第22話 魔界の門
母さんと秘密の部屋で出会った翌日。
私たちは祠を出発した。
いつも通り、アークは私をお姫様だっこして空を飛んだ。ノクスは小さな黒猫に変化出来ることがわかったので、私の腕の中に抱かれている。
「ちょっとアーク。あんたの箱には何が入っていたのよ?」
「え? 箱の中身? ……後で教えてやるよ」
それを聞いた私は不服そうな顔をした。
「なんでよ? 今教えてよ」
「そんなの後でいいだろ?」
「だって暇だもん!」
「暇だって??」
アークは大きな口をポカーンと開けたまま、じっと私を見た。
「馬鹿なのか?お前は暇かもしれねえけど、俺は今、お前を抱いて飛んでんの!」
「口は動かせるでしょ?」
「嫌だよ面倒くさい」
「えー! 教えてくれたっていいじゃない! ケチなんだから!」
私がすねて頬を膨らませると、アークは笑った。
「もうすぐ嫌でも見ることになるさ……ほら、着いたぞ」
「着いたの?」
「ほら、正面に大きな岩山があるだろ……あの下に魔界の門がある」
アークはそう言いながら岩山の前に着地して、私を地面に下ろしてくれた。そして、ノクスは私の腕から飛び出し、クルリと一回転しながら着地した。
「まず聞いておくが、ミナ。お前、もらった魔導書は全部読んだんだろうな?」
アークに聞かれて、私は胸を張って答えた。
「当たり前でしょ?あんたたちが寝ている間に、全部読んでしまったわ。すっごく退屈だったんだから」
それを聞いて、アークは笑った。
「そりゃ、良かった。寝てた甲斐があるってもんだな」
そう言いながら、魔界の門を開けた。そして私を振り返ってジッと目を見た。
「この門はある程度の魔力がないと入れなくなっている。弱い奴が入って死なないようにな」
「それじゃあ、ここから先は危険だらけってこと?」
アークは頷いた。
「魔獣がウロウロしてるからな。だが、今の俺たちにとっちゃ、話は別だ」
「別って、何が別なのよ?」
「つまり、お前のお母様の考えはな……魔獣を倒しながら戦闘訓練を積みなさいってことだよ」
それを聞いた私は肩をすくめた。
「なかなかスパルタ教育をする母親ね!」
それを聞いたアークも私の真似をして肩をすくめた。
「せいぜい死なないよう頑張ってくれ」
そんな話をしながら、私たちは魔界の門をくぐった。
門の中は森だった。周囲を見渡しても木ばっかり。何も見えない。
「あれ、中も森よ? 本当に門を潜ってる?」
「ああ、見た目は似てるけど、ここは魔界の森だ。油断してたら魔獣が襲ってくるぞ」
「えーっ!ホントに?」
私は、こんな所に魔獣がいるのか……そして魔獣とはどんな姿をしているのか気になった。
その時である。
私の首にある黒い輪が、急に締まったのだ。
「あああっ!」
私は思わずその場にしゃがみ込み、そして膝をついて地面へ倒れた。
「ミナ!」
アークとノクスが私のそばへ駆け寄ってくる。ノクスが私の背中をさすってくれた。
ギリギリと軋む音を立てながら、やがて締め付けは緩んでいった。
「はあはあ……」
しばらくすると、呼吸が出来るようになってきた。私は大きく息を吸った。
「ミナ、大丈夫?」
「おい、ミナ!」
うずくまって苦しむ私に、二人は優しくしてくれた。私は顔を上げて笑顔を作ってみせた。
「はぁはぁ、もう大丈夫よ……平気」
すると二人とも悲しそうに唇を噛んでいる。私は呼吸を整えていく。
「毎日、毎日締め付けられても慣れないものね」
「こんなの慣れる必要ない」
アークが背中をさすってくれた。息もだいぶ楽になってくる。
「いいかミナ。魔界に行けば何か解決方法が見つかるかもしれない。もう少しだけ、頑張るんだぞ」
私はアークをジッと見つめなから口をギュッと結んで、小さく頷いた。
「そうだ、気分転換に俺の武器を見せてやろう」
アークは立ち上がって腰ベルトの鞘から短剣を抜いた。
「短剣?」
「この剣の名は、ダークネスクリーブというんだ。闇魔法で刃を作り出している。刃の長さは魔力によって調整出来るんだが、長くすると魔力の消耗が激しいから、通常は短剣として使うんだ」
そういうと、アークは剣を抜いた。そして、前方に向かって飛び上がると、草むらへ石を投げた。するとそこには虎型の魔獣が隠れていたのだ。
「ええ!虎?!」
私は驚いて飛び下がった。
ギャオウ!
虎の爪がアークに飛ぶ。
だが、アークは宙を蹴って反転しながら軽く躱した。さすがは重力魔法の使い手だ。
「ほら、魔獣はこんなふうに待ち伏せするから気をつけるんだ!」
アークはまた、それを軽く飛んで虎魔獣の背中へ回り、背中をドンと踏むと、耳を軽く斬ってから地面へ着地した。すると虎の魔獣は飛び上がって森の中へ逃げ去るのだった。
「どうだ、俺の軽やかな身のこなしは!」
「へえ……凄いわねアーク」
「……しかし本当にすごいのはな、この剣はあらゆる光属性の魔法を斬ることができるってことだな」
「光属性の?」
「ああ。天使が使う魔法の多くが光属性だからな。そいつを斬れるってことは……天使たちにとっては、なかなか恐ろしい武器なわけさ」
「へえ~!」
私が感心していると、アークは魔剣ダークネスクリーブの刃を消して、腰の鞘へと収納した。
「じゃあ、次はノクスな」
すると地面でしゃがんでいたノクスが、ピョンと立ち上がった。
「うん、わかったよ」
ノクスがトコトコと先頭に立った。ノクスは母さんに魔力をもらったけど、アークみたいに外見が変わることはなかったみたいだ。
ショートカットに猫耳、小麦色の肌にクリクリっとしたにゃんこの目が可愛い!
「ノクスがもらったのはね、これなんだよ」
ノクスが片腕を上げると、手首にシルバーの腕輪が光った。
「アクセサリー??!」
ノクスは笑った。
「そうだよ!可愛いでしょ?」
「でも、それどうやって使うの?」
「それはね……こうするの……!」
するとノクスはパッと前へ飛んで腕を振ると、手首からワイヤーが飛び出して、茂みに隠れていた魔獣の脚を縛りあげた。
ブモオオオ!
草むらの中から、足にワイヤーを巻き付けたバッファローのような魔獣が現れた。
「えっとね、シャドウ・ワイヤーといってね、太さと先っぽを変えることが出来るんだ。敵を縛り上げたり、鞭として使ったりもできるんだよ」
「……す、すごいわね!」
私が驚いていると、ノクスは腰のホルスターからリボルバー型の拳銃を取り出して、そのバッファロー魔獣の”影”めがけてバンバンと射撃したのだ。
すると、影を撃たれたバッファロー魔獣は、金縛りにあったみたいに身動きが取れなくなってしまった。
「えーー! 影しばり?!」
するとノクスはニコリと笑った。
「この銃はシャドウ・リーバーっていうの。魔弾を撃つことができるんだ」
しばらくすると、バッファロー魔獣はまた暴れ出した。
「これで影を撃たれると、1発あたり2秒間動けなくなる」
「へ、へえ、すごいんだね……」
「これをね、影じゃなくて直接体に当てるとね……」
そういうと、今度はバッファローの体めがけてバンバンと撃った。
するとその被弾した箇所からヒトデ型の触手が飛び出して、体の一部を拘束したのだ。その触手の長さはおよそ20cmのものが5本。人なら1発で行動不能となるだろう。
バッファローの魔獣はブモオオオ!と叫びながら暴れていたが、ノクスが指をパチンと鳴らすと拘束が解除されたので、そのまま森へと逃げ去った。
「へえ……なかなか怖い武器ねえ……でも、リボルバーだから6発しか撃てないの?」
「ううん。これは弾数じゃなくて、6種類の魔法を設定できるってことらしいの。今はシャドウ・バインドしかないの。弾数は魔力がある限り尽きることはないよ」
「へえ!じゃあまた機能を増やせるのね?」
「えっとね、私が成長したら増やせるの。自分の得意でない魔法でも記録できるって」
「それってすごい魔道具じゃない……」
「それで、ミナはどんな武器をもらったんだ?」
アークとノクスが興味深々に見てくる。私は彼らに残念なお知らせをするしかなかった。
「えーとね……私の箱には武器はなかったわ……」
「じゃあ、何がはいってたんだ?」
「えーっとね、魔導書が3冊……」
すると、アークが笑い出した。
。
「あははは、ミナに武器を持たせると、自分を傷つけるかもしれねえからな」
「あー馬鹿にしたな!」
私は頬を膨らませて拳を振り上げた。だがアークはそれを笑って躱す。
「で、どんな魔法をおぼえたんだ」
「教えてあげないわ!」
「どうせ土魔法だろ?」
「ちがうもん!」
拳を振ってもアークには当たらないと悟った私は、怒ってさっさと歩き出す。
「もう、なんで私にはカッコいい武器がないのよ!」
私は悲痛な叫び声とともに、大きなため息を吐いたのだった。




