第20話 白い糸
だが、カンコネルはそう簡単にやられるほどヤワではなかった。
「くっそう!ちょこまかと……!」
カンコネルは顔をあげて、すぐさま立ち上がった。
「お前たち、よくもこの私を怒らせたな……!」
カンコネルの体から、凄まじい風の渦が巻き起こった。その吹き荒れる風に、私とアークは吹き飛ばされそうになる。私は風から身を守るために、硬い土壁をいくつか作り出した。
アークは冷や汗を流しながら、私を方を見た。
「……逃げるぞミナ!」
「逃げるってなんで?もうちょっとで倒せるところだったのに!」
「あいつ、力を隠していたんだ! 今度は本気で殺しにくるつもりだぞ!」
「え?いままで手加減してたの?」
「いや……力の解放って奴だろう。今までとはけた違いの力を発揮できる代わりに、身体的な疲労が倍増するみたいな、リスクのある戦い方だ」
「嘘っ……それじゃ、どうしたらいいの?」
するとカンコネルは叫んだ。
「何をゴチャゴチャ言ってる!もうお前らを逃がしはしないぞ! ソニックラッシュ!」
カンコネルはそう言うと、瞬間移動かと思うほどアークに急接近して、アークの顔面に拳を叩き込んだ。
「グ……!」
アークが吹き飛ばされそうになるのを、重力魔法で必死に耐える。
「ハハハ! 無駄だ、無駄! こうなったらもう、手加減は出来んぞ! 食らえ! 真空斬り!」
カンコネルが手を振るうと、目に見えない斬撃が空間を裂いた。
「ぐあああ!」
アークの体のあちこちから皮膚が裂け、血が噴き出した。
「アーク!」
私は青くなった。アークは血塗れになって倒れている。
「早く手当しないと!」
私はアークに駆け寄ろうとしたが、その時カンコネルが風で加速して、私の目の前に出現して、私の胸をドンと押した。
「キャア!」
私は地面へ尻もちをつく。その私の胸に、カンコネルが右足で踏みつけて来た。
「い、痛いわね! 足をどけてよ!」
するとカンコネルは額から血を流しながら、私を睨みつけた。
「どけてください、だろ!」
「ああっ!早くどいてよ! でないとアークが死んじゃう!」
「お前の従魔が死のうが、私の知ったことか!」
カンコネルはニヤリと笑った。
「さっきの技……真空切りはな、空気を一瞬だけ消失させて、内側から破壊するという荒技なのだ……あいつの体はもうボロボロだ。もう起き上がれん!」
私はカンコネルに足で押さえつけられたまま、顔だけ横に向けてアークを見た。
「嫌だよ、アーク!」
カンコネルが私の胸に乗せた足に、体重をかけてくる。
「ぐはっ!」
「お前は自分の心配をした方がいい」
「うう……苦しいっ」
「ハハハ……もう逃げられない」
カンコネルは踏みつけていた足を離すと、しゃがみこんで私の首を掴んだ。
「ああ……ゲホッ!」
そしてそのまま立ち上がると、私の体を大きな木に投げつけた。
「ああっ……!」
私の背中が、大木の幹に衝突した。背中を強く打って、息ができない。私はそのまま地面へと倒れ込んだ。カンコネルは私のすぐそばにまで近づいて来て、ニヤリと笑った。
「足二本で勘弁してやる」
カンコネルが冷たく言い放つ。彼は腕をあげて魔力を集め出した。
「い、嫌っ……!」
私は目つぶって顔を背けた。だけど、その視線の先にはアークとノクスが横たわっている姿が見えたのだ。
「ああ、アーク……ノクス……」
私の両目に涙が溢れてくる。その時ふと、私の胸の中に強い思いが湧き起こった。それは、仲間を助けたいという強い思いだった。
「私がここで倒れたら、きっと彼らは死んじゃう。そんなの、いいわけない!」
私の目に力がこもってきた。歯を噛みしめながら、指先に魔力を集める。無駄かもしれないけど、やらなければならない! 私は強い思いでカンコネルを睨んだ。
「なんだその目は!反抗的な目をしやがって……足を斬るのをやめて……その生意気な腕を斬ってやろうか!」
「うるさいわね! あんたに何がわかるっていうのよ!」
「お前はもう逃げられないってことなら、わかっているさ」
.
「斬れるもんなら斬ってみないさいよ! 宝だかなんだか知らないけど、手伝ってなんかあげないんだから!」
するとカンコネルはハハハと胸を反らせて笑った。
「何を言っている!お前の意思など関係ない。ただ、縛り上げたまま、宝探しを手伝わさせられるだろうよ」
その時、振り上げたカンコネルの右腕に、巨大な風の刃が形成された。彼の肩から血がポタポタと血が流れ落ちてくる。
「見ろ!この右肩を……あの従魔め、よくも切り裂いてくれたな」
私は歯を食いしばりながらカンコネルを睨みつけた。
「お前を斬った後で、たっぶり可愛がってやろう」
「それだけはやめて!」
カンコネルは首を横に振った。
「終わりだ小娘! ウインドカッター!」
「嫌あっ!」
カンコネルが腕を振り下ろそうとしたとの時、私は祈った。お願い、魔力よ集まって!私はそう指先へ念じた。
その時である。
「うっ?!」
カンコネルの腕が、突然止まった。
「う、腕が……?!」
カンコネルが横目で右腕を見ると、手首に白い糸が巻き付いているではないか。それを見た私は、体中に電流が走ったような気力が溢れ出し、全身がブルブルと震えた。
「あーっ、この糸は!」
カンコネルは怒りに任せて、腕を引いた。
その時。私の魔力が指先に集まった!
今だっ!
私は体を起こして腕を伸ばした! そして、大きく吠えた!
「おおおおおっ! カンコネルっ!!」
「なんだ小娘!」
カンコネルは怒りに任せて、糸を引きちぎった。
その時、指先をカンコネルの胸先へ届かんばかりに伸ばして、私は魔法を打ち込んだ!
「サンダーボルトーッ!!」
その瞬間、私の指先から青白い雷光が迸った。
「ぎゃああああああっ!」
「うおおおお!」
カンコネルの体が激しく痙攣して、体中から煙が立ち上がった!
私は歯をギリギリと鳴らした。電流はグングンと力を増し、目は血走り、鼻血が噴出する。
そしてすべての魔力を出し切り、指先から放出された白雷が終わった後……カンコネルはゆっくりと地面に倒れた。
「はぁ……はぁ……」
私は膝をついた。
「やった……のかな……?」
すると目を覚ましたノクスが、ボロボロの体で私のもとへヨロヨロと駆け寄ってくる。
「ミナ! 大丈夫?!」
「うん……なんとか……私よりアークをお願い……」
「うん……わかったわ」
ノクスは初級の治癒魔法しか使えないらしいんだけど、それを何度もアークにかけた。
「アークはね……私を先にミナの元へ飛ばすために、彼の魔力の半分を私にくれたの」
「え?そうだったの?」
ノクスは頷いた。
私はアークを見つめた。
きっとアークは、ノクスが影渡りで瞬間移動できることを知って、自分の魔力を分け与えてから、私の元へ送ってくれたんだわ。
それを聞いた私は涙がこぼれた。
「アーク、お願い……目を覚まして……」
ノクスが根気強く治癒魔法をかけ続けていると、私の祈りが通じたのか、アークが目を覚ました。
「ガハッ……ハア、ハア!」
「アーク!」
アークは荒い息を吐きながら、薄っすらと閉じかけた目でミナを見つめた。
「ミナ……無事だったか……」
「馬鹿なの?そんなに重傷なのに人の心配なんかして!」
私はアークの胸元へ顔をつけて号泣した。それを見たアークは、私の頭に手を置いて、優しく撫でてくれた。
そしてアークは、倒れたカンコネルを見つめながら、大きく息を吐いた。
「それにしても良く勝てたな……あいつの真空斬りを受けた時は……もう全員ダメかと思ったぜ」
アークは大きく息を吐いた。
「それなんだけど……私がカンコネルに斬られそうになった時、……どこからか、白い糸が飛んで来て……カンコネルの右腕を縛ったのよ」
「右腕を縛った?それで奴は、風の刃を撃つのが遅れたのか」
私は頷いた。
「その隙に私は立ち上がって、あいつの胸元へサンダーボルトを放ったってわけ」
「至近距離でのサンダーボルトか……間一髪だったな……だけど、その糸は一体誰が?」
アークはアゴに手を当てて唸った。
「案外、木の蔓か何かにひっかかっただけかもしれねえぜ。ま、いずれにせよ、お偉い天使様でも……運命のいたずらばかりは読めなかったみたいだな」
◆
3人が体を休めながら語り合っていると、森の奥で人影が揺れた。
その男は金髪の長身で、クリクリとした大きな青い瞳をしている。
それはイサルフェだった。
「ふふ……面白いことになって来たね」
彼は、倒れたカンコネルと、疲弊したミナたちを交互に見て、クスクスと、楽しそうに笑った。
「だけど……従魔のお二人には、もうちょっと頑張ってもらわないと。バタネルは……もうちょっと手強いと思うよ」
そう独り言を言うと、イサルフェは森の中へと消えていった。




