第18話 白雷
カンコネルのボイド・サイクロンという技は、えげつない技だった。
大地を切り裂き、土を巻き上げ、木をなぎ倒す……。そしてそれらすべてを、渦の中へ吸い込んで、あらゆるものをかみ砕くのだ。私の髪が、渦に吸い寄せられて波うった。
「ミナ……しっかり掴まって!」
「キャア!」
少女は私を抱いたまま、大木の幹を蹴って上空へと飛んだ。驚異的なジャンプ力である。
そして、切断されて宙に浮いていた丸太に飛び乗ると、サーフィンのように風を滑った。
「ちょっと! う、うそでしょ??!! ちょっと! ちょおおおお!」
私は、このままではあの渦に吸い込まれて、粉々にされてしまうと思った。
しかし、少女は私を抱いたまま、丸太に乗って風を滑り、渦の外周を走り始めたのだ。
「そんなことってある?!」
私にはとても信じられなかった。だけど、実際にそうなのだから仕方がない。
私たちは渦の中心に向かわず、渦の外側を滑るように走って、カンコネルの方へ向かった。
「ミナ! サンダーボルトを撃って!」
「ええ?」
私は首をブルブルと振った。
「駄目よ! あれはコントロールが効かないの!」
「大丈夫……この、渦の外周めがけて撃つのよ!そのまま渦を伝ってあいつのとこまで流れていくから」
「ほんとに?」
私は3人の天使のことを思い出した。あの時も、彼らが打ち出した竜巻を伝って電気が走ったのだ。
私は指でピストルの形を作った。渦の向こうに、水色の髪が揺れている。カンコネルは、私たちが渦の回りを滑ってることに気付いていない。
「ようし! いくわよ!」
今がチャンスだ。私は指先と渦の外側と……水色の髪とを重ねた。
「サンダー! ボルト!」
私の指から青白い雷が迸った!
電流は渦の外周を巻くように流れて、カンコネルへと飛ぶ! 渦が雷光で輝き、空気を切り裂くような光の筋に、さすがのカンコネルもその危険に気が付いた。
「な、何が来たんだっ!」
カンコネルは技を解除して逃げようとしたが、間に合わなかった。白雷は彼の腕を伝って、全身へ強烈な電流が流したのだ。
「ぐぬぬ!」
だが、この程度で倒れるカンコネルではない。だが、彼は歯を食いしばりながら、ガックリと片膝をついた。
だが、技が解除されたせいで風向きが変わり、私たちが乗った丸太がカンコネルに向かって飛んだのだ。
「キャア! カンコネル!」
私の叫び声を聞いたカンコネルは顔を上げた。
すると、彼の顔面に、私たちが乗った丸太がバゴーンとぶち当たったのである。
「うわあ……」
するとカンコネルはドサリと背中から倒れた。
「ごめんなさいっ」
カンコネルが倒れると同時にあらゆる風が止んで、森は急にシーンとなった。
風がなくなると丸太も落ちて行くので、少女は丸太を蹴って飛び上がり、一つクルリと回転しながら土の上へ着地した。
私は改めて、少女をギュッと抱きしめた。
「ありがとう!ホント助かったよ!」
「べ、別にいいのよ」
すると彼女は少し照れながら、私を地面へ下ろしてくれた。
「誰に頼まれてここへ来たの?」
「アークに言われて……。私は影を通って瞬間移動できるから……。間に合って良かった」
彼女はそういうと微笑んだ。
「アークは?アークはどうしているの?」
「アークは空を飛んでこっちに向かってるよ。もうすぐ着くんじゃないかな……」
「でも、どうして助けてくれたの?」
「アークが、ミナは私の御主人様になるのだから、助けてって」
「ご主人様??」
「あなたまさか、祠で眠っていた従魔ちゃんなの?」
すると少女はコクリと頷いた。
「うっそー、可愛いっ!」
私は少女を抱きしめて、ほおずりした。
「あなた、名前はなんていうの?」
すると少女は首を横に振った。
「アークが、ミナに名前をつけてもらえって……」
「私に??」
私は驚いて、目を丸くした。
「ムリムリ無理! 私、そんなセンスないって」
「でも、従魔になるには、主人から名前をもらわなきゃいけないの」
「え、そうなの?」
私は少しだけ考えた。私が彼女から感じたイメージは影……夜……そんな感じ……。
「じゃあ、ノクスっていうのはどうかしら?」
「……どういう意味なの?」
「夜って意味の言葉よ。あなたは影から飛び出して来たし、夜が似合うかなって」
「うん……ノクス……いい名前」
「それに、夜の女神もノクスって言うらしいわ。女の子だし丁度いいでしょ?」
すると、ノクスの体が青白く輝いた。ノクスは驚いて自分の手の平を見つめた。
「すごい、魔力が漲ってくる……これが、ご主人様の力……」
「えっと、契約はうまくいったのかしら?」
私は猫耳の少女を見た。
金色の瞳が、じっとこちらを見つめている。彼女は小さく頷くと微笑んだ。
「ミナ……よろしくね」
私は笑顔でノクスを抱きしめた。
「わあ、うれしい!ノクス!いつまでも一緒にいてね!」
するとノクスは照れていた。
「......うん」
私たちは、見つめ合って、微笑み合った。
その時、猛烈な風の刃が飛んだ。それを見たノクスが私を押し倒すように飛んだ。
「あ、危ないっ!」
だが、風の刃はとてつもなく早く飛んで、ノクスの背中を切り裂いた。
「ああっ!」
私はノクスと共に地面へ倒れた。私はすぐに起き上がってノクスの傷を見た。血がドクドクと溢れていた。
「ノクス!」
だけど、私の呼びかけにもノクスは反応しなかった。
私は顔を上げて風の刃が飛んだ方向を見た。するとそこには、ボロボロになったカンコネルが立っていた。
彼は私の顔を見ると、目を見開いて笑った。
「次はお前の番だ、ミナ!」
私は髪の毛を逆立てて怒った。
「やってみろよこの、クソ野郎!」
私は怒りに震えていた。
カンコネル!
こいつだけは絶対に許さない!
私らカンコネルに向かって走り出した。




