第23話 ミナの魔法
「カンコネルが死んだだと!」
セラフィムが叫んだ。
イサルフェは、セラフィムの部屋を訪れて、先日の戦いを報告していた。カンコネルの死を知って、セラフィムの怒りは相当なものだった。
「あの、リリアの娘はそんなに強大な力を持っているのか!」
「いえ……彼女自身はただの人間……握れば潰れる程度の弱い存在でした。まともに戦えばカンコネル様の敵ではなかったのですが……」
「奴はミナを完全に舐め切っていたのだろう」
イサルフェは頭を下げる。
「その通りでございます」
「イサルフェ、お前もお前だ。よくノコノコと帰ってきたもんだな」
セラフィムの嫌味も、イサルフェの胸には響かないようで、彼は涼しい顔をしている。
「私は元々戦闘向きではありませんし……
闘って死ぬより、情報を帰る方が良いと判断致しました。しかし、処分ならいかようにでも……謹んで御受けしますが」
セラフィムは眉間に皺を寄せながらため息をついた。
「……もう良いわい。それよりあの娘はなんであんな森の中へいたのだ?」
「リリアが魔導書を隠していたのですよ」
「魔導書だって?」
セラフィムはギロリとイサルフェを睨みつけた。
「まさか、雷魔法じゃないだろうな?」
するとイサルフェはニコリと微笑んだ。
「その、まさかです」
セラフィムは何か心当たりがあるのか、小さく頷きながら唸った。
「やはり、血は争えんということか」
「油断はなりません。ですが、コントロールも未熟で、魔法の種類も初歩の初歩です。熟練する前に始末した方が良いでしょう」
セラフィムは眉間に皺を寄せながら無言で頷いた。
「しかし、よくそこまで調べあげたな。どうやって探ったんだ?」
「そりゃあ、こっそり覗いていたのですよ、セラフィム様」
それにはセラフィムも少し驚いた顔をした。
「なるほど、大胆だな……お前の本気は良くわかった」
イサルフェは少し頭を下げながら微笑む。
「私も手ぶらでは帰れませんから」
セラフィムはニヤリと笑った。
「それで従魔はどうなんだ?」
「それが、カンコネル様との戦いで負傷したらしく、まる一日眠ったままです」
「治癒魔法は?」
「初級が使えるようで、ちまちま治しておりました」
「それで、お前は奴らの動きは把握しているのか? 今後どう動くと見ているんだ?」
「もちろん、彼女たちは必ずルカリエルの遺跡に向かうはずです」
「なぜそう断言できる?」
「今、彼女たちは魔界へ向かって出発しました。つまり、そこで遺跡の情報を手に入れるとすれば、ミナは、まずルカリエルの遺跡に関心を示すはずです」
「だが、根拠としては少し弱いな」
「もちろん推測の域は出ません。ですが、少し手は打っております」
「何をしたのだ?」
「ヴェルグリーズの部下と接触して、世間話をしながら情報を流しました」
セラフィムの目がギラリとした。
「堕天使ヴェルグリーズを利用するつもりなのか?」
「彼らは魔界の中でも、反女王派として勢力を集めております。そんな中で女王の孫でもあるミナの登場は気になるはずです」
セラフィムは顎に手を当てて思案する。
「ようし、その件に関しては、私の方から別ルートで工作しておこう」
イサルフェは頭を下げた。
「お前はあの小娘を追跡し、逐一動向を報告せよ。遺跡でも待ち伏せはバタネルにやらせる」
「承知しました」
イサルフェは、伏せた顔をニヤリとさせた。
◆
私たちは魔界の門をくぐってから、1週間くらいかかって魔界の首都、パンデモニウムに到着した。
アークの話だと、今いる森を抜けると、パンデモニウム城のある首都の中心部に到着するという。
アークは日暮れまで到着したいと言うので、3人は少し早足で進んでいた。
「ねえアーク……空を飛んで行った方が早いんじゃない?」
「馬鹿いうなって、この森で闘いながら魔法の技を磨くのが目的なんだぞ」
アークはわざわざ振り返って私の顔をジッと見ながら言った。
「お前の魔法の技をな!」
「ふえええ……」
「それにしても、お前が雷魔法使いに進化するとはなあ……驚いたぜ」
「う、うるさいわね! カッコいいでしょ? 私にピッタリじゃない!」
「しかし、もう少し他にも無かったのか? 使えそうな魔法がよ」
しかし私は首を横に振った。
「それが全然ダメなの」
「そっか……しかし、覚えた技はなかなか使い所の難しいものばっかだな」
すると私は顔を真っ赤にした。
「や、役に立たないって言うの?」
「いや……そういうわけじゃないけどさ……新しく覚えた技は3つあったろ?」
私は頷く。アークは続けた。
「一つ目は”エレクトリック・トラップ”だ。あれは水たまりなどへ電流を流して、一時的に蓄電させ、それを踏んだ奴を感電させるもいう技だ」
「いいじゃない、罠の使い道は多いでしょ?」
「だけど、あれは時間が経つにつれて放電して、最後は効果がなくなってしまう」
「いいじゃないの! 後片付けが不要だわ!」
私は必死で抗議する。
「2つ目はサンダー・アーマーだったな」
「あれは私を守ってくれる電気の鎧じゃない?何が悪いの?」
「いや、守ってくれるのはいいんだが、近くにいる俺たちが触れても感電するじゃないか」
「ま、まあ、そうだけど!」
「そうなると、俺たちはお前に何かあっても助けられない」
「うぐぐ……それは困るわね……」
「3つ目のサンダーワイヤーは使えそうだな。……でもなあ、これも敵を拘束するっていうより、縛り上げて感電させるって感じの魔法だしなあ……」
「う、うるさいわね! テーザー銃みたいに使えばいいでしょ?!」
「いや、文句ばっかり言って悪いが、決定的な攻撃手段に欠けるってところが、俺は心配なんだ」
私は大きなため息を吐いた。
「あーあ、私にも、何か魔道具が入ってればよかったのに」
するとアークは私の髪をちょっと触って言った。
「ミナにはその髪飾りがあるだろう。それも魔道具じゃないか」
「あ、これ?」
私は今や髪飾りと化している、この天使の輪みたいなものを思いだした。
「でも、最近、ウンともスンとも言わないのよね」
するとアークは何か言いたげな顔をしたが、何も言わなかった。
そこへノクスがやってきて、ミナ見上げるようにニコリと笑った。
「でもミナは、道具なんかなくても雷が撃てる」
すると私は指先をピストル型に変えて構えて見せた。
「これのこと?」
ノクスは頷く。
「道具は無くしたり、取られたりしたらもう終わり。だけど、身についた魔法は奪えないの」
「うーん、確かにそうだけど」
ノクスにそう言われると、なんだかそんな気がしてきた。まあ、これで良かったのかも。私は少し嬉しくなった。
「とにかくお前は、サンダーボルトの命中率を上げることに専念しろ」
「ば、馬鹿にしないでよ!これでも随分と当たるようになったんだから!」
私が顔を真っ赤にしながら抗議すると、アークは珍しくあやまった。
「ゴメンよ、ミナ。君のことを悪く言うつもりはないんだ。サンダーボルトの威力も相当なものだから、それは君の切り札になるだろうからね」
私はアークが珍しく私の事を褒めるので、意外に思って聞き入った。
「だけどね、君は感情に左右されやすいんだ。すると魔法の矛先がブレるんだ。そのうち僕やノクスを巻き込むことになるだろう。もうちょっと落ち着きを身に付けた方がいい」
それを聞いて私は頭に血が上った。
「この、馬鹿アーク!」
私はアークの顔面に拳を叩き込んだ。だがアークはひらりと拳を躱した。
「まてまて、ミナ! ほら、あれを見ろ!」
「もう!あれって何さ!」
「ほら、城だ、城に到着したぞ!」
私が顔をあげると、夕焼け空をバックに、真っ黒な城のシルエットが浮かび上がった。威厳のある黒い城……パンデモニウム城だ。
私はその夕日と城の美しいコントラストに感動していた。
「あそこに、私のお婆ちゃんがいるのね……」
アークは頷いた。
「ああ。もうすぐ会えるよ」
私の目から涙がこぼれた。父さんも母さんもいなくなったけど、まさかお婆ちゃんに会えるなんて……。
私の中に、白髪交じりの老婆のイメージが浮かぶ。
世の中の、たいていのお婆ちゃんは孫に優しい。
きっと、私のことも可愛がってくれるだろう。
私は期待で胸をワクワクさせた。そして、オレンジ色に染まった空と城を見上げて、ニコリと微笑んだのだった。




