みんなの真剣な様子を見た私は、ポケットに入れてあったタロットカードを取り出した。
「……鍵ってこれのこと?」
するとお婆ちゃんは驚いた顔をした。
「お前が持っていたのかい!」
驚くお婆ちゃんを見ながら、私は微笑んだ。
「そうだね……たしかにその鍵は、お前が持つべきものだったね……。きっとリリアが渡したのだろう?」
私は頷いた。
「それじゃミナ……あなたはこれからルカリエルの遺跡に行きなさい。あなたにはその権利があるわ」
お婆ちゃんは私のそばへ来ると、そっと髪を撫でた。
「それに、あなたには頼もしい仲間もいるものね」
お婆ちゃんはアークとノクスの顔をジッと見つめる。
するとアークが玉座の下から叫んだ。
「俺たちがいるぞミナ」
「絶対に守るの!」
私は振り返った。
「アーク……ノクス!」
二人はニコリと微笑みながら私を見つめた。
「ありがとう……二人とも」
私は涙が出そうになるくらい、嬉しかった。
「良い仲間を持ったわね、ミナ」
私は微笑みながらお婆ちゃんを見つめた。
「はい……最高の仲間だわ。二人には……何度も命を助けてもらったのよ」
お婆ちゃんは微笑みながら頷いた。
「それじゃミナ……気をつけて行って来なさい……詳しい場所はアークが知ってるだろう」
私は頷いた。
「ところで、ルカリエルって誰ですか?」
するとお婆ちゃんはきょとんとした顔をした。
「お前、ルカリエルを知らないのかい?」
「はぁ……えっと、何かマズかった?」
すると、お婆ちゃんはアークをギロリと睨みつけた。
「アーーーーク!」
「はいはい、ごめんなさいっ!」
「あなた、どうしてミナに話してないのよ!」
「いや、その、ちょっと、言うタイミングが無くて……」
「言うタイミングがないってねえ、あなた!」
私は2人の様子に驚いて、お婆ちゃんのそばへ駆け寄った。
「え、え、ちょっと待ってよお婆ちゃん! ルカリエルって一体誰なの? 私と何か関係がある人なの??」
すると、お婆ちゃんは私に正面から向き合って肩に手を置いた。
「関係大アリだわ、ミナ……ルカリエルはあなたのお父さんのことじゃない」
「え? 私のお父さんって、日本人よ?」
「だから人間になる前は、ルカリエルって名前の天使だったのよ」
「ちょっと待って、人間になる前って何???」
「おやおや、ミナは何も聞かされていなかったんだねえ」
私はウンウンと頷く。
「いいかい、驚くんじゃないよ。お前の父さんは昔ルカリエルと言って、遺跡を管理する天使だったのよ」
「え、ちょっと待って、父さんが天使??」
「そうだよ。天使ルカリエルと魔界のプリンセス・リリアは大恋愛の末、周囲の反対を押し切って結婚したのさ」
「ええええええ!!」
私は驚いてしまった。
「そう……あの子たちは駆け落ちしたのよ……」
「駆け落ち……」
そりゃあ、天使と悪魔が結婚すると言ったら、どちらも猛反対するだろう。お婆ちゃんは続けて言った。
「2人はすべての力を封印して、人間として転生する道を選んだのさ。そしてミナ……お前を産んだってわけ」
私はクラクラしてきた。
「それにしても、お前は天使の輪を髪かざりにしているじゃないか……私はてっきり知っていると思っていたよ」
リリシアはそう言うとやれやれといった感じで肩をすくめた。
「父さんが天使で……母さんが悪魔だったなんて……」
私は驚きを隠せなかった。そして、最後にもう一度だけ叫ばせてもらった。
「ええええええええ!!!」
◆
それから2時間ほど経ってから……ミナたちは城を出発した。
急な出発だと言われていたが、リリシアが先を急ぐようアドバイスをしたのである。
アークがミナをお姫様だっこして、ミナが子猫化したノクスを胸に抱いた。そして、空を滑るように飛んでいったのだった。
その様子を、廊下の陰からこっそり伺う男がいた。彼はミナたちが城を出たのを確認すると、廊下からそっと離れた。
「鍵はあの娘が持っていたのか……ヴェルグリーズ様へ報告しなければ……」
男はそうつぶやくと、暗闇の中へと消えていった。




