第19話 追いつめる
「うおおおお! カンコネル! よくもノクスを!」
私は走った。カンコネルに、この怒りをぶつけたい一心で。
だけど。
一瞬で捕まってしまった。
チーン。
「はははは!この馬鹿娘! たかが人間ごときが上級天使様に逆らうとは!」
私は涙していた。
「ううう……私、そういえば弱かったんだ」
「馬鹿め!今頃気付いたのか?お前の魔法は全然使えないじゃないか。先ほどの攻撃だって、あの従魔のサポートがあってこそだろう。お前一人なら何にも怖くないぞ!」
カンコネルは私の髪の毛を掴んで持ち上げた。
「こいつめ……少しお仕置きをしないといけないな」
「嫌……やめてよ!」
カンコネルは、私がポカポカと両手で叩くと、平気そうな顔をしながら、歯を剥いてニヤリと笑った。
「ハハハ、蚊でも刺したのかと思ったぜ」
その時、上空から大きな岩がヒュンヒュンと落ちて来た。
驚いたカンコネルは、私を髪の毛を掴んだまま、そのまま真横へ飛んで避けた。そうなると掴んでいるの髪が引っ張られるので、私は鉄棒にぶら下がるみたいに、彼の腕にぶら下がった。
「痛ててて!痛あいっ!」
すると、大岩が3つほど地面へ衝突し、地響きを立てながら大穴を開けた。見上げると、いつの間にか、百個くらい?わかんないけど、たくさんの岩が空に浮かんでいた。
「誰だお前はっ!」
カンコネルが腕を振り上げるたびに、私の髪が引っ張られる。
「あなた馬鹿なの? 髪の毛をひっぱらないで! 髪は女の命なのよ!」
するとカンコネルはイライラした様子で私を睨んだ。
「お前はちょっと黙ってろ!」
降り注ぐ岩の雨に、カンコネルは翼を羽ばたかせて逃げ回る。だが、周囲の木々は切断されてもうなかったから、カンコネルは自由に飛び回れた。
「ちょっと一体何が起こっているの?」
私が上空を見上げると、空から男の子が降ってきた。
「ミナ!助けに来たぞ!」
長剣を抜いたアークが落ちて来る!
「アーク!」
私は笑顔になって叫んだ!
「ミナを離しやがれ!」
アークの剣がカンコネルに飛んだ。だがカンコネルは翼を羽ばたかせて飛び退く。
「邪魔するな小僧!」
カンコネルは片手を振って風の刃を飛ばす。それをアークはひらりと宙返りをしながらそれを躱した。
「ミナ!首をひっこめろ!」
「く、首???」
「腕もだ」
私は腕を離して地面に立つと、目をパチクリしながらカンコネルを見た。すると、頭の上で銀色の光がとおりすぎたのだ。
「えっ!」
すると黒い髪の毛がヒラヒラと舞って風で飛んだ。そして急に頭が自由になった気がすると、体はどこかへ連れ去られるように宙を浮いた。
「ア、アーク……!」
顔を上げると、アークが私をお姫様抱っこをしながら空を飛んでいるのだ。そして、カンコネルを見て、アッカンベーをした。
「おのれ、よくもやったな!」
人質を奪われたカンコネルは、手に持っていた髪の毛の束を地面へ叩きつけた。それを見た私は能面のような顔になった。
「え……」
恐る恐る自分の髪の毛へ手をやると、そこには長かった髪はもうなかった。
「あああーー!!」
アークを見ると、彼はニコリと微笑んだ。
「へへへ、救出成功っと!……あ痛っ!」
私は思わずアークの腕をつねっていた。
「あ痛っじゃないわよ、このクソ、アーク!」
「助けに来たのに、何、その仕打ち?」
すると私が短くなった髪の毛をつまんで見せた。
「ああ、私の……命より大切な髪の毛が!」
「本気で言ってんのかよ!」
アークは肩をすくめた。
「それよりアーク!ノクスが怪我で大変なの!なんとかしてよぉ!」
私はアークに必死にお願いする。するとアークは私の顔を見てニヤリと笑った。
「お前があの天使とおしゃべりしている間に治療しておいたぞ」
「本当なの?」
私は嬉しくてパアッと顔を明るくした。
「そうだ、機嫌が直ったか」
私は頷いた。
「だけどノクスはもう戦えない。あの天使は俺たち2人で倒すぞ」
私がアークの顔を見ながら、力強く頷いた。
「いいわよ、私も頑張るわ!」
「良し! 俺がミナにお願いしたいのは、たった一つ。とても固いアース・ウォールを作って、あいつの退路を妨害してくれ」
「固いアースウォール?」
アークは頷いた。
「じっくりと魔力を込めてから、アースウォールを作るんだ。出来るか?」
「あったりまえよ! 出来ないじゃなくて、やるわよ!」
「それは頼もしい! それじゃ行くぞミナ!」
アークはそう言うと、私を空中へ放り投げた。
「きゃあ、ちょっと!アーク!」
私は落ちると思ってとても慌てたけど、実際はフワッとゆっくり地面へ降りた。
「あー、びっくりした」
私は顔をあげてカンコネルを見る。するとアークとカンコネルの戦闘は、すでに始まっていた。
アークの戦闘は重力魔法。
上空に、あらかじめ浮かせてある岩を、タイミングに合わせてカンコネルに落としている。さっきとは違って、今度は当てる気で岩を落としている。
そして、隙を見て剣で斬りかかるのだ。
これにはさすがのカンコネルも苦戦していた。
「いっけない、私も手伝わなきゃ!」
私は強力に魔力を込めながら、カンコネルが逃げる方向に固い土壁を展開した。
「アースウォール!固め!」
すると、ドンドン!って感じで、壁が立ちあがった。
「なんだこの壁は! 邪魔だ!」
アークに押されて後退りしていたカンコネルは、腕を振って風の刃で斬り裂こうとしたが、なんと、その刃がはじき返されてしまった。
「あっ!」
カンコネルは壁を破壊出来ずに衝突してしまう。
「ぐうう!」
そこへアークが斬り込んでくるので、カンコネルは壁から離れるように逃げたが、右手を剣で斬り裂かれてしまった。真っ赤な血が風に舞う。
「おのれ従魔め!」
カンコネルは飛び退いて、アークと距離を取ろうとするけど、私がそうはさせない。逃げ道を硬い土壁で塞ぐのだ。
「ああっ!またこの邪魔な壁が!」
カンコネルは悪態をついたが、アークの剣が迫ってくるので逃げるしかない。
だが、そこへも私が硬い土壁を展開する。するとついに、アークの剣が、カンコネルの左太ももへ突き刺さったのだ。
「ぐわああっ!」
カンコネルは、アークに向かって風の刃を飛ばすが、アークはそれを素早く躱してカンコネルの腹に蹴りを撃ち込む。カンコネルの体がエビのように曲がった。
「ぐふううっ……」
それでもカンコネルはヨロヨロと逃げようとしたが……。私が硬い土壁で退路を断つと、とうとう地面へ倒れ込んだ。
私は目をギラリとさせながらアークを見た。
「いけるわ!あの天使を倒すわよ!」
私の顔に笑みがこぼれた。




